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最強魔女と狼娘  作者: 双碧
第二章
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宿屋での一幕

「なんだかその……疲れました」


 宿の部屋の中に入ると同時に足の力が抜けてへたり込む。

 自分が思う以上に疲れてしまっているようで、身体を引きずるように椅子に座る。


 どうにも悪意というかそういうものに敏感になってしまったらしく宿までの割と短い距離でも周囲のその空気に当てられてしまったようだった。

 前の街は良くも悪くも平穏で住民の気質が穏やかだったからだろうか、ここまでになっているとは自分でも思いもしなかった。


「まあ……久しぶりだろうし仕方ないかもね」


 ヴァイオレットは苦笑いしながら近くの椅子に腰かけ、ここにたどり着くまでに買ったものをテーブルの上に広げる。

 と、いっても軽食で日持ちしそうなものだけなので大した数はない。

 木の実だったり干し肉だったり干物だったりとそういった類。


「ええと、この後は……?」

「女将さんにお願いしておいたから食事を部屋に運んできてくれるわ。そうそう、ここは結構いいとこだから安全だし、お風呂もついているわ。とりあえずは休んで」


 くたくたになった私を見かねてかヴァイオレットはベッドへと私を誘導する。

 ……というよりも抱えられて移動させられる。

 純粋な力というなら恐らく私よりも無いのだろうけど、それでも見るからに細腕のヴァイオレットに抱えられて運ばれるというのは少し驚く。


「……私は別にそこまで筋力はないわよ?身体強化に近い物を使っているだけで。ま、これが私が傭兵として動いても問題ない理由の一つなんだけどね」


 ベッドに転がされた私の視線を受けてヴァイオレットはベッドの縁に腰かけ、私の頭を撫でる。


「……これで年下なんだものね……ほんと見た目も心も私よりも出来上がってるんだもの」

「えと……」

「褒めてるのよ……ああ、年齢は大魔女様から。勝手に聞いてごめんね」

「それは別に構わないです」

「そ?でも不公平だから私の年齢も。16よ。やっぱり獣人は人間に比べて成長が早いのね」

「そうですね。正直年齢は見た目からじゃ分からないと思います。私でもたまに分からない方はいらっしゃいますから」


 私の腰ぐらいの身長で子供かなと思っていたら実は50代でしかもミミズクの獣人だと分かったときは本当に驚いた。

 そもそも見た目や匂いで獣人とさえ認識できなかったのだから私としては獣人とひとくくりにしていい物か悩むくらい。

 とはいえ発現する獣人の特徴は全く遺伝しないから獣人でくくるしかないというのは分かっているのだが。

 兎と犬の獣人の夫婦から亀の獣人の子供、とか生物の生まれ方としてもうよく分からない。


「でも大魔女様が用意してくれたそのアズリエナの服も大概よね。本当に人間にしか見えないんだもの」

「それは本当にそう思います。耳や尻尾も動かせるのに何にも当たらないってどういうことだろうと考えたりしますけど」


 それに音も普通に聞こえるし。


「……あの人たちのやること成すことを常識で考えたら分からないのかもしれないわ。私もついていけないもの。魔法を齧っていてなおかつそんじょそこらの魔法使い程度には負けないと自負している私でさえね」


 それは……うん。シアがやることは規格外のことが多いからもうそこら辺は考えない様にしているところもある。

 シアだからな、で考えを止めてしまった方が楽だから。


 ……別にどうなっているか考えるのをやめた訳ではないけれど、感情としてはそれで済ませるのが穏便。

 そもそもシアの行動原理ってよく分からないし。

 無邪気なのに思慮深くて、かといってパッと見ただけだと衝動的なのに実は綿密に計画されているとか、本当につかみどころがない。

 だからこそ一緒にいて面白い、面白い?

 自分の行き当たった感情に思わず硬直する。


「……アズリエナ?」


 思えばシアと暮らし始めてからは良くこういった感情を抱くようになってきた。

 単純に新しい物、経験そういった類によって引き起こされているものだと思ってきていたけれど、はたしてこれは……?


「ねえ」


 確かによく考えてみれば私が笑ったりしていたのもシアと何かしている時が格段に多いけれど、でもそれはそもそも一緒にいる時間が多いからとも考えられるし、だとしても他の人と共にいる時より緊張しないのは確かで、それは命を助けられたから?確実に味方だといえるからだろうか。でも今の私は――


「アズリエナ!」

「ひゃい!?」

「唐突にそんな難しい顔して黙らないでよ。というかそろそろ夕食が届くころだから座れそうならテーブルの椅子に移動してね」


 私に喝をいれたヴァイオレットは呆れ顔で椅子に腰かける。

 思考から急速に意識を現実に向けたからか疲労がある程度とれたからか、ようやく部屋の様相が頭に入ってくる。


「ひぅ……」


 よく見てみると宮殿もかくやといわんばかりの装飾で、下手をすれば王城の一室と言われても可笑しくない部屋だった。

 今寝転がっているベッドも天蓋付きの上質なベッドで私が普通に四五人は寝れるんじゃないかというほどに大きい。

 布団自体も柔らかさが通常のものと段違いで触れている指が柔らかく底なしのように沈む。

 光源はシャンデリアだし、姿鏡はあるし、観葉植物まで置かれている。

 一つ家具を取っても木材自体が上質な一品、なはず。

 そもそもアロマが入っていると思しき壺や、フルーツの盛り合わせなんかも部屋に備え付けられていた。


 なんで気づかなかったんだと思うほどで思わず震えてしまう。

 流石に今までの暮らしからこういう場所は心臓に悪すぎる。


「……やっぱり気づいてなかったみたいね。気にしないで、っていっても気にするだろうからさっさと椅子に座って」

「は、はい……」


 言われて渋々、恐る恐る、なるべく部屋に傷をつけないようにそっと動く。

 シアもそうだけどヴァイオレットも大概常識的とはいえないのではなんて考えが頭をよぎる。


「……じゃあ受け取ってくるから、そこで待っててね」




 ヴァイオレットは色々と説明や料理の批評もしていたけれど私は夕食の味なんて分からなかった。


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