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最強魔女と狼娘  作者: 双碧
第一章
16/26

魔道具

 シアから聞いた話では、このダンジョンにある魔道具は結界を張る魔道具らしい。

 香炉のような形をしており、火を炊き思念を描いた範囲まで結界を張るという代物。

 広ければ広いほどその力は弱まる。

 そして効果というのが確か、悪意のあるものの結界の出入りを阻害し、悪意が強くなるほどその制限が強くなるらしい。

 阻止ではないところが肝らしく、動線を絞ることに重点を置かれているらしいが、どういう理屈かはさっぱり分からなかった。

 発動している効果だけだと、それだけらしいのだが、他にも機能があるかも、と言っていた。


 あの天使に悪意があるかどうかは分からないが、万が一、億が一にも助かる、助けられるなら縋るべきだろう。

 ローヴに跨りながらも見つけた後のことを考える。


 罠をものともせず、疾風のごとくダンジョンを駆け抜けていくローヴと白狼たち。

 ある程度場所の目星はついているのかもしれない。


 直線の道に入ったところで、速度が落ちる。

 後ろにいた白狼達がローヴの前へと移動してくる。


 その直後辺りから私の耳でも音を拾えるようになる。


 呼吸音と駆ける足音が一、二、三……

 ざっと三十は数えるほどの音の圧。

 動くには支障ないにしても、こちらは十にも満たない上全員が何処かしら負傷している。


『他の道は?』


 私の問いかけに答えることなく、白狼達は臨戦態勢に入る。

 唯一ローヴがこちらにちらりと目を向ける。


 その視線は私――

 ではなく背中の両手剣に注がれているよう。


 私はその意図を何となく察し、こくりと頷き両手剣を右手で構え、左手はローヴの背を掴んだままにしておく。

 片手で持つには多少重いけど、こうでもしないとローヴが動いたときに振り落とされてしまいそう。


 私の様子を見てローヴが正面を向き、駆け抜ける体勢をとる。

 そう構えて数秒、目視で向こうから白狼の群れがこちらに迫ってくるのが目に入る。


 と同時に後ろからも足音を感じる。

 時間差はあれど挟み撃ち、ということだろう。


 白狼の狩りの方法としては基本となる形。


 それを分かっていてここで迎え撃つつもりなのだろう。

 私が右手に力を入れなおす。


 それがきっかけになったようにこちらも勢いよく前進する。

 目で捉えられる限界の速度で前方から白狼が次々飛び掛かってくる。


 最初の一体は右手前に構えていた白狼が迎え撃つ形で壁に叩きつけ。

 次は飛び掛かりかけている足を狙い食らいつく。

 三体目はローヴの頭突きで弾き飛ばし、上から跳んできたやつを私が剣で流れを変える。

 向こうはその一瞬で、後ろに控えていた白狼一匹に対し四匹程度で応じるように隊の動きを変化させる。


 その隙にローヴは白狼の群れを駆け抜ける。


 ――ごめん、すぐに戻るから!何とか持って!


 私の内心を分かっているのかいないのか、ローヴは更にその移動速度を速める。

 時折通路脇から白狼が飛び掛かってくるのを両手剣で何とかいなしながら進む。


 体感時間ではもう十分ほどたったように感じるけれど、おそらく一分弱の出来事だろう。


 幾重にも道を曲がった先に目に見えるような薄い膜が張られた領域を見つけた。




 それは結界と言っても差し支えないような文様を放ち、その膜の前には複数の白狼が地面に転がっている。


 呼吸音はないので恐らく死んでいる。


「これ、は」


 見たところ全ての白狼の首の骨が頭から何かに激突したように折れている。


 考えたくはないが、この結界に突っ込んだ反動で……。


 その図を想像し少し吐き気を催したが、こらえて私はローヴから降りる。


『ここで、待ってて』


 私の言葉にローヴはその場に座り込む。

 聞き耳を立てているので恐らく警戒はしてくれているのだろう。


 私はそのまま膜に手を触れようとし。

 触る感触もなくすり抜ける。


 あまりにもあっさり通り過ぎれてしまったことには拍子抜けだが、そんなことを気にしている暇はない。

 この膜は緩やかに曲線を描いてたってことは、魔道具を中心として円形に張られている可能性が高い。


 なるべく大急ぎで道を進んでいく。

 幸いというか、僥倖というか罠は既に作動しきっていたようで、わざわざ回避したりする手間が省けている。


 そして二つ曲がり角を過ぎたところで。


「あ」


 倒れている人を発見する。

 そしてその手には魔道具が握られていた。


「大丈夫ですか!」


 速度を落とさず声をかけながら近づく。


 だが、彼の人から反応はない。


 そして近づいたことでよく分かった。


 この人も、死んでる……。


 恐らく数日前の段階でこと切れていたのだろう。


 床には血の跡があるが、もう乾ききっている。


 顔や体も性別が分からないくらいに崩れ始めている。


 そして魔道具を持っている手の甲には大きな穴が開いていた。

 天使と戦う羽目になったのか、白狼に追い詰められたのか定かではないが、最後の最後でこの魔道具に縋ったのだろう。


 あるいは……


「誰かを逃がすために囮になったのかも」


 単なる想像でしかないし真実など私には分かるはずがない。

 ただこの人がこのダンジョン全域に結界を張ったのは確か。

 少し祈りを捧げてから私は魔道具に手を伸ばす。


「失礼します。大事にしていることは分かるのですが、今少し私にそれを貸してください」


 自己満足ではあるが、それだけ呟き私は元来た道に踵を返した。




 どうやら発動地点から魔道具が移動しても結界の位置は変化しないらしい。

 膜は相変わらず元の場所に存在していた。


 問題はこの魔道具を持ったままこの膜からは出れないということ。


 さっき思いっきりぶつかって跳ね飛ばされたから少し鼻の頭が痛い。


 そんな私の様子を心配そうに見つめるローヴ。


 出てきたら直に駆け出せるように体勢を変えてくれている。

 私は少し悩んだのち、魔道具を弄り始める。


 シアの話では魔道具は魔法が使えない人でも使えるものが多々あるらしい。

 さっきの人は明らかに魔法を使えるような格好をしていなかった。


 ということは何かしらの仕掛けで動いているに違いない。

 と、そこでカチリという音がする。


 同時に目の前の膜が消滅する。


「………」


 目的と違うことが起きて少し嫌な予感がする。


 ただここの膜だけを通り抜ける方法くらいあるんじゃないかと思っていたのだが。 


 膜が消えたということはダンジョン中に張り巡らされていた結界まで消えてしまった可能性がある。


 詳しいことは分からないけれど、それは。


 とても状況がひっ迫してしまうということだろう。


『ローヴ、急いで!』


 私は駆けてローヴの背に乗り、ポーチから火種を探す。

 私の言葉に頷くようにローヴは勢いよく通路を駆け巡る。


 先程までとは段違いの速度を出すローヴに少し驚きながらも、納得する。

 力を抑える効果もあった、ということなのかもしれない。


 嫌な予感と共に目の前の通路から埋め尽くすような数の白狼がこちらに向かってくる。

 他の白狼よりいくらか大きいのローヴと言えども、これだけの数が相手となると速度もつい落としてしまうよう。


 味方だったら良かったのに。


 私は内心そう思いながら、敵意剥き出しの白狼達に向かって火をつけた魔道具を突き出す。


『ローヴ、そのまま、駆け抜けて!』


 私はローヴにそう言い放つとともに、目を凝らし、膜のイメージを明確にする。


 思念云々で出るというなら、もうどういう風に使うとか説明で何とかなる次元じゃない。

 もしこれで使えないならこのまま私とローヴ、そしてイズクや置いていった白狼たちは助からない。


 しかし魔道具が発動する様子はない。

 あと一秒かそこらで衝突してしまう。


「お願い、出て!」


 懇願するような目を閉じて発した私の言葉をきっかけに、白狼達のギャンという鳴き声が通路に響き渡る。

 恐る恐る目を開けると、ローヴを中心としたように結界が張られている。


 それにぶつかってくる白狼達はそのまま結界に弾き飛ばされ壁や床に叩きつけられている。

 少し力が抜けてしまった私をローヴが横目でにやりと笑ったような気がした。


 それはいいとして……。


 今魔道具で結界は張ったものの、どうして結界が付いてきているのかを考えたほうがいいだろう。

 魔道具に結界が付随するものではないと先ほど分かっていた。


 じゃあ、何故。


 数秒思考を巡らせること思い当たる。

 言葉と共に思ったことはローヴを守ってほしいという意思。


「それだけでこうなったりするものなの?」


 ……自分で考えて首を振ってしまう。

 シアの説明だと範囲を決めて張るものらしいし。


 手の中の魔道具をもう一度見つめる。

 火がたかれて少し良い匂いがするもののそれだけ。


 ……まだ何か決定的とは言い難いから保留するしかないか。

 そう結論付けたタイミングで白狼の群れを抜け、さらにローヴが加速する。


「え、まだ早くなれるの!?」


 一瞬下から浮き上がる感覚に襲われ、しっかりとしがみ付きなおす。

 流れる様に様変わりする壁面と強い風に当てられ閉口しているとすぐに味方の白狼達が視界に入る。


 かなりボロボロになっているものの、今絡まれてはおらず、一応動けるレベルではあるよう。

 それでも生きているギリギリだろう。


『大丈夫!?』


 咄嗟にでた言葉に白狼達は弱く吠える。

 ローヴが私を下ろし、自分の左足を差し出す。


 これで仲間を治してほしいということだろう。


 一瞬イズクのことが頭によぎるが、頬を叩いてローヴに結んだ布を取り外す。

 傷は完全にはまだ治っていないもののほぼ止血も済んでいたことにほっとする。


 確実に出来ることから。

 それにイズクさんはそう簡単に命を落とすような人じゃない。


 自分に言い聞かせるように私は白狼達の傷の手当てを始めた。


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