第72話 次の世界へ
第4章開始です。
「さて、ここは何処だ?」
「さぁ?」
「街だね。」
夢叶の言葉にロシィとリリィが答える。
「分かっている事が一つだけある。」
シルヴィに視線が集まる。
「異世界だという事だ。」
「「「「確かに!」」」」
余りに当然の事だが、未知な場所だからと暗くなっても仕方がないし、もはやいつもの事といっても良いぐらいになってきているので軽いノリが発生する。
幸い、人通りが少ない所であった為、やって来た時のゲートは誰にも見られることはなかった。
「えー。これまで、控え目に目立たないように行動していましたが、今回からどんどん上を目指していきたいと思います。」
何故か敬語で今後の方針を話す。
「お腹痛くならない?」
心配してくれるリリィ。
「多分?さっき、はっちゃけちゃったから、何か抵抗が少なくなってな。今なら行けると思うんだよ。それに、そろそろ慣れないと色々と生活にも支障が出る。スライムとか低ランクのクエストばかりでは資金が足りない。今はアース家の皆を隠れ蓑にする事も出来ないしな。」
「あ、今、スライムで色々思い出したでしょ?」
真面目に話していた所にロシィが茶化してくる。
「それよりも良い事を思い出しています。」
ムフンと無駄に威張る。
「「キャー。」」
少し頬を染めたロシィとリリィがスケベーとキャッキャッしている。シルヴィの少し顔が赤い。エリィは気まずそうに苦笑いし、
「リリィ様のあられのない姿・・・。」
ティエは妄想に鼻息を荒くしている。妄想の中のリリィの相手はもちろん自分自身である。
「取り合えず、ギルドを探そうか。相変わらず世界が違うから資金がない。」
「「だねー。」」
歩き出す夢叶にロシィとリリィが返事をして横に並ぶ。その少し後ろに控えるようにシルヴィが付いて行き、若干、間を開けてエリィとティエが並んで歩く。
――――
10分ほど歩くとギルドが見えて来た。アース家に渡した翻訳の魔石・アーテクファクトと同じ物を全員に渡している為、読んだり喋るのには何の問題もない。書く時は魔法として発動してしまう為、不審に思われるかもしれない。その辺りの注意は必要だろう。
カララン。
ギルドに入ると、視線が集中する。少し気が滅入ってしまうような感覚に陥るが、以前よりも大したこともなく、意識しなければどうってことのない程度だ。吹っ切れたのだろうか。
むしろ、自分よりもその後ろにいるロシィ達の方に視線が集中している気がするが気のせいではないだろう。皆、可愛く綺麗なのだから、自慢したいぐらいだ。
「登録をお願いしたんですけど。」
視線を無視しつつ、受付のお姉さんに敬語で話しかける。王とかには敬語とか礼儀すらなかったって?それはその王が気に食わない奴ばっかりだったからだよ。
「依頼の登録ですね。どういった内容でしょうか?」
「いえ、冒険者の登録です。」
「え?」
キョトンとされる。この世界では冒険者の登録は必要ないのだろうか。周りをざっと見た感じでは前の世界と同じように張り紙を見て依頼を受託するように思えるのだが。
「ここって、依頼を受けて報酬とかを斡旋している施設ですよね?」
「ええ、はい。そうですが、お客様はどう見ても冒険者には見えなかった為・・・あ、大変失礼いたしました。ですが、そのような装備ですと初心者用の魔物討伐でも直ぐに死ぬ恐れがあるのですが・・・。ギルド側としてもそう易々と死なすわけにも行きませんので・・・」
服装か・・・。地球からのシャツとかでは冒険者としての装備をしていないと見られても仕方がない。そこ、3人でクスクスと笑うな。ロシィとリリィにティエまで混ざっていたので軽く睨むと口笛を吹く素振りをして視線を逸らす。
「あー。一応、これでも魔法使えるんですけど・・・それでも駄目ですかね?」
魔法使いとしてなら何とかなるのではと思い聞いてみる。元々マナ操作を主体とした戦いがメインだし、別に問題はない。近接戦闘の面では肉体強化によるゴリ押しでの戦いが多かったが、エリィにも鍛えられたのでマシにはなっている。
「ガーハッハハ。少年、魔法使いなら杖はどうした?杖がないと魔法執行効率が大幅に変わるだろう?実戦ではいかに効率よく魔法を放てるかが勝利、命を守る事に繋がるんだぞ。」
久しぶりに少年いただきました。豪快な笑いを上げながら絡んでくるスキンヘッドの中年男性。2メートルはありそうな長身にチェーンメイルを装備し、地面に付きそうな程の大剣を背中に背負っている。最初の異世界で出会ったハーゲン・オジサンを思い出す。
しかし、どの世界でもギルドに行くとまずは絡まれないと駄目なのだろうか。
「心配ありがとうございます。これでも魔法には少々自身があるので大丈夫です。資金が貯めれば杖を買うかもしれませんが。まずは、ここで安定した生活を過ごせるようになってからですね。それに、頼れる仲間達もいますので大丈夫です。」
ドヤという感じで一歩横に下がってロシィ達を見せる。
「ほう。皆美しいな。この者達皆少年の仲間か?」
「そうです。」
ロシィ達をジロジロと見ている。ここぞとばかりに周囲の者達も少し近寄って見てくる始末。ロシィとシルヴィはワンピース姿だが、リリィとエリィにティエは鎧を装備しているから大丈夫だろう。
「そこの3人は鎧を着ているから分かるが、そこの二人は何だ?奴隷か?」
「愛の奴隷だよ!」
奴隷という言葉に反応して言い返そうとしたが、ロシィが直ぐにそう抱き着きながら答えた為抑えた。
「ケッ。性奴隷かよ。良い御身分だな。何処かの坊ちゃんか?」
急に不機嫌な顔になり、悪態をつくハーゲンオジンサン(仮)。
「いえ、ただの一般人ですよ。」
「ん?おい。そこの嬢ちゃん、奴隷の割に奴隷の首輪をしてないじゃないか。奴隷でもないのに奴隷と言うのは感心しないな。」
夢叶の言葉をスルーしてロシィに注意する。
「めんごめんご。」
「め?めんご?」
死語と言ってもいいロシィの言葉にハテナマークが頭に浮かぶオジサン。
「ごめん、気を付けるよー。」
伝わっていないことに肩を落とし、言い直すロシィ。
「ま、まぁ。分かれば良い。・・・少年。1つ、世の中の厳しさという物を教えておいてやろう。魔法使いは、いかに強力な魔法を放つ事が出来る者でも、詠唱する間もなく近付かれればこの通り、その自信がある魔法で!?」
背負っていた大剣を抜刀して、夢叶の首元に剣を向けようとするが、その前にオジサンの首元にエリィの剣が突き付けられる。
ガタガタッ!
大きな音を立てて周囲の者がオジサンも含め、驚愕する。
「な、何だ?今の動き。」
「見えなかったぞ。」
「何者だ?あの女は。」
ざわつきが大きくなる。
「と、このように優秀な仲間もいますので大丈夫です。」
「あ、ああ。わかった、もう何も言わない。良いおせっかいだったな。すまない。」
オジサンは軽く謝罪して、立ち去った。基本、禿のオジサン達は悪い人ではない人ばかりだ。
オジサンは自分に剣を突き付けた女と共に、少年の事にも驚いていた。剣を抜き、振りかぶっているのにも関わらず、少年は微動だにしなかった。単純に反応する事が出来なかっただけならいいが、これでもこのギルドの中では上から数えた方が早い実力の持つ俺だ。よくあることだ。だが、もし見えていて動かなかったのなら仲間の女を信用しきっているということだ。そこまで信用できる仲間を持つ少年も只者ではないと考え、去りながらもチラチラとつい気になって見てしまう程だ。
「えっと、それで登録をしてもらってもいいですか?」
「あ、はい。・・・えっと、皆様登録でよろしくかったでしょうか?」
「そうです。」
「わ、わかりました。それでは、こちらに手を御置きください。」
受付のお姉さんは、ロシィとシルヴィの二人も冒険者の格好ではない為、怪しんでいたが、あの凄腕の女性のパーティなら問題ないだろうと思うことにした。念の為、後でギルドマスターにも報告しておこう。
受付のお姉さんに差し出されたどこかで見たような石盤のアーティファクトに手を当てると、石盤が光の粒子を石板の本体の少し上に集めだした。
「はい。これが、ギルドカードです。この粒子があなたの生命反応を登録しますので偽装などもできません。今回は、初登録という事ですので無料ですが、なくした場合、再発行手数料が必要となりますのでご注意ください。」
その光の粒子を上からギルドカードに当てることで、ギルドカードがその粒子を取り込みカードに文字が表示され、それの情報を書き写し手渡される。カードが出てくるわけではなかった。
カードの内容はランク、名前、所属国、パーティ、信頼度の四つだった。信頼度って何だろう、何も書かれていないが。恐らく悪人かどうかか依頼達成度・成功率のどちらかだろう。因みにランクはFだ。
メンバー全員がギルドカードの発行を終えると受付のお姉さんが訪ねてみた。
「この信頼度というのは?」
「はい。信頼度は依頼の成功率ですね。10回依頼をこなす事で表示されるようになります。その他にも依頼以外での事件を解決したり、待ち人を守り評価されると上昇します。また、悪行を行うと減少しますので、一目で信頼できる方かどうかがわかるというわけですね。ただ、良いことをしても認められギルドに申請しなければ上昇しませんし、悪行も見つからなければ減少することはないのですが、そういった悪行を行う人を捕まえるのも信頼度上昇に繋がりますし、信頼度が高いと報酬も良くなるので、悪い事はせず、良い事をしてくださいね。」
そう説明する受付のお姉さんはニッコリとしているが目が笑っていない。
「それで、ランクはFからSまであり、それぞれのランクで一定回数の依頼を成功させることでランクが上がります。B以上に上がる為には更に試験もありますのでご了承ください。因みにAランク1人で1軍隊と同等、Sランク1人で一国を落とすこともできるほどの実力者ですので頑張ってみてください。」
心なしか、お前何かに出来るものならやって見ろと言われている気がする。
「所属国は基本的に登録した国となります。ですので、この国、『ハネス』となります。あとは・・・パーティですが。個人それぞれでもランクは存在するのですが、パーティでもランクが存在します。あ、依頼は一つ上のランクまでしか受けれませんので注意してください。そこで、例えばDランクの依頼を受けたいというFランクの方がいらした場合、パーティランクがE以上であれば受ける事が可能です。しかし、パーティランクはパーティの平均ランクが基本となっていますので普通はあまりないことですね。あなた達は6人パーティでよろしいでしょうか?」
「そうです。」
「では、パーティの方全員のギルドカードを石板においていただき、パーティ名をおっしゃってください。」
そう言って、石盤の裏を何やら弄って差し出される。
「パーティ名・・・決めてないぞ。」
「後日でも構いませんが・・・。ただ、パーティとして依頼を受ける事は出来ませんので注意してください。」
考えているとそう受付のお姉さんが言ってくれるのでそれに甘える事にした。急いで決めてダサい名前になっても嫌だしな。・・・嫌、急がなくてもダサくなる可能性はあるがかわりに後悔はきっとないはずだ。
「それでは、これで登録完了ですね。依頼はそこの掲示板に張っているので用紙をお持ちになって来てくださいね。」
「分かった。ありがとう。」
受付のお姉さんがペコリと頭を下げ、掲示板に向かう夢叶達を見送る。
「さて、まずはやはり金だな。」
「何か、近場で稼げそうなのないかな。」
無駄に仁王立ちして言う夢叶をよそにリリィが掲示板を端からじっと見ている。掲示板はランク分けがされているため、Fランクの所を見ている。
魔物討伐、採取、配達など様々あるが場所が分からない。地名が掛かれていても場所がわからないのだ。まだハネスしかわからない。しかも国の名前であってそもそもこの街の名前すらまだ知らないのだ。ゲートで行けないことはないが、明らかに移動日数とかと比べると騒ぎになりかねない。実力を隠す気はないが、手の内をさらすつもりもない。今までの世界では転移系はかなり強力、大掛かりな魔法と位置づけされている。この世界でも恐らくその可能性が高い。となると、おいそれと使っては、俺を取り入れようとする輩が出て来たり、仲間に危害を加えて脅しにかかって来たりと厄介ごとが増えるのは非常に困る。悪目立ちはしたくない。考えた結果。
「すいません。この近辺ですぐに終わりで依頼料高い目の依頼ってありますか?ランク上の魔物討伐でも構わないので。」
受付のお姉さんに見繕って貰えばいいのだ。
「えーとそうですねぇ。」
手元の資料を取り出し、パラパラと捲り探してくれる。
「東門から出て、見える森、マディーナ森林の少し奥に最近、スライムの亜種が現れたと報告が来ています。度々、色々な魔物に亜種が現れるのですが、大体ワンランク上の強さとなっているのが今までです。発見者はランクFの駆け出しの方でしたので、危険と判断して戻って来たわけですね。マディーナ森林は強い魔物もおらず、駆け出しの方が経験を積むのに適した場所ですので、スライムの亜種を放っておくと駆け出しの方が被害にあう可能性がありますので早めの討伐を依頼しているのですが、いかがなさいますか?」
条件に合う物がこれしかなかったのか、受付のお姉さんは内心肝を冷やしているのだろう。剣士の女性はともかく他のパーティメンバーが危なすぎる。3人は明らかに戦闘出来そうな者ではない為、いくら剣士の女性が強くても3人も足手纏いがいては心配だ。
「じゃあ、それとそのついでに何か一緒にこなせそうな依頼ってあります?」
そして、何故か決めるのはこの心配の種の1人の男だ。更に追加依頼をしてこようとするとは何と無謀な。
「えー。初依頼で亜種の討伐依頼というだけでかなり危険があると思うのでこれ以上はこちらとしてもご紹介できません。」
むざむざ、死なせるとこちらの信用にも関わってくる為、あることを伏せる。
「採取とか危険じゃないものでも良いんでが、それもないですか?」
「まぁ、それなら・・・。薬草採取ならございますが。」
「じゃぁ、それもお願いします。ついでに、薬草ってどんな物なんですか?」
採取なら危険も極僅か、あの森で今一番危険なのはスライムの亜種だ。それを討伐できるのなら新たな亜種が現れない限りは何の問題もないはず。それに薬草は森の入り口付近に多く生えている。そんな所に強力な魔物は現れないだろうという判断で了承する受付のお姉さんは、何やら鉄の板の様な物を取り出し、そこに魔力を流すと、薬草の画像が現れた。更に魔力を流すと画像が切り替わる。ちょっとしたipadのような感じだろうか。
薬草はパッと見はただの雑草の様だが、よく見ると裏側が少し白っぽいのが特徴のようだ。
「その画像を渡してもらう事ってできますか?」
念の為にちゃんと画像を持って置かないと間違えて採取したら悲しいからね。
「申し訳ありません。この模写するアーティファクト、フォトグラフは貴重でして、お貸しすることは出来ないのです。」
申し訳なさそうに頭を下げられる。
「その画像だけでも何処か・・・紙などに出す事は出来ないのですか?」
「はい。あいにくとそういった機能は御座いませんのでしっかりと覚えて行ってください。」
う~ん。困った。間違えて持って帰っては無駄手間になってしまう。仕方がない、少しぐらい変に目立っても大丈夫だろう。たぶん。
「では、すいません。もう一度見せてもらっていいですか?」
「わかりました。どうぞ。」
先ほどの薬草の画像を映し出してくれる。夢叶は胸ポケットから紙を取り出す振りをして紙を創造して、4つ折りにされた紙を取り出す。
「え?」
その様子に書き写すの?と顔を引きつる受付のお姉さん。その様子を見ていた周囲の人間も笑いを堪えているようだ。
少しイラっとするが我慢。紙をフォトグラフの横に広げて置き、両手の親指と人差し指を立たせ、四角を作る。そう、カメラで撮る前とか、ごっことかでするあれである。薬草の画像をその指の四角の中に収め、魔法を使おう。名付けて、コピー。指の四角の中に薬草の画像が捕らえられたかのように収まり、それを横に魔法。ペーストにより、紙に反映させる。二つ合わせて、魔法『コピペ』である。
「は!?」
受付のお姉さんが目を点にしている。
「ちょ、ちょちょちょ何をしたのですか!?」
動揺し過ぎだろう。その動揺により、周囲の人間が集まって来て、コピペした物を見て全員がかなり驚いている。
やっぱり騒ぎになるのか・・・。アーティファクトで貴重という事は同様の魔法を使える人間も少ないとは思っていた。だからこそこのざわつきであろう。
「じゃ、じゃあ。行ってきます。」
そのざわつきに隠れて出て行こうとするが、ガシと受付の机から体を乗り出して、受付のお姉さんが肩を掴んできた。
「詳しい話を聞かせて頂けないでしょうか?」
距離がギリギリなのだろう。顔は笑っているが、目が必死だ。プルプルと体を震わせ、一歩でも動けば、それに釣られてバランスを崩し、机から派手に落ちるに違いない。
「すいません。取り合えず、数歩で良いので戻ってきてもらえませんか?」
どうしようかと思っていると限界が近付いて来たのだろう。プルプルしながら、笑顔を保てなくなっているみたいで必死の顔で頼んでくる。
「あ、ああ。」
若干、引いたが流石にかわいそうなので戻ろうとすると、後退しようとすると、誰かに背中を押され、戻るどころかよろめいて前に3歩ほど進んでしまった。誰だ!?と振り返ると、眼前には受付のお姉さんが、目と口を大きく開け、机から離れ空中にいる瞬間だった。スローモーションにその様子が感じられたが、直ぐに、ビターンと大きな音を立てて受付のお姉さんが見事に床に落ちたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。




