第5話 僕は宿を見付ける
第5章 僕は宿を見付ける
さて目の前にあります扉は、まさに〈高級扉〉。
良かった……、留置所じゃなくて!
〈コンコン〉
「エドワード様。カインです」
立派な鎧を着た守衛さんはカインさんと言うらしい。
部屋の中に入ると、40歳くらいの貴族っぽい男性が仕事をしている。
「こちらはルーニー侯爵領当主、エドワード・ルーニー様です」
貴族っ〈ぽい〉人ではありませんでした。
「えーと。君が〈エチゴ国〉の商人でコウ君だね?」
「はい。そうです」
この人も優しそうな感じが好印象。
優しそうな人が多い国なのかな~?
「その格好はコウ君の国では普通なのかい?」
「はい。そうですよ。一般的にはみんな着ていて、年配の方でもお洒落な方は着こなします」
ですよね?ジーンズのおじいちゃんとか渋い感じがする。
「なるほど。裸足も普通なのかい?あとしゃべるスライムも」
「裸足はあまり普通じゃないのですが、しゃべるスライムは普通です」
おっと…、「神の衣」があるおかげで、裸足であることが普通に思えてきたよ。
バリアで汚れないし、痛くないし、超便利!
「裸足の旅は怪我や病気があるからお勧め出来ないよ?」
「魔法で保護しているので大丈夫なんです。ご心配ありがとうございます」
やっぱりこの人、良い人だ~。
「そんな便利な魔法あるんだねぇ。でも、商人で魔物使いで、魔法使いって、かなりのハイクラスしか知らないよ?スパイとかならまだしもね」
あら?警戒心を買ってしまったらしい…
「ハイクラスを目指しております。エチゴ国の繊維を世界に売り出す心構えです!」
そうです。
世界の商人を目指します!
僕はこの宇宙の神様だったはずですが……
「なるほど。うん。その年で世界の商人を目指すとは、若者にしてはしっかりしているね!よし入国を許可しよう。文字見た情報では、極めて不審な人物だったが、なぜか君を見ていると信頼に値する人物に感じるよ」
信頼される神様を目指します!
「ありがとうございます。これからも精進します」
これから頑張ります!
「おっと。そうだった。君のテイムされたスライムなのだけど、しゃべるモンスターっていうのさ、我が国には過去に例がないのだよね。魔法や技法を教えてもらう事は出来るかい?」
おっと。
どうしようかな……?
門外不出の技法って言うと、さっき普通にスライムはしゃべるって言ったのと矛盾するしな~。
「浄化魔法を使います。使いこなすまでには、かなりの練度を必要としますので、教えて差し上げでも構わないのですが、少々難しいかと」
だって、自分でも原理が分からないのですから‥‥
「お、教えて貰えるのかい?まさか本当に?!本当にそう言って貰えるとは思わなかったよ!すぐ有能な魔法使いを準備させてもらうよ!カイン急いで人員を準備してください!」
「はっ。か、かしこまりました!」
冷静なカインさんが大慌てで出て行く。
「コウさん。申し訳ありませんが、しばらく当家の屋敷に滞在頂く事は可能ですか?」
「はい。大丈夫ですよ」
そう伝えると、エドワードさんは手に持った鈴を鳴らした。
すると執事らしき人が部屋に入ってきて、見事な礼を行った。
小セバスチャン登場!!
「コウさん。それではこの者に案内をさせますので、ごゆっくりお過ごし下さい。私のことはエドワードとお呼びくださいね。セバスチャンあとはよろしく」
おぅ……、まさか本当にセバスチャンとは!!
「コウ様。それではこちらにどうぞ」
小セバスチャンに連れられて、今夜は豪華な宿に決まりました!
---夕方:エドワード視線---
昼間に膨大なエネルギーの放流があった。
天をも貫く光の柱が建ち、動物や魔物を含めたあらゆる生き物が必死に逃げてきた。
人を見た魔物はさらに遁走し、襲ってくる気配は全くなかった。
普段であれば、軍を派遣して討伐を行う天災級の魔物。
その超級の魔物が人を見て遁走する。
その光景は異様ながら、人類に対しての敵愾心を感じなかった。
そしてその直後に来た謎の人物コウ。
気質は穏やかで嘘が下手。
タイミングから言ってとても無関係とは思えないが、関係性は分からない。
悪意を感じさせない雰囲気から、指南や逗留を願ってみたら普通に留まってくれた。
その後に届いた報告書では…
【東の森で天を貫く柱が建ち、あらゆる生き物が遁走したとの事。原因は一切不明。光の柱があったと思われる場所には、巨大な窪みが出来ており、周辺からは動物が消え、人外の力を感じさせた】
「うーん。どうしたものか…」
ひとつ思うことは、彼とは親睦を深めておいた方が良いと、なぜか自らの〈勘〉が訴えている。
結果的に、エドワードは自分の判断を超えていると考え、最終判断については、宰相と協議することにしたのであった。