第6話 僕は不審者と思われる
第6章 僕は不審者と思われる
ーーーその日の夜ーーー
〈コンコン〉
「コウ様。お食事の準備が整いました」
小セバスチャンの声がした。
「今行きます。スケさんも一緒で大丈夫ですかね?」
「はい。ご一緒にどうぞとの事でした」
「じゃ、スケさん参りましょうか~」
「はい。コウさま!」
小セバスチャンに部屋まで案内して貰うと、中ではエドワードさんと、美しい金髪ロングヘアーの女性が、私が来るのを待っていたようだ。
テーブルには華やかな食事がすでに準備されている。
「コウさんご一緒させて貰いますね。こちらいるのは娘のエリザベスです」
「コウ様。はじめまして。エリザベスと申します。気軽にエリーゼとお呼びください。スケさんもよろしくね」
「エリーゼさん。よろしくお願いしますね」
「エリーゼ様、宜しくお願いします」
スケさんはどこに出しても恥ずかしくない家臣だわ。
エドワードさんが小セバスチャンに目で合図を送ると、みんなにワインを注いでくれる。
ちゃんとスケさんにも。
「それでは、コウさん。スケさん。遠い国からの旅と出会いを祝して。乾杯!」
『かんぱーい!』
うん!
美味しいワインだ~。
寝かせたタイプでは無く、フレッシュな風味が味わえる。
そして、素材を活かした新鮮な料理に舌鼓をうつ。
『おぉ!?』
私を含めたみんなが、ふと見たスケさんの食事にびっくりだ!
目の前に置かれたワインが、勝手に減っていく……。
嬉しそうなスケさんを見ると、多分飲んでるみたい。
「スケさんみたいな飲み方?は、初めて拝見しましたよ……」
「お父様……、私もです‥」
実は私もです…
「僕は生まれて初めて食事をするので、変だったらごめんなさい。ワインも初めてなのですが、とても美味しいです」
「スケさん。不思議ではあるけれど、変じゃないから、まぁいいんじゃないかな」
みんなもそう思ってくれたらしく、にこやかに眺めながら食事が進む。
普通に考えて、私たちの旅の話を聞きたいだろうと思っていたところ、ついにエリーゼから質問がきた。
「エチゴ国はどちらにあるのですか?」
何て答えようかな‥‥そうだ!!
「東の果てで、途中海を越えながら一年程旅をしたらありますよ」
多分、ヨーロッパからだとこんな感じなはず…?
「一年ですか?!途中、魔物も出ますし大変危険では無いですか?!」
ま、まずい。。
二人は驚愕の表情だ。。
ついでに小セバスチャンも目を見開いている…
「スケさんもいますし、私は魔法が使えますから、大丈夫ですよ」
全く納得の表情には見えない親子+小セバスチャン。
「ご存知かも知れませんが、ここから東に向かうと魔物が強くなり恐ろしい世界が広がります。そして更に恐ろしい帝国も存在します。そこをどうやって抜けて来られたのですか?」
し、知らなかった‥‥
どうしよう…
穏やかなオリエントが広がっている根拠のない前提でした。
うーん…
何と答えたら良いのやら。。
「私もスケさんも隠れるのが上手いので大丈夫なんですよ?」
うーん…
無理がある……
「そ、そうですか。それならば大丈夫ですね。それに全てを話せるわけではなさそうですしね」
うーん…
無理がある……
笑顔で目が笑っていないエドワードさん…
話を流してくれてありがとう!
娘さんは納得していないみたいだけど…
なんとか誤魔化しながら食事を終え、小セバスチャンに案内されて部屋に帰った。
「スケさん。危なかったね~。いろいろとバレてしまうところだったよ」
「コウ様。多分だけど、コウ様が思っているより沢山バレていると思いますよ~」
そうなんだよね~。
仕方ないよね~。
でも、私は気にしないでいくので、バレたらバレた時だよね♪
自分としては納得し、スケさんはいつも通り穏やかにふわふわ浮いていた。
---食事前:エドワード視線---
「エリーゼ、どう思う?」
昼間の報告書を見せ、旅人コウについて意見を聞く。
状況から考えれば、事件の中心人物であり、森の動物遁走事件から、尋常ならざる恐怖を抱く。
「東の森で事件が起こり、魔物を含めた動物たちが逃避行動をとる中、のほほんと歩いてきた人物がいれば、その者が中心人物であることは間違いないと思われます。ただそのような尋常では無い人物がのほほんと歩いて来ますでしょうか……。実は帝国のスパイで油断を誘っているのでは?」
そうなのだ。
危険極まりない魔力を放出し、恐ろしい魔物達を全て恐怖のどん底に叩き込む事が出来る人物像と、昼間に会ったコウなる人物像がまるで一致しない……
ただあのような魔力を放出出来る者を帝国が捨て石として先兵に使うとも思えない。
「うーん。。私の目には演技に映らず自然体であった。彼は私が領主であると聞いたときも緊張した素振りを見せず、また知っていた様子もなかった。そのために、全く判断に困っているのだ。セバスチャン。部屋ではいかがな様子だ?」
「自然に寛いでおいでです。緊張している様子もなく、寧ろ楽しんでおいでです。あと気になる点と言えは、身体はもちろんの事、服も汚れておりませんでした。いかに特殊な魔法とは言え、その様なことが可能なのてしょうか…?」
「汚れた服を綺麗にする魔法をお使いになったのでは?」
「いいえお嬢様。〈初めから汚れていなかった〉のです。魔力も一切感じませんでした。そもそも現在使っているという、汚れない魔法にも魔力を感じませんでした」
なんだと?!そういえば……
「確かに魔力を感じなかった。魔力の放出を隠す魔法も同時に使っている可能性がある。今から一緒に食事をし、詳しく観察してみよう。彼らからは何かを感じる…」
「私にお任せください。底知れぬ方々とは、楽しみです」
こうして、食事に赴く事になった。
---食事後:エドワード親子---
「お、お父様?!スケさんはいったいなんですか?コウさまはいったい何者ですか????」
興奮したエリーゼに揺さぶられる。
「エ、エリーゼ落ち着け。落ち着いて考えるのだ。落ち着いて状況を整理するのだ」
まずスケさん。
〈アレ〉はまずい!
あの自然に〈ワインを飲んでいた作法〉は、完全に〈空間転移魔法〉だった。
一個師団36000人が魔力を用いて行い、使った術師も命を失う禁断の魔法。
それをワインを飲むのに使い、魔力を消費した様子もない。
そもそも魔力を使っている様子もない‥‥
「お父様、スケさんの〈アレ〉は?!」
「分かっている」
エリーゼ、父さんも分かっているのだよ…
訳が分からない事を!!
「スケさんはワインを初めての食事とおっしゃいました。それならば、コウ様も初めてご覧になったはず?!それなのに〈空間転移〉に驚きもしないなんて?!もしかしたらコウ様もお使いになられるのでは??」
スケさんの魔法にも、コウさんの態度にも驚愕したね…
「恐らくエリーゼの思っている通りだよ」
「そもそも〈空間転移〉が出来るとすれば、東の帝国を知らないのも納得出来ますね。その魔力をもってすれば、東の森で起きた光の柱も可能ではないかと」
エリーゼも普段の落ち着きを取り戻してきた。
「そうだね…」
「だとすれば人外の魔力を使うと彼らは…。お話し出来て金色に輝き、〈空間転移〉魔法を操る家来とその主…」
危険な思考しか残らなくなってきた。
「うーん…。人では無いなにかか……?」
「そうですね……」
「基本は友好的に。楽しんでお過ごし頂き、敵にならないように気をつけていこう」
「そうですね……」
とにかく気持ち良く過ごして頂くとしよう。
ーーーシロー視線ーーー
激動の1日だった!!
深淵を発見したらしく?
そしたら気を失ったらしく?
目が覚めたらプラネタリウムルーム?
で、神様?になってて?
自分の宇宙に旅出ることになった。
よくわからないことばかりだけど、ひとつ言えることは、知らないことを調べるのは楽しいな!