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最強魔女と狼娘  作者: 双碧
第一章
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魔女

 シアと一緒に暮らすようになり、季節が移ろい雪が降る頃になった。


 魔法について教えてもらったり、料理などの家事全般、他には文字などの知識も教えてもらった。

 魔法に関しては素質が無い……シアが言うには『使えないことは無いけど、一生を費やしてようやく小さな火を起こせるレベルだよ』らしいので諦めている。


 ともかく毎日新しいことを見つける日々で非常に楽しい。

 特にまだまだシアに関しては分からないことが多いので少しずつ知れたら、なんて思ってもいる。

 私が家事を覚えてからまた起きるのが一段と遅くなったりしているのだけど。

 ため息を吐きながらシアの部屋の前まで移動する。


「シア!もう朝だから起きてください!」


 私がノックしながら大声でシアを呼ぶと、寝ぼけたような声で。


「うーん、もうちょっと~」


 ……無敵の通り名とはなんなのか、疑問に思うレベルの反応です。

 これではただの寝ぼすけなお姉さんがいいところだ。


「駄目です!昨日お客さんがくるって言っていたではありませんか!」

「大丈夫大丈夫」


 謎の安定感を持った返答に少しカチンと来る。


「何をもってそう言えるんですか!」


 少し声を張り上げると、シアはふふと笑いながら。


「分かってるもん、私のこと」

「そういう問題では無いでしょう!?」


 今日はどうやって部屋から出てきてもらおうか、何て考えていると。


「フォスは相変わらず人間みたいな生活送っているのね」

「むむ、その懐かしい呼び名で呼ぶあなたはグレイね」


 白銀の髪が腰下まである魔女らしい服装の豊満な姿の女性が突然現れ、シアがようやく部屋から出てきた。


 フォスはどうやらシアの名前らしいけど……

 この人は一体誰なのだろう。


 突然現れたことはシアで経験済みだからそこまで驚かないけど。

 それでも私が反応に戸惑っている間にも、シアとグレイと呼ばれた女性が話を続けている。


「全く、寝なくても問題ないでしょうに。特にフォス、貴女は」

「いや、一応人間だったわけだし、そういうの大事でしょ?それに寝るのはやっぱり好きだし」

「それで約束何回すっぽかされたことか分かってるのかしら」

「一万と三千五百二十一回だよね。覚えてるし分かっているわ」

「なら改善して欲しいものだわ」

「無理かな。それとお久しぶり三十七年ぶりかな?」

「貴女が年数を覚えているなんて珍しいわね」

「いやいや」


 寝なくても大丈夫だったことや、その他色々と初耳な事実がてんこ盛りで目を丸くする。

 そんな私を女性は一瞥し。


「それより貴女も弟子をようやく取ったのね」

「弟子じゃないよ。同居人」

「対等な相手ってわけ?そうは見えないけど」


 少しぶしつけな意見を言われ、身が竦むがそのまま挨拶を交わす。


「は、初めまして。獣人のアズリエナと申します」

「どうも。フォスの同期。ハングレイシア・パスビムよ。ハンでも、フォスが言うようにグレイでも構わないわ。さあ、二人もいらっしゃい」


 青紫の髪を肩より少し伸ばしたぐらいの少女と、茶色の鬣のような髪をした獣人の少年―見た目こそ青年だが獣人では少年に値する―がグレイの背後から出てくる。


「「初めまして」」

「こっちの娘が弟子のヴァイオレット。こっちの子がイージス。最近拾ったの」


 グレイの説明を受けて一礼する少女と、そっぽを向く少年。

 即座に少女に頭を下げさせられる少年は少し見ていて微笑ましい。


「噂には聞いていたよ。この子たち、期待の新人だって」

「そんなところね。まあ、私が扱いているからっていうのもあるけど、本番はでてってからだからね」

「知ってる、そういう育て方だもんね」

「まあ、私にここまで立ち話させるあんたには敵わないけどさ」

「それもそうだね。じゃあ居間に行こうか」


 シアは私の腕を引っ張り一緒に連れて行かれる。

 確かに朝ご飯は作ってあるから一緒には行くのだけれど、どうしたのだろう。


「フォスって言うのは私の幼名でね。グレイとは腐れ縁なの」

「そうなんですね」

「グレイは鏡の魔女とか呼ばれている大魔女で厳しいから失礼は駄目だよ。まあ何しても私が何とかできるから大きく問題にはならないけども」

「大丈夫です」


 それだけ言うとシアは私を解放してにこりと笑い居間までスタスタと進んでいく。


「そういやあの悪魔の話はやっぱりまだ受け入れてないのかい?」

「興味ないもの」

「やっぱりかい?」

「ええ……あ、しばらく二人きりで話したいから好きにしてて」

「そういうこった。色々といい経験になるものも多いだろうから家の中見せてもらいな」

「では、案内を――」

「結構です。大体把握はしておりますし。それに貴女から魔法の力を感じませんし」


 唐突にヴァイオレットからなじられる風に突き放されてしまう。

 思ったよりも印象が悪かったみたいだ。

 困ったなぁ、なんて思い戸惑っていると。


「こら!一応フォスの友人だ!ご厚意を無碍にするな!」


 グレイが一喝したしなめると、即座にヴァイオレットは一礼をし。


「先ほどは大変失礼な発言を致しました。お許しください。出来れば案内を授かりたく存じます」


 ……やっぱり少し反抗してるよね、これ。

 少しその様子を感じながら二人を部屋に案内することになった。

 シアとグレイが見える範囲までは大人しく付いて来てくれていたのだけれど、角を曲がるや否や。


「……私は貴女を認めていないし。勝手に見させてもらうわ」


 二人とも好き勝手に部屋を見始める始末。

 うーん、まあ元奴隷だし、シアと対等、なんて思ったことは無いけれど。

 流石にこういうのはどうなんだろう。

 シアとしても私に見ていてもらいたかったのだろうか?

 思い出してそういうことは何一つ言われていなかった。


 ……とはいえ。


「その部屋は駄目です」


 危ないといわれた部屋だけは忠告しておく必要があるはず。


「……貴女がそれを決める権利はないはずよ」

「シアが決めています」

「シアって師匠の友人の大魔女様のこと?ふーん、そう呼ぶんだ」

「だから駄目だって」

「うるさい」


 その言葉と共に紫色の茨がヴァイオレットの手から伸びる。

 私はとっさにさっと身を翻してなんとかかわしきる。


「あら、思ったよりもやるじゃない」


 茨が消えたかと思うと彼女は扉に手をかけ中に入っていってしまった。

 ついでイージスもそれに続きかけ。


「きゃああああああ!?」


 中から悲鳴があがる。

 やっぱり!


 私がそう思い中を覗くとヴァイオレットが鎧に首をつかまれ剣を突きつけられていた。

 イージスは魔法を放っていたが、効果は薄そう。


 ――確かアレは……そう悪魔の鎧だったはず。


 近くの魔力に反応して動き出し、半自動的に対象を殺害する魔法具。

 魔法耐性が非常に高く、物理にたいしても大抵無効化するとか。


 でも、今の目的なら!


「はああああっ!」


 私は勢いよく駆け出すと悪魔の鎧に肩口からタックルをかます。

 ヴァイオレットは解放されたが、全く微動だにしていない鎧。

 私はその反動で肩が裂けて血がでるのを感じたが、無視して私が掛かったことのある魔法陣を鎧の足元に仕掛ける。

 そのままヴァイオレットを片手で抱えて部屋を出て扉を閉めた。


「ふぅ………」


 肩がずきずきといたむけれど、大事無くてよかった。

 私がヴァイオレットを下ろすと彼女は少し赤面しながら。


「あ、ありがとう、ございました。あんなこと言ったのに助けてくれるなんて思っていなかったから」

「それは確かにそう思うけど、目の前で助けられる人を助けないのは私としては許せないから」


 私は照れ笑いしながらそういう。


「変わってるわね、貴女。うん、さっきはごめん。イージス共々これからよろしくね」

「はい」


 最初とは打って変わって朗らかに挨拶され少し面食らう。

 魔女の中では実力というのはかなり大事な内容なのかな。


「ところで、あれはなんだったのかしら……初めて見るものだったのだけど」

「あれはシアの集めている魔道具の一つで――」


 シアに話された内容を思い出しながら説明をしていくと、顔を真っ青にしていくヴァイオレットとイージス。


「だから俺の破邪魔法も効かなかったってわけか」


 さっきまでずっと喋らなかったイージスがそう呟く。


「はい、そういうことに。あの部屋は見ただけで呪われて死ぬような代物もわんさかあるらしいので入ってはいけないんです」

「そ、それは本当に悪かったと思っているわ」

「となると師匠ぐらいか、許可無く入っていいのは」

「恐らく……」


 正直魔女の力の格付けなど分からないので適当に答える。

 強そうなのは分かっていたし。


「全く義姉さんは人の話きかないからな」

「なんですって?!貴方だって止めなかったでしょうに!この!」


 唐突に姉弟喧嘩を始められ戸惑っていると、グレイとシアが向こうからやってきた。


「またやってるのかい?」

「いえ、これはその……」


 呆れたようなグレイに、思わずといった様子で動きを止める二人。


「さっきはありがとうね、アズリエナちゃん。ウチの子らは自分が認めないと納得しないからね」

「いえ」


 どうやら一応ちゃんと監視下にはあったようだった。

 その言葉を聞いて二人は少し顔を青くしている。


「まあ、いい経験になっただろうし、こちらとしては願ったり叶ったりってところ」

「勝手にウチのアズを教育の道具にしないでよ」

「悪い悪い、寝坊の対価としてもらっておいたよ」

「ぶーー」


 いつにもまして子供のような仕草をとるシア。

 やっぱり私よりも同期のほうが気を使わずに済むのだろうか。


「とりあえず用事は終わったけど、どうしたい?」

「もう少しアズリエナとお話させてもらってもいいですか?」

「と、いうわけだけど、どうだい?」

「私はアズがいいならいいけど」

「大丈夫です」

「決まりだな。じゃあ私らは居間でお茶でもしてるから、適当に話し続けてなよ」


 ひらひらと手を振りながらグレイは戻ろうとして。


「えーー、私アズといたい」

「子供か、あんたは」

「子供じゃないことぐらい分かってるでしょ?」

「知ってるからこその言葉だって分かってるだろう?」

「ぶーー」


 こちらに後ろ髪惹かれるようにシアがグレイに続いて居間に戻っていった。


「最強の魔女って聞いてたからかしこまってたけど、なんだか愉快なのね」

「ええと、はい」


 私が悩みぬいた末そう答えると、二人は噴き出した。


「こりゃ大変なんだな」

「そうね」

「いやはや恐れ入ったよ。俺らなんかより苦労してそうだ」

「待って待って、弟子じゃないんだから、この子」


 何か盛大に思い違いをしているようなので、少し訂正するつもりで口を開く。


「楽しいですよ」

「そういや貴女も変わっていたのだったわね」


 涙を軽く拭きながら、口を手で押さえてようやくといった様子でこちらを見るヴァイオレット。

 とりあえず私は話を聞こうと切り出す。


「それで話って?」

「ええと、貴女はどうして生きてるのかなって」

「どうしてって……」


 私はさっきまでの流れとは打って変わった内容についていけず同じ言葉を繰り返す。


「突然聞く話じゃなかったわね、ええと、説明させてもらっても?」

「はい」

「まず、話さなきゃいけないことなんだが、俺達は師匠から最終課題がだされている」

「最終課題、ですか?」

「そう。それをクリアすれば一人前と認めてもらえるの」

「でも、その内容が厄介なんだ」

「そんなことはないわよ。しっかり考えればなんとかひねり出せるわ」


 強気そうに喋るヴァイオレットだったが、その瞳は少し不安げに揺れていた。

 それがわかっているのかそれ以上突っ込まないイージス。

 私としても簡単では無さそうというのは何となく察している。


「それでその最終課題というのは……」

「それがさっきの質問に戻るのよ」

「つまり……?」

「俺達自身の生き様を決めろ、ということになるのだろうな」

「正確には生きる意味を答えよ、ということね」

「はあ……」


 あまりにも突拍子も無いので、思わず生半可な返事をしてしまう。

 なんで最終課題がそれなのか、など、疑問は尽きないけれど他の人の方針だから仕方が無い。

 ともかく唖然としてしまった私に、少し落胆したように二人は口を開く。


「まあ、普通考えてないわよね。やっぱり」

「やっぱりというと?」

「大抵の魔女にきいても答えが返ってこないことが多かったのよ。残念ながら」

「そして返ってきたとしても、納得のいくようなものがあったわけじゃない」

「だからどう答えればいいのか困っているのよ」

「それは大変ですね」


 これ以上の返事を考えられず他人行儀な返答になるが、慣れているのかそのまま話を続けるヴァイオレット。


「当の本人は答えてくれないし……答えは一回のみ受け付けるというのも難しいところよね」

「だな」

「私は……その、まだ一回死んでしまって、それで助かっているので、生きているだけで感謝といいますか……その、まだそういうことは思えないというか……元々奴隷の身分だったりしたので」


 大きくため息をつく二人に何だか申し訳なく思い、今私が思っていることを告げた。


「それはごめんなさい。失礼なこときいちゃったわね」

「いえ、そんな」

「でも大変だったでしょ」

「まあ、辛くなかったといえば嘘になります」


 私の返答が思った以上に重く捉えられたのか、凄い哀しそうな目で見られている。

 確かに辛い出来事ではあったけど、お陰で今がある私としては良い事と捉えている。

 と、そんな私の内心など知る由も無いけれど。

 イージスが茶化すように口を開く。


「それに比べて義姉さんは呑気いてててて!?」

「余・計・な・一・言!」

「分かりました、分かりましたから!」


 茨をイージスに巻きつけるヴァイオレットに降参といった様子でもろ手

を挙げるイージス。


「ふふふ」


 楽しそうな二人を見ながら、聞かれた質問が私の頭に残るのだった。


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