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最強魔女と狼娘  作者: 双碧
第一章
19/26

英雄の所感

 あたしとディアムはシアとアズリエナに白狼の相手を任せて、雪の小屋に入り荷物を整理していた。


「それでディアムはあれをどう思う?」


 あたしの言葉に首を傾げるディアム。

 長いこと付き合っているからそれなりに言いたいことが分かる。

 多分どのこと、といったところだろう。


「今回のダンジョンのことだけどさ。白狼しか見かけてないっておかしくない?」


 普通ダンジョンというのは生態系のように絶妙な個体数のバランスが成り立っていることが多い。

 当然怪物などと呼ばれるような強い個体もいるが、本来は弱い野生動物なども潜り込むことが多々ある。

 故に通常であれば一個体のみしか存在しないダンジョンなど構造的にあり得ないはずだった。

 ディアムもそのことに気づいていたのか、やけに真剣な表情で身振り手振りし始める。


「やっぱり今回の討伐命令は何かおかしい、ってところ?うーん、そうなのかな……?あたしにはそういうのさっぱりわからないけど、ディアムがそう言うならそうなのかもしれないね。天使なんて言う訳分からないやつまでいたわけだし」


 あたしが深く考えたところであんまりよく分からないけど、白狼討伐、というのは今回の段階からは少し変なように感じた。

 それも確か依頼は『死』のみ。

 余程の相手だからかと思ったが、あの大きな白狼からは敵意こそあれど全くと言って私達に対して殺気を放ってはいなかった。


 そもそも人に害をなしているようにも見えなかったのもそれに拍車をかけている。

 そういう点ではあの二人も不思議な雰囲気だった。


「ま、それはさておきシアとアズリエナは大丈夫だと思う?」


 私の言葉にディアムは強く頷く。

 あたしはディアムの瞳をよく見て意図を読み取る。


「えっと、シアは気にしなくていいほど強いから大丈夫だろう、って?まあ、だよねぇ……あの人に勝てるイメージ湧かないし。あと、あたしの勘だけどアズリエナって多分獣人だよね?」


 ちょくちょく何か違和感を感じて不思議に思っていたけれど、今回のダンジョン内での動きを見てそう感じた。

 なにより白狼がまるでアズリエナに従っているみたいに動くものだから、多分そう。

 人の中には獣使いもいるけれど、そういった感じではなかったし。


 ……だとしても普通の獣人は動物と会話なんてできないけど。


 獣人だとしてもあたしたちが何か対応が変わったりというのはするつもりさえない。

 というか、あんなにいい子を手にかけるとか命令であっても御免被る。

 ディアムが少し驚いたようにあたしを見つめなおす。


「え?ああ、全部あたしの勘だから。全くと言って根拠なんてないけど。そ、れ、よ、り」


 あたしがずいっとディアムに顔を近づけると嫌そうに頭を押さえつけられ、ディアムはそのままため息を吐いてそっぽを向く。


「あたしが倒れてた時のディアムの声もう一度――」


 あたしはディアムの手元をみて口を噤む。


「ちょっ、分かった、分かったからポーチから何か出そうとしないで!?」


 ちょっと頬に朱が入ったディアムを止めるのに必死になっていると入り口の方から足音が聞こえてきた。


「シアにアズリエナ。大丈夫だった?」


 あたしの言葉に流れる水のような輝きを持った金髪の女性が答える。


「大丈夫だから戻ってきてるんでしょ?」

「そりゃそうだけど」


 少し、いやそこそこ不機嫌そうに返されため息を思わず吐く。

 どうもシアと話していると気分がおかしくなる。

 力の底が見えてるはずなのに見えていないような。

 立ち振る舞いや戦い方を見てもさして私と大差ない様に見えてしまっている、


 どう考えても苦戦はするけど勝てないほどの相手ではないと、そう思うのに絶対に勝てるイメージが湧かない。

 それがとても不気味であたしとしてはついそれが不快感として表に出てしまう。


 あたしがシアの顔を直視できずに目をそらすと、その後ろから女性、というには少し幼さが各所に残った少女があたし達を見ていた。


「えっと、ありがとうございます」

「別に当然のことでしょ?無事じゃなかったらあたしたちが何とかしなきゃいけなくなるんだから」

「それでもです」


 頭を下げながらそう言うアズリエナにあたしは破顔する。

 しっかりと礼を言える子を今まで見てこなかったかと言えばそう言う訳でもないのだが、アズリエナに関しては何か違う安心感というかそういったものを感じる。


 多分第六感に近いんだろうけど。

 ただのいい子、に収めるには少し違う何かを持ってる。


「で、日は暮れてるし今日の所はここで一晩過ごす?せっかく建てたはいいけど一日も使わないっていうのはそれはそれで勿体ないし」


 あたしの視線を知ってか知らずか、シアが口を挟んでくる。

 ディアムが頷いているし、あたし自身異議はない。


 無いのだが……。


「それなら荷物纏めるの後でも良かっいてっ!?何するのディアム?!」


 急に後頭部を叩かれつんのめる。

 ディアムの目からは怒りの感情と……


「えっと……すぐに動けるように荷物をまとめておくのは野営の基本?いや、それはそうだけど……でも明日でよくない?それこそあたしとか気配に敏感だし……」


 と自分で言ってふと思い出す。

 そういえば天使なんかが居たと。


「……うん、ごめん、ディアム。確かにうっかりしてた」


 あたしがあがいても勝てないような相手がいたんだから警戒するに越したことはない。

 あたしの言葉を聞いてディアムは息を吐き微笑む。


 ――この顔が溜まらないんだよね。


 滅多なことではあたしに対して笑ってくれないけど、これを見ると頑張れる気がするから不思議だ。

 なんて内心思っていると。


「それはそうとして、この後どうしますか?」


 アズリエナがおずおずといった様子で訪ねてくる。

 今から、ではなくて明日の話だろう。


「あたしたちは……うん、分かってる。王都に戻るわ。まあ川は渡らなきゃいけないから船から降りるまで、になると思う、かな?」


 ちらちらとディアムの表情を窺いながら慎重に答える。

 正直今日ほど道具を使われたことは数えるほどだし、もうこれ以上は貰いたくない。

 まあ全面的にあたしが覚えていないのが悪いんだけど。


 そう思ったところで大きくディアムからため息を吐き出されて戸惑ってしまう。

 アズリエナも少し苦笑い気味になり。


「分かりました。シア、えっと」

「夕飯でしょ?」

「あ」


 シアの言葉であたし自身空腹だということに気が付く。

 なんだかんだ朝からずっと何も口にする暇がなかったから当然と言えば当然だった。


 あたしが口をポカンと開けている間にシアがスタスタと移動し火をおこして料理を始める。

 今回は角度がいいからか何しているのか手元が見えた。

 あまりの手際の良さにあたしの目が追い付かない。


 料理できるわけじゃないけど。


 というか袖口からパンやら野菜やら取り出しているけど、どうなってるの、あれ?

 袂があるというわけでもないのに……。

 ディアムと同じように魔道具でしまっている感じ?

 いや、それにしては普通の服みたいだし……。


 ……うん、考えるだけ無駄かな。


「あ、そうだ、アズリエナ。ありがとうね」

「え、なんでですか?」


 きょとんとした表情で首を傾げるアズリエナ。


「何って、ダンジョンで。お礼言ってなかったでしょ?あそこでアズリエナが助けに入ってなければあたしは多分今頃死んでただろうから」

「そんな、私だってイズクさんが残ってくれなければここにいませんから」


 そんな風に言うアズリエナにあたしは首を振って答える。


「あんな格上のから逃げれた後に自分では敵わないのに戻ってくる、って判断は普通は出来ないから。そうやって生き延びている人は多いし。というか冒険者や傭兵は大抵そう行動するからね。英雄と呼ばれててもそこまでできるのはいくらいるのやらって感じだからね」


 あたしがちらりとディアムを見るとディアムは軽く微笑み、アズリエナの頭を撫で始める。

 それに少しアズリエナは驚いたようだったが、すぐに顔をほころばせる。


「ま、そういうわけだから礼の一つくらいは受け取ってくれないかな」

「そういうことなら、わかりました」


 照れくさそうにアズリエナが笑うのを見て、あたしは満足する。

 と同時になんとなく抱きしめて頭を撫でたくなって――


「はい、夕飯できたから」


 アズリエナに伸ばした手をぴしゃりとシアに叩かれて、思わず引っ込める。

 あたしがシアを半眼で睨むも飄々とした態度でシアは受け流しながら料理をテーブルに置いていく。


 ――いつの間にテーブルが出来ていたかは覚えてない。椅子は行く前に作ったけども。


「アズリエナに触れるときは?」

「ひっ……!わかってる、わかってるから!!」


 物凄い良い笑顔、多分遠くから見たら女神とか言われるレベルの表情なのに強烈な殺気を放っていて思わず悲鳴を上げそうになる。

 笑顔なのにあたしを怖がらせるほどの殺気ってどれほどよ!?


 隣でディアムがやれやれといった感じで首を振ってるけど、そういう問題じゃないよね!?

 ディアムがあたしの視線に応えることがないってことは――


 そういう問題……なのかぁ……


 あたしはしょんぼりとしたまま口にスープと鳥のステーキを運ぶ。


 あ、美味しい。

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