帰還?
夜が明けてからの帰り道はとても早かった。
何事もなく森を抜け、川でまた船員さんたちにお世話になり。
イズクさんが色々面倒ごとを起こしそうなところをディアムさんが止め。
それを微笑ましそうにシアが眺め、サボるマルノを筆頭とした船員をサピスが怒り飛ばし。
私は私で船員さんたちに引っ張りだこにされ目を白黒させて……。
そんなこんなで行きとは違いピラサなどが襲ってくることもなく対岸の船着き場まで辿り着くことができた。
「それじゃあアタシたちとはここでお別れかな?」
「そうなります。……で、いいんですよね?シア?」
「ええ、私たちは一旦街まで戻るから」
ディアムはそれを聞いて一礼をしてイズクを引っ張る。
「あっ、ちょっ、予定が遅れたからって引っ張ることないじゃない!?え!?これ以上ここに留まると余計なことをしかねないって?!どういう意味!?あああああ、分かったから!ポーチに手を伸ばすのは止めて!?」
もう何度見たか分からない風景に私たちは苦笑いする。
「ちょっと!笑ってないでディアムをひっ!?分かったから、分かったから、ディアム、大人しくついていくから止めて!?」
そうやって引きずられるようにディアムとイズクが去っていく。
「なんか嵐みたいな人でした……」
「まあ、そうね。裏表はないでしょうね、彼女たちは」
「シア?」
「ううん、ひとり言。気にしなくてもまた会えるわ」
さらっと私が思っていることを読んでいくシア。
私は苦笑いしながら街へと向けて歩き出し。
「あとはこのまま帰るんですよね?」
「ううん、どうせだしこのままグレイの所に寄ろうかなと思って。あ、街には行くから安心して」
聞いて思わず足を止めて振り返る。
「二度手間って訳でもないし、別に近いとかそういった訳でもないけどね。まあ今回ばかりはこちらから早めに出向こうと思って」
「それってやっぱり今回の件ですか?」
「まあ、そういったところ?アズはまだ頭の片隅にでも置いておくだけでいいからね」
「そういうものですか?」
「ええ、アズじゃあ仮に首を突っ込もうモノなら肉片も残らないからね?そういう相手だから」
私は天使と悪魔を思い出して全身の毛が逆立つのを感じる。
「そ。今回のやつらでさえ身体が恐れているでしょ?あまり脅すのもあれだけど、あれ最弱よ?下っ端も下っ端。だから今は考えなくていいから、ね?」
シアは無邪気そうに笑いながら私の手を取り歩き出す。
つられて軽くたたらを踏むが、私は足並みを揃えるように一歩踏み出す。
ちらりと覗いたシアの横顔はとても楽しそうで嬉しそうだった。
「……へ?え、それって……え?大魔女様に謁見するということですか?」
フィーは私の提案した言葉を理解できなかったようでぽかんとしたまま呟く。
街までの道すがらシアにフィーのことを話して、どうせだから連れて行ってもいいのではと提案したのだった。
シアは当人が良ければね、と頷いてくれて宿の一室で話を付けるために呼んで今に至る。
「えっと……そもそも大魔女様って本当にいらっしゃるのでしょうか……?ハングレイシア・パスビム様といえばもうかれこれ名前が出てから四千年以上経っているはずですし、魔女の中では伝説の存在ですよ?仮にいたとしてもそもそもこんな私みたいなちょっとだけ水魔法が使えるだけの木っ端魔女なんて相手にしてくれませんよ?」
うん、まあそういう反応になるよね。
年数も然り、内容も然り、現実とは思えないもの。
「大丈夫よ。今回は魔道具を見せに行くのを兼ねているから。『集会』も近々開かれるだろうしね。早めに行っておくに越したこともないでしょ」
「え……?」
「フィーさん、信じられないかもしれないですが、大魔女様は実在してて、実はお会いしたことがあるんです」
「へ………?」
「ま、色々面倒だし時間の関係上説明省くけど、アズがフィーに言いたいことは信じるかどうかは置いておいて付いてくる気はあるの、ってこと。どう?」
「あの、え!?いや、付いていけるなら付いていきたいですけど!でもそれは――」
「じゃあ決まりね。従業員の方々に挨拶してきた方がいいんじゃないかしら。明日の朝一には出るから」
「え、あ、はい!」
何が何だかよく分かっていない様子だったが、フィーはシアの言葉を受けて跳び上がるように部屋から出ていく。
「………シア、面白がっていませんでした?」
「あ、分かった?どうせだし楽しい方がいいでしょ?」
思わずため息を吐くと、階段を転げ落ちるような音と、多くの足音、そして騒がしい声が聞こえてきた。




