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こちら異世界放送局  作者: 21号
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2話

 土曜日は休みでもいいと思うのだが、会社というやつは休みにしたところでアレコレと難癖つけ

ては仕事をさせようとする。


 まあ、やらないんだけど。


 そうしてしつこい会社の誘いを断り、自分の仕事をきちんと終わらせた上で休みの日は休むと決めている俺は薬局で買った肝油ドロップをかじりながら、今日一日の疲労回復を感じつつ布団に潜り込む。

 そしてラジオの電源をつければ、そろそろ放送の始まる頃だ。


「さて、コタツは手に入ったのかな」






『こちら異世界放送局です。


 こんばんは、地球のみなさん。

 パドゥキア王国歴613年10月14日の放送を始めます。


 昨日、ノトス領の商会の伝手を当たって『コタツ』の行方を追っていたんですが、なんと! 偶然にも『コタツ』の現物を譲ってくれてもいいという方がいらっしゃいました!』


 おお、親切な人もいるものだ。まあ対価は要求しているんだろうが。


『料金は金貨7枚と少々高かったのですが、今回の依頼が終われば充分に支払える金額だったので即決で購入を決めました! その時の商人の顔はとても嬉しそうでした……』


 あ、ちゃんと失敗したのは理解しているのか。交渉なしで即決なんて向こうの世界じゃあり得ないというか、ボッタクられてる値段だろうからな。


『……まあ、手に入りにくいものですし、次にノトスに来るのはいつになるかも分かりませんから、いいんです!

 ここで儲けたお金で彼らが販路を拡大してパドゥキアの王都に支店を出してくれるようになれれば、全て問題ありません!


 ということで、本日は商談成立しました!

 現物に関してはお譲りしてくれるのが商会の人間ではなく貴族の方で、どうも領地替えで南方に渡るそうで寒冷地用の品物を処分していたそうです。

 その中にたまたま『コタツ』があったというのですから驚きですし、伝説のコタツをそう簡単に手放すという事も驚きでした。


 とまあ、こういったわけで私の目的は達成されたのでした』


 聞こえてないのは分かっているが、小さく拍手しておく。


『それからノトスの町に出まして、肝油ゼリーを教えてくれた町の子供たちに挨拶をしてきました。

 寒冷な気候ということで、あの町にはスラムが出来にくいと言われています。

 というのもあまりに寒くて、貧乏な人たちが生き抜くには厳しすぎる環境だからです。


 とりわけ体力のない子供たちが生きるのは大変で、特に身寄りのない子供を預かる孤児院は常に赤貧にあえいでいると聞いています。


 そこで私は彼らに情報のお礼として、大量の肝油ゼリーをプレゼントしてきました』


 おい。

 それ絶対に自分で買った分が要らないからって押し付けただけだろ。


『べ、別に押しつけたわけじゃありませんよ?』


 まるで会話できているかのような反応が返ってくるが、こういうこともたまにある。根が正直者というか、罪悪感があるのだろう。


『・・・しかしまあ、孤児院の子供たちはあの、あの肝油ゼリーを実に美味しそうに食べていましたね。

 何となく、別に悪気があったわけではないんですが、何となく気が向いたので、道中に手に入れた熊肉とかを凍らせて孤児院に差し入れしておきました。


 あっ!

 大峡谷のところで見つけた奴じゃないですよ?


 氷漬けの肉は保存が効きますし、ここは元々寒冷地です。

 ついでに魔力を使って火をつける魔道具もプレゼントしてきました。

 父、ヒーロー・タナカが作った失敗作という話ですが、微量の魔力を貯めていって長時間火をともす魔道具は日常生活にはとても便利なものです。

 父いわく『コンロ』というらしいですが、こちらは王都で量産品が出回るほどに売れています。おかげで父名義の収入が寝ていても入ってくるので、とても助かっています。


 ちなみに我が家は収入こそ多いのですが、父が作るのは魔道具の試作品だけではなく、借金も非常に多いです。こちらも魔道具制作の費用ですが。


 失敗作を作るにもお金がかかりますので、父の浪費癖には母も困っていました。さすがにいきなり金貨2000枚の催促をされた時には父を糾弾しようと母が鬼のような形相になっていました。


 ちなみにその時父は新しい魔道具を完成させたばかりで、その魔道具の特許使用料が年間で金貨500枚を軽く超えるとの事だったので、その収入を担保に分割支払いということで待ってもらえました。

 その後の父はしばらく母に怯え、家事を手伝ってくれていました。


 ああ、こんな事を話していたら時間になってしまいました。


 ちょっと慌ただしいですが、お聞き下さってありがとうございま』


 終わった。


「何やってるんだか」


 つい笑ってしまう。

 この放送はたまにこういうことがある。

 パーソナリティーがヒートアップしてお喋りに熱が入っている内に電池が尽きかけてるのに気づかず、いきなり終わる。

 こんなところもこの放送の醍醐味だ。

 たとえ尻切れで終わっても、同じ日に連続して放送することはない。


 それは前パーソナリティーの頃から変わらないルールで、


『もし2連続で行ったり、時間をずらして行うと、聞いていてくれる人たちがいたときに『待たなければいけない時間』の範囲が広がってしまって、遠のいてしまうかもしれないから』


 という理由で放送は1日1回だけとなっている。


 ようするに、次回の放送は今回何か言い損ねたことがあれば、それも喋る内容に入ってくるからまた忙しくなるわけだ。


 これは明日も楽しみだ。


 寝る前に聞くものとして最適ではないかもしれないが、この気分を味わいながら夢を見るのも悪くない。


 夢の中で、大きな熊の肉を喜んで食べる子供たちの笑顔と、そのお礼にと肝油ゼリーを使った煮こごりを出されて引きつった笑顔を浮かべる少年を見たような気がした。


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