第71話 別れ
「お、親父ー!」
勇太の父親は声を出すことも出来ず、深手を負い倒れ伏せる。既に意識はないようだ。
「クソがー!」
気が狂ったように迫る勇太。振り下ろされる剣を躱し、倒れている意識のない父親に風魔法を用いて立ち上がらせる。
「ヒール。ほら、これで良いだろ?」
斬られた服の隙間から見る見ると傷口が塞がっている。
「な、何だ?傷が治っている?」
「夢でも見ているのか?」
「さ、撮影だよな・・・?」
地球の現実ではあり得ない現象ばかりを目にして現実逃避を始める周囲の人達。
「う・・・。」
「親父!大丈夫か!?」
父親が目を覚まし、心配する勇太。
「おじさん。これやるよ。本物だから気を付けろよ。」
創造、クリエイト魔法により簡単な剣を手渡す。
「え・・・?」
「さぁ、その剣で、おじさんを切り裂いたそいつに仕返ししてやれ!!」
勇太を指さす。父親は勇太を見て、それから自分の体に斬られた痕跡があるのを確認する。
「ふっざけるなー!どこに息子を斬る親がいるかー!」
剣を握り締め、振りかぶる。
「親父!駄目だ!親父では手も足も出ない!」
息子にそんな事を言われてはいそうですかと引き下がれば、親としてのプライドが傷つく。何としても息子を助けるんだと強い意志を持って夢叶に挑む。
サッと軽く躱し、勇太に向かう。
そして、人外の目にも止まらぬ速さの戦いが始まる。
壁を使って戦いにより、既に事務所はグチャグチャで机も何個か半壊している。
「くっ!」
父親達には全く目に見えてなかったが突然、夢叶が父親の前に膝を付き、動きを止めている。こちらには目もくれていない。恐らく、勇太が押しているのだろう。好機。そう思い父親は剣を最短で届くだろう突きを夢叶目掛けて繰り出す。勇太が夢叶に迫撃しようとしている姿が見えないが為に。その瞬間、夢叶は不敵に笑う。
迫撃してきた勇太の剣を最小限で躱し、勇太の体を掴み、父親が繰り出していた突きの前に勇太を押し出す。すると当然、父親の突きは勇太に当たり、勇太の体を剣が貫いた。
「ぐふっ。」
口から血を吐く勇太。
「あ、あああ。あああああああ!!!!?!!」
父親は剣から手を離し、狂ったかのように叫ぶ。必死に守ろうとしていた息子を自らの手で刺したのだ。ナイフなんて可愛いものではなく剣で。体のど真ん中を背中まで貫通するほどに。
力なく、膝をおり、手を付いて何とか意識を保っている勇太。剣を自ら抜き、抜いたことにより血が大量に流れながら倒れる。それでも勇太はまだ意識がある。
「ヒール。・・・ヒ・・・―ル。」
傷口に手を当て、必死に回復魔法を行っているようだ。淡く光るが効果はたいして高いわけではないようで、何度も何度も意識を失いそうになりながらも回復魔法を唱えている。
回復魔法は苦手か、勇者だから大丈夫と大した練習もしてこなかったのだろう。
悲鳴が辺りに響く。
「きゅ、救急車!誰か救急車を!」
ドタバタと外野が騒がしい。
「勇太!勇太ー!・・・え?」
倒れている勇太に必死に呼び掛けていた父親が急に倒れる。
「あれだけ動けば開くよな。普通。」
夢叶が父親の傷を治したはずの傷口が再びパックリと開いていた。血が溢れんばかりに床を染めていく。夢叶が直したのは表の皮一枚程度だけで、痛みを消しただけであった。それを激しい動きをすれば開くのは当然である。
「ま、取り合えずこんなもんで良いか。お互い、親子同士で殺し合って死なないと良いな。むしろ片方だけ生き残ったほうが絶望するのか。片方が死ねばそれはもう片方が自らの手で殺したのだからな。それとお前。ヒール禁止な。」
肩に剣を刺し、傷口から手を離させ、エアショット。空気の玉で頭を打ち気絶させる。そうすれば、あとはこの世界の医療技術に全てが掛かってくるわけだ。既に致死量の血が流れているだろうから中々生き残るのは難しいかも知れないが。
「それじゃぁ、気が向いたら生きてるか見に来るわ。」
聞こえていない相手にそう言い残し、ゲートを開く。
「あ、皆さん迷惑かけました。」
ペコリと頭を下げ、ゲートを潜り、消え去る夢叶。
「き、消えた・・・。」
唖然と一体何だったんだ?と皆が固まっている中、救急車のサイレンが聞こえてきたのだった。
――――――――――――
ブオン。
「「ユウ!」」
ゲートを潜り、元の広場に出るとロシィとリリィが飛びついて来た。
「いつものユウ・・・だよね?」
心配そうに上目遣いで覗き見てくるリリィ。
「ん?俺、何かおかしかったか?」
正直、自覚はないと言えば嘘になるが。言われてみればそうかも?程度のものでしかない。
「うむ、正直。異常だった言える程度にはな。」
シルヴィがエリィと共にリリィとロシィの後ろから近寄りながらそう答える。シルヴィ達の後ろにアース家も寄ってきている。
「自覚・・・ないんだね?」
ロシィが目をしっかりと見て訪ねる。冗談とかしては駄目な真剣な目だ。
「ああ。これといった自覚はない。」
正直に答えると「そう。」と一言だけ呟いた。その様子にはリリィだけでなく全員が首を傾げた。
「お、おい!貴様、勇者様を何処へやった!?」
問いかけてくる兵士の後ろに陛下とその隣に神官?の女性が控えている。
「言わなかったか?元の世界に帰してやっただけだが?痛い目は見てもらったがな。」
痛い目どころか死んでいるかもしれない勇太を思い浮かべ、不敵な笑みを浮かべる夢叶を見て、やはりどこかおかしいと思うリリィにエリィとシルヴィ、そしてアース家達。
「其方、ではやはり、あれは召喚魔法で間違いないのか?」
「陛下!危険です!」
前に出ようとする陛下に腕を伸ばし止める兵士。
「俺は空間魔法と呼んでいるが。まぁ、異世界には繋げているのは間違いないが。」
場所を移動するテレポートは転移魔法である。異世界などの空間を繋げるゲートは空間魔法に分類される。
「その力をぜひ我が国に貸してはくれないだろうか。せめて、勇者を再び連れて来ては貰えないだろうか。隣国が我が国から勇者がいなくなったと知れば、好機とばかりに責めてくるはずなのだ。そうなっては我が国が潰されてしまう。」
歎願する陛下。
「いや、別にこの国がどうなるが知った事じゃないんだが。」
「ユウ!」
リリィに鋭い目で睨まれる。時間にして数秒とも言えな程の時間リリィの目を見た後、自分の手を見る。
「・・・自覚がない変化は少し怖いな。」
「うん、今までのユウなら自分でやった分ぐらいはある程度は賄っていたよ。前の世界の国を潰した時だって、自力でどうにかなるまで面倒見てたじゃない。」
ある程度という所が微妙に気になったが追求はしない。
「あー。まぁ、確かに。この国の勇者を、まぁゴミだったが・・・をこの国から消してしまったのは申し訳ない。俺も異世界人の為、そこまでのことは知らなかったんだ。かと言ってごめんで済むような内容でもないみたいだしなぁ。あの勇者程度で一国を同行出来るとは到底思わないのだが、この世界からすればあれでも軍一隊ぐらいは対応できるって事だろ?」
どうしたものかと考えているとアース家の4人が近寄って来た。
「俺らが残るっていうのはどうです?」
レンが自分達を親指で指して言う。
「いや、さすがに。俺の不始末をお前らにやらすわけにはいかない。」
それでは生贄に捧げるような、賠償金として物を差し出すような行為だ。そんな事は許されない。
「いえ、元々俺達はこの世界にしばらくいるつもりでしたから、主に働く場所がギルドではなく国になるだけでしょうし。この機会にちゃんと奴隷卒業したって所を見てもらおうかと。」
・・・奴隷卒業などとっくにしているだろうに。確かに、俺がいれば俺を優先して物事を考えたり許可を取る所は多々見かけるが過去のような奴隷のような自分では何も考えられないような人間にはなっていない。現に、こうやって自分から意見を言ってくるのだから。それに折角、巻き添えにならないように他人の様にしたのに意味がないじゃないか。
「いや、それでも・・・。」
「拒否権はありません。私達は偶にユウさんの顔が見れたらそれでいいんです。ユウさんがいなくてもちゃんとやっていけますから。」
断ろうとするとアークが割り込んで笑顔でそう言った。
「そうです。ユウさんならいつでも僕達の所に来れるでしょ?僕たちの事を覚えていてくれればそれでいいんですよ。」
「ええ。ユウさんには散々世話になったしね。ユウさんがいなければ今のウチ達はなかった。新しい出発地点として、この世界に腰を落ち着かせるのも良いと思うんだよね。」
イルとルーシーも自分達は大丈夫だと言い張る。
「だけ・・・。」
言いかけた所をロシィに肩に手を置かれる。
「ユウがいなくてもしっかりと自分達だけでやっていけるって所を見せたいんだよ。ここには他に知っている人は7日間の間にあった人達だけ。他に誰もいない。再出発としては丁度良いと思うんだ。ただ、ユウと離れるタイミングに今回の件が丁度良かっただけ。ユウに多少なりとも仮を帰すことも出来るから皆にとっては一石二鳥って事なの。」
「その通りです。」
「俺達はこの世界で立派に過ごしていけますから!」
「「「「私(僕)達を信じてください。」」」」
4人一斉に頭を90度近くまで下げる。
「・・・お前ら。・・・わかった。わかったよ。陛下。俺の代わりにこいつらが残ってくれるそうだ。問題あるか?」
「1人だけでも勇者と同等の力を持っていると勇者が言っていたのだが、確かだろうか?」
「ああ、あのゴミと戦った時の感覚だと、何か隠し玉とかがない限りはこいつらの誰よりも弱かったぞ。」
各国にいる勇者の強さが均等を保っているのだ。最低でも勇者と同程度の実力は必要なのを心配して訪ねた陛下にそう答えると歓喜した。
「それならば、十分すぎるぐらいだ。これで我が国は安泰どころか、隣国を圧倒できる。」
「ちょっと、待て。」
陛下の不穏な言葉にストップを掛ける。
「お前。こいつらを戦争の道具にでもする気か?」
陛下を睨み付け軽く威圧する。
「貴様!陛下に向かってお前とは何だ!」
「こいつらをどうしようと考えているんだ?。王さんは。俺はてっきり、隣国の奴等からこの国を守る為だと思っていたんだが。」
突っかかってくる兵士を無視し威圧を強くする。陛下及び、その周辺の兵士立ちが立つているのも辛い程のプレッシャーが襲い掛かる。
「アンタ達ね。私達はね、物じゃないのよ。当然、駒でもないわけ。次にそんな態度を取る様なら、守るどころか潰すわよ。」
ルーシーが前に出て夢叶と共に威圧を掛ける。
「ふ、ふざけるな!そんな人数で出来ると思っているのか!」
「出来るんでしょ?勇者1人ですら戦況が変わるんだからさ。それ以上のが4人いるんだから余裕でしょ。それに今ならユウさん達もいるんだ。結果は見えているよ。」
「ついでに、ユウさん達は既に国潰したことあるから。」
よく突っかかってくる兵士に当たり前の様に言い返す、イル。そして、留めとばかりに言うルーシー。その言葉に開いた口が塞がらないという様子だ。
「と、当然だとも。我が国が危機に瀕した時、君達に協力してもらう。普段は自由にしてくれて構わない。」
陛下の言質を取った。
「約束は守れよ。」
睨み付けると陛下と兵士がコクコクと頷いた。
「悪いな。これとこれは選別と何かあった時に使うといい。」
クリエイト、創造魔法により魔石を作り出し、もしもの時に知らせるアーティファクトと翻訳のアーティファクトをそれぞれ4人に渡した。翻訳のアーティファクトは今はロシィが定期的に魔法で言葉が通じるようにしていたが、そのロシィがいなくなると言葉が通じなくなるためだ。
「これから、頑張れよ。自分達の意志で、しっかりとな!」
「「「「はい!」」」」
4人、1人1人握手をする。
「寂しくなるけど、忘れないでね。」
「「「「勿論です!」」」」
「達者でな、お前達。自分の力を過信すると足元を掬われないように気を付けろ。日々、鍛錬は忘れないように。」
「「「「はい!」」」
「魔法もしっかりね。アーティファクトも色々と試してね。」
「「「「はい!」」」」
「なかなか有意義な時を過ごした。また会おう。」
「「「「はい!」」」
「何かあった時は遠慮なく私達を頼ること!気を付けてね!」
「「「「ありがとうございます!」」」」
リリィ、エリィ、ティエ、シルヴィ、ロシィと一人一人別れの握手をする。その後ろにあの街であった獣人の女の子が来ていた。
「行っちゃうの?」
7日間の間に何度か会っていると差別しない夢叶達にすっかり懐いてしまったのだ。
「ああ。短い間だったけど楽しかったよ。元気でな。」
涙目の獣人の女の子の頭を優しくクシャクシャとする。
「ああ、皆。獣人を好きになれとは言わない。ただ、人間。公爵の様にゴミみたいな奴もいれば、お前たちの近くにいるそれぞれの友人の様に良い奴もいるだろ?獣人もそれと同じだ。獣人だからと差別して嫌う前にその獣人と話てみろ。案外良い奴かもしれないぞ。言葉が通じ合えるんだ。協力だってしあえる。奴隷を物の様に扱っているとそのうちしっぺ返しが絶対に来る。そしたら、また獣人と人間の殺し合いだ。そんな未来は嫌だろ。これからでも十分変えていける。次、来るときはそんな事になっていないことを祈っているよ。」
そう言って、ゲートを開いた。次の理想の世界は『壮大な冒険が出来そうな所』だ。結局、この世界でも異世界物の漫画の最初の1話か2話でサックリと終わりそうな簡単なことしかしていないから、今度は、ボスモンスターとかドラゴンといろいろ出会いたい。エルフもまだ見てないな。などと考えて開いたゲートである。
「それじゃ!またな!」
夢叶一行は軽く手を振り、それぞれゲートを潜り、アース家一行はそれに答えて手を振った。
ゲートが閉じた瞬間。
「「「「今までお世話になりました!」」」」
見えなくなった夢叶一行にアース家は頭を下げた。
いつもお読み下さりありがとうございます。
少し無理やり感がありますが、これで3章終了です。




