第89話 説得
「何か方法があるのか・・・?」
自信がありそうな夢叶の顔を見て、まさかと思いながら訪ねる上級魔族。
「・・・たぶん?」
夢叶のその言葉に脱力する。
「まぁ、取り合えず俺が考えている案を聞いてみてくれ」
「わ、分かった」
たぶんと言われるまで内心期待をしていたが、そんな期待はもはや一瞬で消えてしまったが、取り合えず聞いてみる事にする様だ。
「まずは、ここに居る助けた者達を説得する。聞いた感じでは信用されていないんだろ?」
「・・・ああ」
残念そうにわざとらしく肩を落とす。
「俺達が仲介すれば多少の信憑性も持つと思う。説得した後、俺がゲートでその者達を街に帰す」
「5人いるのだが可能な・・・ようだな」
可能なのかと問おうとしたが、6人がゲートでこの部屋に入って来たのだから可能なのだろう。
「ああ。そうすればもしも説得した後も言う事を信じなくてもこの場所がバレる心配はないだろう?」
「そうだな。人間は自分の都合が悪くなったら直ぐに手の平を返す者が多いからな。慎重に越したことはない」
「街に帰した後、そいつらに魔族に助けて貰ったと宣伝して貰うんだよ。直ぐには信じないだろうが、誰かが傷ついた時にそいつらがいれば、攫わずともその場で傷を癒してやることが出来るようになると言うのが俺の考えだ。まぁ、誰もが思い付きそうな事ではあるが、単純で効果的だと思うが・・・どうだ?」
「確かに、似たような事は私も考えた」
・・・考えたのか。・・・そこ、ドンマイみたいな顔をするんじゃない。
「しかし、説得しようにも話しかけるだけで怯えられてしまって話にもならなかった為に諦めたのだ。お前達が間に入ってくれるのならば、可能性が上がるだろう」
しょんぼりとしながらも話がその方向で纏まり、計画を立てた。
「そういえば、名前は何て言うんだ?」
「魔族には普通は名前は存在しない。人間で言う上位魔族よりも更に上の魔族だけが名を持っている。魔王の1人サタンやアスモデウスなどだな」
「魔王って複数いるのか」
「魔族も人と同じように縄張り争いは存在するからな。それぞれの縄張りで一番強い者が王となり指揮している」
「人間で言う、国か」
「そうだ」
「だが、私は、サイラン殿から付けて貰った名前がある」
握り拳を力強く作り、熱弁するかの様だ。
「私の名は、ガードだ」
「・・・良い名前だ。俺の所の言葉で、ガードは守るという意味があるんだ」
ガードは何処か誇らしげに微笑だ。
――――
「こんにちは」
リリィの声にビクっと体を震わせこちらを向く12歳ぐらいの少年が2人。一部屋に最小限の生活に必要な物が詰められている。そんな中に二人もおり、あまり動き回るスペースがない。
「魔族じゃ・・・ない?」
「そうだよ」
震え声で聞いてくる内容に答える。
「私は人間だよ」
「助けに来てくれたのか!?」
「ま、魔族を退治してくれたの!?」
偉そうな少年と年相応らしい少年。
「どうして魔族をしたと思ったの?」
「だって、あの魔族を倒さないと助けに来られないんじゃ・・・」
「今はどうでも良い。早く俺をここから助け出せ。先程の言い方だと魔族の目を盗んできたのだろう?」
偉そうなだけかと思ったら案外頭が良いようだ。将来に期待できる。
「でも、貴方達はその魔族に助けられたんじゃないの?」
「それは、後で食べるか実験に使うつもりだったんじゃ?」
「フン。食べるなら既に私達は食べられているだろう。だから何かの実験に使われるのだ」
生意気な少年が年相応の少年に言う。
「でもね。ここに連れてこられた人は全員無事だよ」
「何!?」
「ホント!?」
何故?と驚く生意気少年と嬉しさで驚く年相応の少年。
「あなた達を助けた魔族は、治療した後、食事を持って来たり話をしようとしなかった?」
「・・・うん。でも怖くて何も喋れなかった」
「下手に喋れば期限を損ねられて直ぐに殺されてしまうと思ったからな」
生意気な少年は何故、無駄に頭が回るのだろう。大人の腹の探り合いなら警戒するのも分かるが、まだ子供でそこまで気を使うとは。
「そう!それ。皆がそう思い込んでいるんだよ」
「思い込んでいる?」
「そう。この街にいる魔族はね。この街の人を守る為にずっと、この街を作られた時から守っているの。初代町長と一緒にこの街を作ったんだよ」
驚きを隠せない少年二人。
「証拠は?」
そういえば、魔族の話を完全に鵜呑みにしてしまっている。でも嘘を付いている感じには見えなかったし、まぁ大丈夫だよね。
「んー。前のサイランの町長さんは知ってる?」
「ああ。あの方は素晴らしい、回復魔法で街の皆を治していたのだ。無料ではなかったが、他所の者達よりも格安であったと聞いている。私もいずれ、回復魔法を取得して街の皆を守る立場になる為、日々学んでいるのだが、思うようにいかない」
街の人達の事をこんな年から考えている何て、この偉そうな子は今の町長の息子だろうか。
「実際に町長さんが回復魔法を使った所を見たことがある?」
その言葉に少年達は「あれ?」と首を傾げる。
「・・・そういえば見たことがないかも」
「・・・うん」
「それはね。サイランの前の町長達だけの秘密で貴方達を助けた魔族が回復魔法を使っていたからなの。恐らくだけど、治してもらった人も町長が回復魔法を使った所を見ていないと思うよ」
「そういえば、何故か目隠しされたって言ってた気が・・・」
「でしょ。これでも魔族の事は・・・ううん。この街にいる貴方達を助けた魔族は貴方達を、この街を守る為にいつも見守ってくれているのよ。少しは信じてみてくれないかな」
ガードの話によるとガードの様な存在はかなり特殊な為、魔族全体を信じてとは言えなかったし、もし言って変に説得しようと死なれても目覚めが悪い。
「分かった。お姉さんの言葉を信じるよ」
「うん!」
少年達の説得を終え、部屋のない階の少し広い広間に移動した。そこには、他の攫われた人達が3人いた。リリィと同じようにロシィ達が説得して連れて来ていたのだ。
暫くすると、緊張した様子でガードが広間に入って来て皆の前に立つ。ガードの姿を見た瞬間、攫われた人達は何をされるのだろうかと体を震わせている。やはり、話だけではなかなか根付いた恐怖は取れないが、説得のおかげか、逃げずに話を聞こうと怯えながらもその場を動かずにいる。
「・・・皆・・・。すまない」
ガードが頭を下げ謝罪する。人々は魔族が上級魔族が頭を下げて謝罪する光景に目を疑っている。
「私は、皆の命を守る為に連れ去り閉じ込めた。私は、今も皆が恐れている上級魔族だ。それを隠す為に外に漏らさない為に皆を閉じ込めていたのだ。命さえあれば十分だろうと・・・。ただ、それは私の考えが間違っていた。命があるだけで、生きる為だけの行動をしているだけでは生きていると本当に言えるのかと彼らに気付かされた」
手の平で夢叶達一行を指す。
「私は、この街の創設者であるサイラン殿との約束、また、創設者の一人である私自身がこの街を守り、この街の者達を幸せにする為に見守ってきたつもりだ。―――」
サイラン殿との創設の話、自分の存在はサイラン殿の子孫だけが知っており、最近亡くなった為に傷付いたものを癒す事が出来なくなってしまった等の説明を、熱く語った。
「お、俺はこの魔族の・・・ガードの言う事を信じるぞ」
「俺も!」
「私も!」
「僕だって!」
次々に賛同する人達。それを見て感激して涙を流し礼を言うガード。その涙を見て一層、信じるに値する、何とかしてあげたいと思う人達であった。
――――
「あ、あれは!?」
「ミ、ナト!?ミナトなのかい!?」
「おい!攫われた人達が帰って来たぞー!!」
時計塔から出ると近くにいた人達に直ぐに発見され、騒ぎになった。ミナトとはリリィが説得した年相応の少年の事で走って近づき抱きついたのは母親の様だ。
「貴方達が助けてくれたのですね!?」
後から出て来た夢叶達一行に感謝の礼を何度も述べる。チラリとこちらを見るミナトに頷き返す。
「違うよ、ママ」
「え?」
「僕を助けてくれたのはあの魔族だよ」
「な、何を言っているんだい?」
顔を引き攣らせる母親とその周囲の街人達。
「ミナト君。嘘は駄目だ。魔族が回復魔法を使えるわけがないだろう」
「ホントだよ!ねぇ!」
こっちに話を振ってくるミナト少年。
「ああ。皆さんには信じられないでしょうが、ここ数日攫われた人達は皆、同一の一人の魔族によって命を助けられています」
「しょ、証拠は!?証拠はあるのか!?」
他人のこの街の人間でもない言葉など信じられはしないか・・・。
「今、こうして攫われた人達全員が無事だというのが証拠にはなりませんか?それに、その者達が皆、その魔族に助けられたと言っているのだから。それとも同じ街の人の言葉を、ましてや貴方は自分の息子の言葉を信じられませんか?」
「「「「・・・うっ」」」」
少し威圧を掛けて話しかける。
「そして、これからその魔族に来てもらうが、決して逃げたり危害を加えようとしないでいただきたい。もし、そのような事をすれば、その魔族じゃなく。俺がこの街を滅ぼす事になる。分かったか?」
威圧を更に掛け、半分脅す様に言う。ここまで言えば、簡単には逃げないだろう。
「ガード。出てきていいって」
時計塔の中で待機していたガードをティエが呼ぶ。
「「ひぃ!?」」
「ま、魔族!」
「「「「ヒッ!!!??」」」」
魔族に怯え、反射的に逃げようとした者をさらに威圧で逃げないように竦ませる。
「すまない。皆には迷惑を掛けた」
ガードは攫った人達と同じように説明をする。ついでに、声は遠くの方まで聞こえるように拡張している。
「・・・理解はしたが・・・信じられない!こんな魔族がいるわけがねぇ!」
「そ、そうよ!私の旦那は魔族に殺されたのよ!」
そうだそうだと皆ガードを信じる事が出来ない。ガードは俯き苦渋の顔をしている。
「ねぇ、私ね。前に人に・・・奴隷として酷い人生を送っていたの。この人に助けられるまではね」
ティエが夢叶の肩に手を置き話始める。
「悪いのは、その元主人何だけど貴方達の言い分だと人間全員がそうだって事だよね?」
「「「「「は?」」」」」
何を言っているんだという反応だ。
「だって、そうでしょ?ここにいるガードは確かに魔族よ。確かに魔族の中でも例外中の例外らしいけど、事実ここにその例外がいるのよ」
「そ、それが何だって言うんだ!魔族は魔族だろ!」
反発する人々。
「確かに魔族ね。でも貴方達は人間よね?」
「当然だ!」と口々に声が上がる様子を見て口角を上げニタァと笑う。
「なら、人間はまた私を奴隷にして私に酷い事をするって事だよね?私、そんなのごめんよ。だからそうならない為に人間全てを殺さないといけないよね?貴方達の言い分だと人間全てを殺してもいいってことだよね?」
「そして、俺の女であるこいつが不幸になるのを黙って見ておくほど俺はお人好しではない」
ティエの前に一歩出る夢叶。
「そうだな。まずは手始めに、そこの少年。折角魔族が助けてくれたのに残念だったな・・・消えろ!」
「え!?」
シュンとミナト少年が跡形もなく一瞬で消え去った。
「ミナト・・・!?ミナトーー!!!」
母親の悲痛な声が響き渡った。
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