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タクシーと外の世界

作者: すこくらげ☆

投稿も少し慣れてきたのか

自分の考えたことをこうして発表出来る場があることに

感謝します

ご一読いただければ本当に嬉しいです

私夏子は某広告代理店に勤めるOL

独身だけど…何不自由ない生活を送っていた


「あ〜あ今日も残業で疲れたわ…」

独り言なのか誰かに言いたかったのか

分からないような一言を残し

「遅くなったからタクシーで帰っちゃおうかな」

そう思った夏子は…駅前に止まっていたタクシーを呼び止め

「お客さん…何処まで?」

「@@区の自宅までお願い出来る?」

「はいはい」

別にどうということのない会話を運転手と交わし

夏子は仕事の疲労からなのか…タクシーの車内の中で

眠りに落ちていた


「う〜んよく寝た…運転手さん?」

その異変はすぐに気がついた

何故なら…その景色は見たことないところだったからである

「え?!え!??」

動揺する夏子にも運転手は動じる気配もなく

「ちょっとちょっと!これ一体どうなってるのよ!」

「………」

景色に気を取られていたのか…夜11時頃乗り込んだのに

時計を見ると…午前7時の表示が

「こんなのじゃ会社に行けないじゃない!早く自宅に帰して!」

「お客さん…」運転手が語りかける

「俺は今までタクシーの運転手として勤勉にやってきたつもりだ…それ故の

悲しみがあるってことに…出来事が終わってから気が付いたんだよ」

「………悲しみって?」

「夏子…夏子ちゃんっていいかい?会社も1日欠勤したところで

 すぐさまクビになるようなところでもないんだろう?

 済まないが今日1日俺に付き合ってもらえないかな…

 乱暴は絶対にしないと約束するよ」

冗談じゃないわと考えた夏子であったが…この運転手の言ってることは

嘘でない…そんな気配から 

「分かったわ…その代わり今日1日だけよ…もし約束を破ることがあったら

 すぐさま警察に連絡するから」

「ありがとう…分かったよ…それじゃあ」


このまま無言でこの男の言いなりになってるのも

気持ちが悪いというよりは退屈さを覚え

「ねえ運転手さん…どれくらいの間この仕事をやってるの?」

運転手は見たところ…45から50歳というところであろうか

「そうだなぁ…なんか気が付いたらタクシーに乗ってたよ」

「何それ??」思わず笑ってしまう夏子

「そういう夏子ちゃんはどうなんだい?」

「どうって…」

「その家族のこととか…」

「うちは父親と母親…あと弟が居てるわ…それとペットで飼ってる犬」

「犬かぁ…さぞ可愛いんだろうなぁ…」

「うんすごく可愛いよ」

ここまで会話して…どこか夏子の性格を探っていたような運転手は

「よし!今日は買い物でもしようか」

「え?」

「といっても夏子ちゃんが欲しいものを買ってあげるんじゃないんだ

 俺の買い物に付き合って欲しいってところでね」

ここまで言いなりになってるのでもう抵抗する気も無く

「分かったわ」そう答える夏子も恐怖心は消え…どこか楽しくなってきたのを

感じていた


郊外の商店街のようなところにタクシーを止め

「さあ行こうか」

「うん」

商店街らしく雑貨が並んでるような店をしばらく練り歩いていると

「夏子ちゃん…このネックレスのようなものはどうだい?」

「うんこれ可愛いね」

運転手はそれをレジに持っていき

「買い物って随分と質素なものなのね」

そのネックレスは本当に安価なものだった

「何ていうか色あいとかね…夏子ちゃんこれをつけてくれないかな」

「え??まあ別にいいけど」

「うんよく似合ってる」

「じゃあ次行こうか」

「ええ」


こうして7、8軒は雑貨屋、洋服店、靴店、化粧品店など

訪問するたび…購入したものを全て夏子に手渡し

夏子も少し気味が悪くなってきたのと…運転手の不可解な行動から

(本当に家に帰れるのかしら…)その不安を少しでも払拭しようと

「運転手さんって本当変わった人だね…こんなプレゼントしてもらって

言うのもなんだけど」

「いやいいんだ…」店を訪れるたびにどこかしら元気が無くなって

いく様子を…夏子には感じ取ることが出来なかった


「そろそろお腹も空いてきたろう…食事にしないかい?」

時計を見ると…昼12時を少し回っている

緊張感からか…空腹感を感じなかった夏子であったが

安心の気持ちが出てくるにつれ…食欲も出てきたのか

「うんうん…でもあのさ〜食べるものくらい自分の好きなのを選んでいい?」

「ああ済まなかったね…何でも好きなもの食べるといいよ」

「やった〜ありがとう!」

どこがいいかなぁ…でも場所柄あまり良さそうなところは…

思いつつ良さそうなところを探していると

「まあ疲れたし…喫茶店の軽食とかでもいいよ」

そう答える夏子に

「夏子ちゃんはあまり欲が無いんだね…分かったじゃあそこの

喫茶店にしよう」

「うん」


喫茶店に入るなりお互い無言になってしまう二人

それもそのはずで…つい先日まで他人の関係

タクシーや店の中でどうにか会話出来たのは

十分過ぎるくらいの距離感があったからである

そのことに気がついた夏子は

「しまったかも…何かファーストフードの店にでもしておけば…」

無言の間に耐えられなくなってしまったのか

運転手が口を開く

「夏子ちゃん…昨日といい今日といい本当に済まなかったね」

「いえいえ…」

「身の上話っていうんでもないんだけど…去年の今頃

 女房を亡くしてしまってね」

「え…」

「運が悪いとしか思えないのか…不治の病を宣告され

 だからといってこの仕事を辞める訳にもいかず…」

「そんな…」

「もちろん見舞いには時間の許す限り行ったんだ…しかし」

「しかし…何?」

「奥さんが危篤状態です…すぐさま病院に駆けつけてもらえませんか…

 こう連絡があったんだけど…あいにく俺は病院から遥か遠く離れた

 場所までお客さんを運んでいてね」

「………」

「お客さんを運び終えるなり…凄いスピード出して病院に直行したよ

 だけど…」

「………」

「俺は女房の死に目に会うことが出来なかったんだ…」

悔しさなのか悲しさなのか…運転手は涙目で俯いてしまった 

「いや…だけど奥さんの危篤はいきなりのものなんでしょう?

 それは運転手さんは悪くないよ!」

「ありがとう夏子ちゃん…自分でもそれは少しくらいは考えてるんだ…

 でもね…」

「娘が俺には居る…というか残してくれたと今は思ってるんだけど

 あの出来事から…今までのように懐いてくれなくてね

 夏子ちゃんの言う通り…俺のことを許してくれてはいるんだろうけど…」

「うんきっと元通りになるよ」

「そうだね…夏子ちゃんをここまで連れ出したのは…見た目がそっくり

 なんだ…俺の娘と」

「そうだったんだ…」

「夏子ちゃんを騙すつもりは毛頭無かったんだけど…こうしてプレゼントなり

 することで…娘に謝った気持ちで居てたんだろうね」

夏子は優しく接してくれるこの運転手に…少しばかりか気を許していた

なのでこの話に若干のショックを受けつつ

「運転手さん…私にそんな気を遣ってくれてたのがどうしてだか分かったよ

 でもね…その気持ちはやっぱり直接娘さんに伝えないと」

「そうだね…分かってはいるんだけど…なかなか行動に移せなく…

 なので夏子ちゃんに…」

「その勇気があれば娘さんもいつかきっと理解してくれるよ!」

「そうだね…」

あ〜〜もう〜…内心怒りたい夏子であったが…状況を知るとそうはいかず

何か閃いたのか

「運転手さん…ちょっと目瞑ってくれるかな?」

「ああいいけど…こうかい?」

しばらく流れる沈黙…すると…頬に柔らかい感触が

「目開けていいよ」夏子がそう言うのでそうすると

「夏子ちゃん今のは?」夏子は顔を赤らめ

「今のは私の初キッスだぞ…これでうまく行かなかったら承知しないからな!」

運転手も照れているのか動揺してるのか…体が硬直している

そんな中「ありがとう夏子ちゃん…その通りだね」

夏子も少し感極まってしまったのか

「そんな優しくしてくれたら…泣いちゃうだろ…」

実際顔を伏せ…体中を震わせている

運転手はそんな夏子にこれは心底悪いことしちゃったな…と

後悔の念に苛まれてしまい

「済まなかったね夏子ちゃん…でもこれで何か吹っ切れた気もする

 頑張らないとね」

「そう思ってくれるなら私も嬉しいよ」

「うん…赤の他人のはずなんだけど…1日でこんな仲良く出来るなんてね…

 天国に居る女房はちょっとは妬いてくれたりするんだろうか…」

「さってね〜」

「じゃあ昨日の場所に戻ろうか」

「うん」

小一時間タクシーを運転し…元の場所に着いた

「ありがとう夏子ちゃん…おっと運賃は要らないよ」

「そうなんだ…まあ自分が行きたいって言った訳じゃなかった

 からね〜」

「そうだね…気持ちが上向きになってきたのか…笑顔でそう伝えると」

「運転手さんは…」

「え?何かな?」

「ううん何でもない…それじゃあね」

「じゃあね…」

この一言を残し…タクシーは去っていった

見えなくなるまでそのタクシーを見つめ

涙が溢れそうになるのをぐっと我慢しながら

「タクシーも…たまには使ってみるもんだね…」

そう強がりを言うのがいっぱいいっぱいの夏子だった


おしまい


前に二作ここに投稿したものは

あまり良くない終わり方だったように思うので

ハッピーエンドを連想して書いてみました

読んで頂いた方へ…お疲れ様でございました

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