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最強魔女と狼娘  作者: 双碧
第二章
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ブラシューマの街

 昼食後、私はヴァイオレットと近くの街に出てきていた。

 昼食の席にはシアたちもイージスも居たけれど、そこで改めて提案されたのだった。

 そして今はその街を囲う城壁の門の前に並んでいる。


「ここはブラシューマの街。ま、見ての通りというか魔の森が近いから防壁も、検問もしっかりしてるのよ。そして実力者も多いわ。魔の森関連ではいい素材が取れるからって一獲千金を狙って力自慢、能力自慢がよく来ているのよ」


 ヴァイオレットが向ける視線の先には確かに武装した無骨な男性たちがいるのが目に入る。

 私達女性は殆どいない、もしくは商隊に混じって居るぐらい。

 男性の表情は清々しい者もいるが、大抵は私が奴隷だった頃に向けられていた嫌な笑みが多く少し手が震えてしまう。

 それを見かねてかそっとヴァイオレットが私の手を握ってくれる。


「治安はそこそこってところだから一人で行動しないほうがいいわ。ま、アズリエナの実力ならあの程度のチンピラならどうにでもなるでしょうけど、あまりいい目では見られないからね」

「うん……」


 かくいう私はいつも通りの大剣を背負って人間の傭兵の装いをしている。

 というのも粗暴な人間がそこそこいる場所においては目に見えてやれる、という何かを見せておいた方がいいと言われたからでもある。


 とはいえ傭兵自体は画一の装備なんて無いのだが。

 また人前では丁寧口調は争いの元になりかねないから気をつけるようにしているのもあり元々口数が多い方ではない私がより口を噤みやすくなっている原因の一つでもある。


「思ったより重症ね……。まあ、聞いた話もあるし仕方ないだろうけども……。まあ特段心配はいらないわ。これでも私、実力者で通っていてね。私と一緒ならまず古株からは手は出されないはずよ。役所での依頼もほぼ達成だけだからね。一応顔の候補にされるぐらいだから」

「顔……ですか?」

「そ。ここの街特有だとは思うけどね。他の場所じゃ傭兵のグレード、なんて仕組み無いもの」


 奴隷時代、名目上傭兵、としても登録させられたが確かにグレードなど一度も誰からも聞いたことがなかった。

 傭兵が依頼を受けるのは役所、もしくは直接が基本でそう言った類は意味がない。

 稀にだが傭兵が街を守るために駆り出されることもあるが、基本は実力を測るのも契約するのも含めて双方の責任とされている。


 そもそもだが、街内部の問題ごとや街に危険性があるものは兵士が、街内部から近郊ぐらいまでのこまごまとした使いなどは何でも屋が携わるため、傭兵の仕事というのは実はそんなに多くない。

 緊急性の無いもの、危険な場所の探索ならびに採取、街を越えた移動を伴う護衛、あまり知りたくもないが裏稼業も仕事の一つとしてあげられる。

 お金で動く兵士、といえばまだ聞こえはいいが、実際の所戦闘以外に取り柄がない、もしくはそれ以外出来ないようなしたくないような人間が多いため基本人は関わらないようだ。

 それでも頼みたいという場合のいわゆる底辺職とも言えなくもない。

 当然中には高潔な人も居たりするけれど、ほぼ稀で、あまり傭兵だ、なんていいたくなるはずもないのだけれどもどうやらこの街では違うらしい。


「不思議に思うのも無理はないけどね。魔の森の影響よ。あそこから出る怪物や動物のせいで他の街にあるような何でも屋は機能しないし兵士も街の防衛で手一杯。でもここは交易のの要所でもあるからこの街は手放せないし、魔の森からは良質な素材が手に入る。ともすれば傭兵にもそういった何でも屋みたいな仕事も、兵士のやるような仕事も回ってくるし、傭兵としての仕事もまたしかりってわけ。で役所はそれを画一的に扱う訳にはいかなくなってしまったから審査をして分けて、さらにどれだけできるかも含めてグレードをつけたってことね」

「前提が他の街と大きく異なるんですね……」

「そ。……だからそうね、一昔前まであったといわれる冒険者、という形に近いのかしら」


 冒険者自体は私が生まれる百年ぐらい前まではあったらしい仕組み。

 ある程度開拓も進み、安全も確保されやすくなったため職業としては自然と廃れていったらしい。

 まだなお冒険者を名乗り辺境へ行くものやダンジョンに挑むものもいるけれども。


「ま、そういうわけで一つ傭兵と言ってもこの街では討伐専門、防衛専門、採取専門、護衛専門、探索専門と別れているのよ。で、私は全ての種類のグレードをAまで上げてあるの。ちなみに最上はSね」


 直後に小声で魔女と分かるような手は使ってないけどね、と他の人には聞こえない程度で私に聞かせてくれた。


 だとすると……と思ってヴァイオレットの服装を今一度一瞥する。

 宮殿にいた時のゆったりとしたローブ姿とは違い、今は金属の肩当てや膝当てを身に着け、身体のラインに沿うような長ズボンに長袖のシャツ、それでいて弓も携えていたならば森に入る狩人だとしても全く違和感はないはず。しかしパッと見たところそういった類の得物は見当たらない。

 不思議に思っていると、ヴァイオレットはふふと微笑み。


「私の戦い方なんかはおいおい教えるけど、今の話はある程度縛ったうえでも私自身相当の実力者だ、と分かってくれればいいってだけだから。……私としてはそういう話をしたかったわけじゃないんだけどね?そもそもアズリエナを傭兵として活動させようって訳でもないんだし」


 それもそうか、と頷くとヴァイオレットはすごい勢いでこちらに食いついてくる。


「というか!こう、貴女に欲求はないの!?今まで話聞いていればそもそも必要だから、なるかもしれないからでの行動だけで何々を食べたい、といったことさえ聞こえないんだけど!?話はしてなかったけどここ衣食共にかなり充実してるのよ。こう、何か食べたいとか、おしゃれしたいとか無いの?」

「ええっと……まあ……はい……特に思いつかないというか……」

「……呆れた。いえ……そうじゃないわね、そういえば。ええ、落ち着け私。ここまでだとは思わなかったけど、ええ」


 私が言い淀みながら頷くと、ヴァイオレットは小声で何かぶつぶつと呟いた後。


「決めた。今日はさっさと宿を取りましょう。そして明日明後日、アズリエナが気になる、少しでも興味を持った場所を片っ端から回るわよ」

「ええっ!?その……悪いです」

「悪くないからね!というかそもそも常識というかそういった感性を教えるのもあるから拒否権はないわ!」

「えぇ………」


 ぐいぐいと腕を引っ張られながら門を通過することになったが、門で控えていた兵士はヴァイオレットの姿を見るなり苦笑いして通してくれた。

 馴染んでいるんだなぁ……と感心しながら木造と石材が入り乱れた統一感がない、しかしどことなく秩序だったような街並みを進んでいくのだった。


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