第88話 サイランの上級魔族
いつもの如く、舐められたのでギルドカードを見せるがいつもの如く、偽造だ何だとイチャモンを付けられたのだ。
いつもの如く絡んできた男達をサクっと捻り潰す。今回はシルヴィがデコピンで処理した。
周囲が唖然としている間にギルドを出るのであった。
そして、いつもの如く再び人気のいない場所に行き、ゲートで魔族の所にゲートを開く。
「何者なのだ!?」
両耳の上辺りに羊の様な角を生やし、灰色の短髪で腰部分が長めのタキシードを来た男が驚きの声を上げた。急に自分の所に集団に押し寄せたのだ、驚くのも無理はない。
「あ、お邪魔します」
「あ、いらっしゃいませ」
ロシィの挨拶を律儀に返す魔族。
どうやら部屋でくつろいでいた様だ。部屋は人間らしい部屋で、ソファーや机、置物などがある。
「って違う!ゲートを使える人間がいるとは・・・一体何の用だ?人間!」
ノリツッコミをしながら警戒心を露にする上級魔族。
「アンタがサイランの街から人々を攫ってるみたいなんでな、討伐依頼があったんだよ」
「この私を討伐?・・・フン。愚かな」
嘲笑う上級魔族。
「それで、何で人々を攫っていたんだ?」
「死にそうになっていた者を助けていただけだ」
やはりか・・・そんな気はしていた。実験に使用していたとか、甚振っていたとかなら倒せば楽なのに、厄介な事ばかり起こる。
「なら、何故攫った人々を返さないんだ?」
「魔族だからだ」
「は?」
意味が分からないと首を傾げる。
「魔族が人間を助けるなど普通しないだろう?」
「そうなの?」
「ん」
カミナに確認をすると頷かれた。
「でも、それに何の関係が?」
「私は、魔族の中では異例で回復魔法が使えるのだ。普通、魔族は回復魔法を覚えるというような発想は持たないのだ。力こそが全て、至高という考えが当然で当たり前だったのだ。だから過去、私の知る限り回復魔法を使える魔族に出会ったことがない」
「そうなの?」
「ん」
再びカミナに確認をすると頷かれた。
「昔に、私は大怪我を負った事があってな。命からがら逃げた時にサイラン殿に出会ったのだ。彼は当時、サイランの街を作っている最中だったのだ。それなのに魔族である私を気にする事なく匿い、傷を癒してくれてな。その時に傷を癒せる、癒される素晴らしさを知ったのだ。傷が完全に癒えた後、サイラン殿に頼んでな。回復魔法を教えて貰ったのだ。そして、私は影でサイラン殿をサポートしつつ、この街を作り上げ、今ではここまで大きくなったのだ」
過去を懐かしむように話す上級魔族。
魔族は普通、逃げるよりも死ぬまで戦うものがほとんどらしい。恐怖で逃げる魔族が稀であるが故回復魔法を必要とせず、回復よりもより相手を倒せる魔法を取得するのに時間を費やすそうだ。しかし、この上級魔族はその恐怖で逃げる稀な者であり、奇跡的に良い人物で出会い、今のこの人助けをする上級魔族が生まれたのだろう。
「ん?この街?」
「ん?ここはサイランの街の時計塔の中だぞ」
「なん・・・だと!?」
何故かロシィが驚く。言いたいだけだろう。
「まぁ、それから数十年、共にこのサイラン殿の名前を付けたサイランの街を二人で守って来たのだが、人間と魔族。当然寿命が全く違う為、サイラン殿が逝く前にこの街を頼むと頼まれてな。時折人助けをしているということだ」
「・・・お前の事は誰も知らない様子だったが何故だ?」
この街を作った者の一人ならば誰かこの魔族の存在を知っていても可笑しくないはずだ。影からと言ったって街作りを手伝うのには限界があるはずだ。主夫の様にサイラン殿を世話していたのなら別だが。
「過去にな。顔を出した事があったのだが、その時にサイラン殿も何度説明してくれたのだが、絶対に何か企んでいると誰も信用してくれなくてな。結局この街を逃げるように去ったのだ。表向きはな。その後、サイラン殿がこの時計塔を作り、中に住処を作ってずっと影ながらこの街の人々を手助けしてきたのだ」
「それが、何故最近になって表に出るようになったんだ?」
今まで通りにしていれば何の問題もなかったはずだ。
「サイラン殿の子孫だけが私の事を知っていてな。子孫達が私の所に街の者を癒す為に連れて来るのだ。その治療費を私の生活費としていたのだが。最近、私の事を知る子孫も全員賊に襲われて亡くなってしまってな。表向きはサイラン殿子孫たちの回復魔法で癒してきたという事にしていた為にその手が通用しなくなってしまったのだ」
「なるほど、それでもこの街の人を助ける為に魔族は信用されないが為に攫ってから回復魔法を使っていると」
中々厄介な問題だな。魔族は悪という人間の思い込みが枷となっているのだろう。これを取り除くのは至難の業だろう。
「でも・・・それなら尚更、その者達を開放しない理由が分からないだけど。ワザと逃げれるようにするなりすれば良いんじゃないの?」
ティエが疑問を口にする。
「それをすると私の住処の場所が割れてしまう。これでも私は上級魔族転移でこの場所に移動しているのでね。それに、何処か違う場所となれば、街に戻る途中に魔物に襲われたり、賊に襲われる可能性が高いから解放しようにも出来ないのだ」
「なるほど。中々厄介な問題ね」
ティエも厄介だと分かってくれたようだ。
「おっと、何故かこんな話になってしまったが私を討伐しに来たのだったな。私とて只で殺されるつもりはない。そちらも死ぬ気で掛かって来るが良い」
急に思い出したかのように戦闘態勢を取る上級魔族。
「え?いや、いいっす」
「・・・は?」
一瞬、何を言われたのか分からなったようだ。
「いや、アンタが悪い奴なら消そうと思ったが、良い奴みたいなんでな。平和的に行こうと思うのだが?嫌ならその角だけ残して消すが・・・どうする?」
「ククク、アーッハッハッハ!」
「怖!?」
急に笑い出す魔族にドン引きするロシィ。
「いやいや、すまない。長年人間から避けられ、忌み嫌われ続けたこの私が、こんなあっさりと受け入れられるとは思いもしなかったのだ。助けた者達ですら和解できていないと言うのにな」
今までの苦労は何だったのだろうかという思いが溢れて来て、薄っすらと涙が目に溜まる。
「感動している所悪いが、俺達が特殊なだけだから余り他は期待しない方が良いぞ」
「こんなにも怯えられずに会話をしたのも久しぶりなのだ。十分すぎる」
人恋しさというものだろうか。魔族なのにな。
「それじゃぁ、今後についてだが・・・。お前は、今後も今まで通りに1人で生きるのか?」
「そのつもりだ」
「なら、人攫いももう止めるか?」
「む・・・」
「当然だろ?人攫いをするから討伐依頼が出るのだから」
「しかし!この私にこの街の民を見殺せと言うのか!?」
理解はしてても納得はできない。自分がどうなろうと民は助けると言う気概を感じるが。
「だがな、お前が攫って治療した者の家族は帰って来ないから死んだと同じ何だよ。結局それは民を不幸にしているとは思わないか?」
「だが、死ぬよりは良いだろう?」
「本当にそう思うか?」
「何?」
生きる以外に重要な事があるものか?と反発的な目を向けて来る。
「今、お前が救った者達はどうしている?」
「時計塔の中で過ごして貰っている。衣食住もしっかりと与えている」
「それで?」
「何?」
それ以外に何が必要かと目が訴えている。
「衣食住以外には何をしてやっている?」
「それ以外に何が必要だと言うのだ!?」
そのままだった。
「さっきの会話からしたらお前はその者達と会話すらしていないのだろ?」
「それが何だと言うのだ!」
明確な答えを言わない夢叶に段々と魔族がイラつき始める。
「それで生きていると言えるのか?そいつらはそれで満足しているのか?」
「生きているし、それで満足だろう!?」
「これだけ言っても分からないか・・・ならば、自分で体験してみるが良い」
手を翳すと魔族の周囲が闇に包まれる。
「お前!?クソ!信じた私が愚か・・・!?」
言い終わる前に闇が魔族を飲み込む。
――――
「・・・ぅ。ここは・・・?」
ベッドの上で目を覚ました魔族が見渡すとそこは先程までいた自分の部屋とは何も変わらない部屋だった。ただ違うのは先程までいた人間達がいないくらいだ。
夢でも見ていたのだろうか?それにしては鮮明に覚えている。あの一瞬でも信じた人間の顔を。何故信じたのだろうか。昔もそうやって私を殺そうとした者がいたではないか、だから1人でいる民を守ると決めたのに。
「民の様子でも見に行くか」
立ち上がり、部屋を出ようとするが、扉が開かない。
「取り付けが悪くなったか?」
力を入れても体当たりをしても開かない。魔法で破壊しようとしてもビクともしない。
「一体、どうなっているんだ」
全力で破壊しようとしても全くの無傷だ。扉だけでなくどの壁も全て。
ガチャ。
「な!?」
何一つ傷が付かなかった扉が簡単に開く。そこにいた人物は夢かとも思っていた人間の1人、肩より少し長い黒い髪に真紅の瞳、黒のワンピースの少女が入って来た。
手にはお盆の上に食事が用意されている様だ。少し硬めのパンに具沢山のスープの様だ。それを机の上に置いて無言で去って行こうとする。
「おい。何者だ?」
「あ、貴方に助けて頂いた者です」
少女はビクっと肩を震わせ、そう答えた。
この様な少女を助けた覚えはない。サイランの住人は大体把握しているのだ。この街の人間ではない。嘘を付いて何の得がある?この飯は毒入りか?しかし、この私にそこらの毒は効かないし、警戒していれば事前に調べれば良いだけだ。
・・・うむ。検知魔法で調べたが何も毒物は出てこなかった。
なら、何が目的だと言うのだ。
「あ、あの・・・。まだ何か?」
少女の顔をじっと見て思案してしまっていた為か、怯えながら訪ねてくる。
「名前は?」
「ろ、ロネシリィです」
・・・ロネシリィ。やはりその様な者はこの街にいないはずだ。それ以前に助けていないのはこれで確信を持った。ほとんどの名前は資料により把握しているが、名前と顔が一致している者はそれほど多くない為、確信を持てなかったのだ。
「もう良いですよね。失礼します」
「あ、待て!」
呼び止め虚しく、扉がしまる。
「クソ!」
再び、扉はビクともしない。どうやって開けているのか不思議だ。外からは開けれるという事は閉じ込められているという事だ。その内、尋問にでも誰か来るのだろう。
――――
それから7日が立ったが、一向に尋問もされず、ロネシリィと名乗る少女が食事と身近な世話、必要最低限の物だけを届けて来ては、一言二言だけ交わし直ぐに部屋を出て行く。
「訳が分からない」
――――
それから更に月日が流れた。
やる事がない。朝起きて、食事をして寝るだけだ。精々、魔法の鍛錬ぐらいか。鍛錬してもこの部屋を壊す事すらできる気配がない。
――――
更に月日が流れる。幾ら魔法の鍛錬をしてもこの部屋から抜け出せない為、いつの日か鍛錬すらしなくなり、本当に朝起きて、食事をして寝るだけの生活となった。生きるための行動しかしていないのだ。
――――
どれくらいの月日が経っただろうか。3か月ぐらいしてからはもう数える事もしなくなった。恐らく、2年は経過していると思うが・・・それ以上かもしれないしそれ以下かもしれない。もう日付感覚が分からない。
――――
更に月日が流れる。
・・・そして、考えるのはやめてしまった。
『どうだ?』
頭に響く様に聞こえる少年の声。何時ぞやかに聞いたことのある声な気がするが誰だっただろうか。ロネシリィという謎の少女以外の声しか閉じ込められてから聞いていない。しかも、たった一言二言だけだ。
「・・・誰だ?」
パチンッ。
虚ろな状態で声の主を問うと指を弾く音が響いた。
すると、魔族の目の前にいつか見た侵入者の少年少女達がいた。
「・・・これは一体」
見るからに魔族は困惑している。
「・・・ねぇ。指鳴らす必要ないよね?」
「だよね」
ロシィとリリィの厳しいツッコミをダメージを受けてはいるものの何とか流す。
「幻影だ」
キリッ。
何処かの一族の瞳力の様に万華鏡の様に使ったのだ。
「・・・幻?・・・影??」
今のが?という反応の魔族。
「幻覚だ」
キリッ。
チラ。
ロシィ達の方を見ると案の定笑いを堪えている。・・・ああ。普段そんなに笑わないシルヴィやエリィまでもが笑いを堪えるので精一杯の様子。顔が赤くなるのが分かる。
リカバー。
久しぶりに使った気がする。
「幻覚・・・?あれ程までに長い月日を過ごしたと言うのに?」
「ああ。夢を見ているような物だ」
「だが、それにしては!」
「ただし、体感は現実の様に与えられるがな」
恐らく、魔族も夢にしては現実味があり過ぎる的な事を言おうとしたのだろう。黙って、青い顔をしながら何かを考えている様だ。
「・・・そうか。今の幻覚が、今、俺がしている事と同じなわけか」
悟る様に言う。
「ああ。それでもお前は生きているだけで十分と言って閉じ込めるのか?そして、これからも増えるだろ?それだけの人数を世話できるのか?」
俯き、首を横に振る。
「簡単に開放すれば、この場所がバレてしまうなら転移で少し町はずれに送れば良いだけじゃないのか?」
「・・・出来るのならやっている。1人での転移ならこの町周辺なら数回転移できるが、2人だと2回が限界だし、その後は意識を保つので精一杯だ。最悪、転移直後に殺されてしまう」
握り拳を強く詰めが食い込むぐらいに作り、悔しそうに言う魔族。
「なら違う方法でお前を認めさせるしかないな」
やれやれと言った様子だが、何処か自身のある顔でそう答えた。




