第73話
・・・シーン。
受付のお姉さんの見事なこけっぷりに辺りが静まり帰る。
「ご、ごめんなさい。僕がぶつかったばかりに・・・。」
余りの結果に、夢叶にぶつかった12歳ぐらいだろうか、前髪で顔を隠し、少し薄汚れた少年があたふたと謝る。
「い、いえ。だ、大丈夫です。」
そう笑顔で言う受付のお姉さんだが、ツーっと鼻から赤い液体が流れて落ちてくる。それに気づいた受付のお姉さんは顔を真っ赤にして鼻を手で隠し近くに拭く物を探してキョロキョロとする。目を離した隙に夢叶に逃げられる可能性がある為、恥ずかしくても下がれないのだ。
「大丈夫か?」
ポケットからハンカチを取り出すという名の創造をして、作った赤い地球のどこにでもあるような安物のハンカチを受付のお姉さんに渡して上げる。
「あ、ありがとうございます。」
鼻を抑えながら礼を言い、鼻を拭こうとするが直前に手を止める。
「ちょ!?この布、何て手触りが良いの!?このような物で血を拭くわけには行きません。お返しします。」
慌てて突き返されてしまう。「えー?」と困っていると。
「すいませんでした。失礼します。」
ぶつかって来た少年が頭を下げて出て行こうする。
「ちょっと待とうか、少年。」
・・・少年少年と言われ続けて来た自分が相手に少年と言ってしまった。複雑な表情を浮かべているとロシィとリリィが笑いを堪えている。シルヴィとティエはロシィ達が何故笑っているのかよくわかっていないようで首を傾げている。エリィは分かってはいるようだが、ツボではなかったらしくやれやれといったような微妙な反応だ。
「な、何でしょうか?」
「・・・次はないからな。」
ニッコリ。夢叶のその言葉に少年は体をビクっと震わせ、慌てて出て行った。
どうやら少年は、わざとぶつかって来たのだ。当たった時に体を弄られたのだ。性的な意味でなく、物を探すように。そう掏りだ。少年の思いもしなかった結果にもともと悪い事をしようとした所に不運な出来事を引き起こしてしまった為、少年は謝られずにはいられなかった。
今更だが、異世界に来た時の最初に持って来たリュックは魔法の世界の城に放置してきている。あの場所は、ロシィが王だから普段は人に任せているが偶に様子を見に来るという事で一室だけ部屋を借りている。結界もマジェストでもどうにか出来るようなものではない為、あの世界には神も死んだ今、誰も結界を壊すことは出来ないだろう。ただ、あの世界はアース家には悪いがどうも居心地が悪い。奴隷を物扱いする世界だからだろうか。どうもあの世界に住みたいとは思えなかったのだ。だから、また異世界に行ったのだが、前の世界では憎き昔の知人と出会い一波乱御越してしまい、アース家が独立したいというようなことで別れて今この世界にいる。この世界の目的の一つは拠点を作る事なのだから、揉め事は出来るだけ避けて平和に過ごしたいものだ。
「取り合えず、別に気にしなくても良いから、拭きなよ。」
突き返されたハンカチを再び差し出す。何だか、俺の巻き添えでなってしまったみたいだから申し訳なさがある。
「駄目です。無理です!このような上等なハンカチで血を拭くなんて、血の汚れはそう簡単には落ちないのですよ。私に同等の物を返す物がありません。」
だが、断られた。地球の品物はこちらの世界ではかなり上等な品物らしい。異世界あるあるだな。その様子に周囲の目が再び集まると同時にそそくさの受付のお姉さんは裏に戻って行ってしまった。
「えー・・・。」
ポツンとしていると案の定、後ろでロシィがクスクスと笑っている。
「そこの少年、少しその布を見せて貰ってもよろしいですかな?」
小太りで立派な髭を生やし、それを撫でながら少し偉そうに話しかけている商人らしき男。
そして、少年という部分で笑いにリリィが加わった。
「素晴らしい!これは、何という生地で作られておるのですかな?」
何も考えずに言われたまま、ほいっと渡したハンカチを見て絶賛する商人らしき男。
「え?えーっと。そこまでは知りませんね。」
嘘は言っていないはず。マナにより作られたということは知っているが、マナが何の生地を用いてハンカチとして創造したのかまではマナにお任せな為、何の生地で出来ているかは知らないからだ。
「では、どの様にしてこれを手に入れたので?」
男の視線がいかにも怪しんでいる。
しまった。異世界は地球の方が基本的に品質が圧倒的に上というパターンが非常に多い。転移してきた人間が地球産を売って資金を入手するパターンも多いではないか。その上等な物を手に入れれば貴族達と高額な取引が出来、自分の地位も上がるというもの。
「・・・失礼。私は、この街で商人をしております、バイランと申します。この生地の入手が出来るのならば是非ともこの生地を取扱いと思いましてな。ああ、もちろんそちらにもそれなりの対価はお支払い致しましょう。」
「おっと、抜け駆けはいけませんな。バイラン殿。」
「その生地の入手方法、我々にも教えて頂けませんか?」
困っていると、バイランは名前すら名乗らぬ者を警戒するのは当然と気が付き、名乗りと目的を告げる。そこに後ろから同様の商人らしき良い感じで太っている男と少しやせ気味の男二人がやって来た。
「あー。いや、流石に信頼も出来ないあったばかりの人に教えるわけにはいきませんね。依頼もあるのでこれで失礼します。」
「「「あ!」」」
それらしい理由で断り、ダッシュでその場を立ち去る夢叶を慌てて追いかけるロシィ達に、その後ろから商人達が何やら声を上げているが無視してギルドから外に出る。
「ねえ、売っちゃえば良かったんじゃないの?」
「いやぁ、クリエイトが何処までこの世界で浸透しているのか分からないしなぁ。今までの世界みたいに転移でも大それた魔法だから、クリエイト系もかなりのものだろうから、大事になりそうだからな。そうだった場合、変な陰謀とか面倒な事に巻き込まれるのは目に見えているからな。」
「それもそうだね。」
歩きながら聞いてくるリリィにそう答え、街の外に出た。
「おー。何かこの感じ、コノエ森林だっけ?に似ているな。」
街を出ると、直ぐ傍に広がるマディーナ森林。
「懐かしいね。サラマンダーに襲われたんだっけ?」
「そうそう、倒した後がいろんな意味で大変だったな。エリィに剣を突き付けられたりいろいろとな。リリィ何て腰抜かしてなかったか?」
ニヤニヤしながらしみじみとあの頃を思い出していた。まだ、一年たっていないはずなのにだいぶ昔のように感じる。
「ちょっと!あの時はただ動けなかっただけなの!」
「あれ、ユウが謎過ぎたから悪い。」
リリィは少し顔を赤くして抗議し、エリィに至っては物凄い弁解だ。
「まぁ、行こう。流石にここでもサラマンダーに出会う事はないだろ。」
「ユウ・・・それはフラグだ。」
目を伏せて何故か悟ったかのように言うシルヴィ。
えー。
「さて、亜種のスライムとやらを倒しに行こうか。」
「うん。魔物を判別できる部分を持って帰ればいいらしいよ。スライムはコアだって。」
リリィが捕捉説明してくれる。
ワクワクである。スライムにより服が溶けてあられもない姿になる仲間達。
「変態さんだ~。」
「ケダモノさんだ~。」
「そうだな。」
「はぁ。」
「リリィ様の一体何を想像しているの!?まさか!?リリィ様が裸になってあんな事やこんな事をされている姿を想像しているんじゃないでしょうね!?」
想像していたのが顔に出ていたのか呆れられ、ティエに至っては心が読まれているように的確に言ってくる。ただ、自身もそれを想像して、鼻血が僅かに鼻から出ているのが何とも言えない雰囲気を作る。
ガサッ。
「何奴!?」
丁度良いタイミングで物を立ててくれた方に全員が視線を向ける。あと、ロシィ。悪代官が使うような台詞はなんか違う気がするんだが。最低でも人間相手に使うセリフだと思うんだが。この森林の中で出会う確率などかなり低いのに。
ガサガサ。
「へへへ。」
下衆な顔に舌でジュルリと唇を舐めながら茂みから取り囲むように出て来た8人の下衆な顔の男達。
まぁ人間だからあってはいるんだけどさ。いつ危険があるか分からない場所にいるのに周囲を警戒していないわけがない。マナ探知もだいぶ使いこなせるようになり、一定距離までの探知なら必要情報だけを手に入れる事が出来るようになった。例えば、殺気を放っているもの。高速で接近するものなどに条件を絞ればその都度、条件があうものに対して反応してくれるのだ。今回は当然前者である。
「嬢ちゃん達、俺達と一緒に良い事しようぜ。」
「グヘヘヘ」
ニヤニヤしながらジリジリと逃げ場を無くすように近づいて来る。
「いいよ~。」
ロシィが元気よく返事する。
「ほぅ。見た目によらず、小さいのに嬢ちゃんはもう目覚めているのかい?」
「ん?」
何に目覚めているのか分からず首を傾げるロシィ。
「始めても良い?」
「なら、こっちに来い。じゅる。」
男が1人、涎を啜りながら茂みに入っていく。それにひょこひょことロシィが付いて行く。
姿が見えなくなり、暫くすると。
「あーー!!??」
男の何とも言えない叫びが響き渡った。
「しょぼかったね。」
ガサッと茂みの音を鳴らしながら戻ってくるロシィ。
「お、おい!お前。あいつはどうした!?」
仲間が1人問いかける。
「んー?さっきの男?ちみ達、新人狩りみたいだからちゃんと遊んであげたよ?しょぼかったけど。」
答えながらこちらにも情報を渡してくれるロシィ。
「そんな直ぐに終わるわけがないだろ!」
「ひん剥いてやる!」
下衆な男達全員が、ロシィだけでなくこちら全員に襲い掛かって来た。
「「「「な!?」」」」
しかし、一瞬で男達はロシィにより、素っ裸となっていた。
「ねぇねぇ。何か、使える物とか売れそうなのないかな?」
「そうだなぁ。鎧になるのかなこれ。そういうのは売れそうだな。服はどうなんだろう。下着はいらんな。」
ばっちぃという風に夢叶が下着を指先でつまみポイっと投げ捨てる。
「「「「お、お前らー!」」」」
男達が再びキレ顔で襲い掛かって来た。
キーン。
「「「「「「あーー!!??」」」」」」」
ほぼ、同時に男の急所に石が飛ばされ、直撃して悶絶する男達。
「どうする?これ。」
指を指しながら聞いてくるロシィ。
「取り合えず、常駐犯みたいだし、捕まえて拘束して帰りに持って帰るか。懸賞金とか貰えるかもだしな。」
悶絶しながら夢叶の事を睨み付けてくる男達。
「出なかったら処分するか。」
睨み付けてくる男達を睨み返しながらそう言うと男達は一斉に散り散りに走り出した。
「逃がさんよ。」
男達の近くにあるそれぞれの地面から細いロープの様に伸び、男達を拘束する。それを夢叶の足場と繋げ、えっさほいさと引っ張り、ずるずると男達を手繰り寄せる。
「な、なにもんだ!?」
「新人じゃないのか!?」
男達が喚きちらす。裸で。
「新人だけど?今日、初依頼ナウだけど?」
「嘘だ!新人がここまで強い何てあり得ない!」
「新人だからって弱い理由が何処にあるんだよ。それにお前ら、過去に存分に楽しんでいたようだしな。俺は、そういうのは大っ嫌い何だよ。懸賞金が出る事を祈るんだな。」
睨み付け、茂みの中に放置して歩き出す。
「おい!待て!」
「待てー!」
「あ、あと。魔物に襲われないという事にも祈っておいてね。」
「そうだな。そんなに叫んでいると魔物が寄ってくるかもしれないな。」
叫ぶ男達がロシィとエリィの言葉を聞いた瞬間、静まり帰った。男達は夢叶達が見えなくなるまで、ただ見ている事しか出来ず、取り残された。
鳥の些細な鳴き声や、木々の擦れる音でさえ、全てが不気味に、恐怖に感じられ、魔物に食われて死ぬよりかはマシだ。もう、何でもいいから早く帰って来てくれと祈るのであった。




