第70話 復讐
「俺は、公爵よりも全然強い。今なら謝れば許してやるぞ?」
勇者ユウタが勇者らしからぬ台詞を吐く。
「はぁ、全く残念だよ。所詮クズはクズだったんだからな。改心でもしていれば、見逃そうと思ったんだが、勇者という立場にチヤホヤされて調子乗っているだけだったんだからな。」
わざとらしく肩を落とす。
「ふん、減らず口を。そもそも、地球に戻れるならとうに戻っている。この世界の誰もが簡単には出来ない事をお前が出来ると言うんだ?脅しにもならないことを言うべきじゃないんだよ!陛下をお守りしろ!一瞬で終わるとは思うが相手が陛下を狙うかもしれない!」
夢叶とユウタ。そして、リリィ達とアース家を中心に残して全員が隅に寄る。
「私達も離れるよ!」
「う、うん!」
「あ、ああ。」
「あ、はい。」
ロシィの声に我に返り、リリィ達とアース家は隅に寄り、夢叶を見守る。
静寂に包まれる中、誰かが緊張で唾をゴクリと飲み込んだ。その瞬間、ユウタは一直線に夢叶目掛けて走り出す。先ほどの夢叶に詰め寄った時のスピードより遥かに速い。周囲の常人にはまるで消えたかのように見える。勇者である自分が力を出したスピードに付いてこられるわけがないと思い。
ブォン。
夢叶がユウタの剣の間合いに入った瞬間、空間が開いた。何とか踏みとどまろうとするが、勢いを止められず、その空間の中、ゲートに入ってしまうユウタ。
「勇者様が消えた!?」
「一体どうなって!?」
周囲が騒めく。
「其方!勇者をどこにやった!?」
「ちょっと、元の世界に帰してやっただけだ。」
「・・・たった一人で一瞬で召喚魔法をしたとでも言うのか!?」
陛下の問に答え、驚愕している陛下を放置して自身もゲートに入る。
「ロシィ。ユウ行っちゃったんだけど大丈夫かな?いつもと何か全然雰囲気が違ったのだけど。」
「・・・大丈夫。きっといつものユウになって戻ってくるよ。」
胸に手を当て、祈るリリィとロシィ。
「え・・・?」
ユウタはゲートに入った先で剣を振りぬこうとする体制で固まっていた。
そこは、先ほどまでの世界ではあり得ない光景。とある地球の日本の事務所の中にいた。
「な、なんだ!?」
「何だね君は!?」
ガタガタと昼時で飯を食べていた者達が驚いて立ち上がり、食べていた物を噴出したり、椅子ごと倒れたりしていた。突然現れたユウタとその後ろにある穴が開いたような空間に視線が集まる。
「そ、その剣はどうしたんだ君。まさか、本物何て言わないだろうな?」
近くにいた勇敢なおじさんがユウタに声を掛ける。
「え?い、いや。その・・・。」
本物とは言えるはずもなく、あれだけ苦労し、魔王を倒せば返して貰えると言われ、必死に過ごしてきたのにこんなにも簡単に日本に本当に戻ってこれたことにまだ頭が付いてきていない。
「ゆ、勇太?勇太か!?」
話しかけて来た勇敢なおじさんの少し後ろから1人ヨボヨボのお爺さんのように手をわなわなと震わしながらユウタに触れようと伸ばす中年の男性。
「と、父さん?」
「勇太!」
そうここは、遊部勇太の父親がいる警察の事務所であった。周りがどういう事だと首を傾げている中、勇太は剣を落とし、感動の再開でお互い抱き着こうと近寄る。しかし、お互いが抱き着く事はなかった。父親は地面に倒れ伏せ、勇太は壁にホッチキスの針の形状の物で両手両足を拘束、貼り付けにされていたのだ。
「な、何だ君は!?」
勇太の後ろにあった、穴が開いた空間、ゲートはいつの間にか消えており、異様な雰囲気を持つ少年に勇敢なおじさんも含めた3人の男が拳銃を向ける。廊下では、異変に気付いた女性が悲鳴を人を呼びながら上げて走り去っていく。
「立てよおじさん。」
チラっと拳銃を構えた者達を見て、視線を勇太の父親に移す。今の夢叶なら拳銃の玉など止まって見えるだろう。
「ぐ・・・。」
よろよろと立ち上がる。
「久しぶりだな。覚えているか?」
「だ、誰だ君は?」
正面から顔を見てもまるで記憶にない様子だ。
「おいおい。酷いな。人に冤罪を着せといてそりゃないだろう?」
「冤罪?何を言っているんだ?」
呆れた様子で言う夢叶だが、それでも分からないようでキョトンとしている。
「往世!何をするつもりだ!これを解け!」
勇太が叫ぶ。拘束している物を抜けではなく、解けと言ったのは魔法によるものだと理解しているからだろう。現に、他の警察官が抜こうとしているが、まるでびくともしない。叫んでいる勇太を無視して話を続ける。
「本当に覚えていないのか?まず、俺が捕まったのは、そこにいる勇太殺人容疑だそうだ。
でだ。お前の息子が消えた直ぐの事だ。お前は、金がなかった俺の家、母親に俺を犯人にすれば金を払うとでも騙し、自分は俺を務所に連れて行きながらな。病院で俺の母親に金を渡せと泣きつかれなかったか?そして母親は息子を売った罪悪感と金も貰えずに貧乏なまま精神的に苦しんで、追い詰められ自殺したんだ。」
「ま、まさか。あの時の勇太を殺した往世・・・夢叶・・・?」
話していると途中から段々と目を見開き、名前を口にする。
「警察官の皆さん。聞きましたね。俺のこの言葉に身に覚えがあるようだ。つまり、騙し、冤罪を着せたという事を認めたという事だ。あ、俺。脱獄してるけど冤罪だから別にいいよな?」
笑って言う夢叶だが、勇太とその父親は笑っていない。
「遊部。どういう事だ。息子の仇を取ったとあれだけ喜んでいたのは嘘だったのか!?え!?無実の子供とその母親を不幸にして、それがお前の正義か!?」
勇敢なおじさんが父親の胸倉を掴み怒鳴る。上司のようだ。
父親は、挙動不審になり、「あ」だの「う」だの言葉に詰まり何も話せないような状態に陥っている。言い訳もできないぐらい認めたも当然だ。
「申し訳ない。申し訳ございませんでした。」
土下座する上司。それに釣られて周囲の警官も頭を下げる。父親は棒立ちをしているが。慌てて廊下に応援にやって来た警官は何事かと様子を伺っている。
「いやいや、あなた達は別に謝らなくてもいいよ。悪いのは全て、この遊部親子なのだから。」
「こいつにはそれ相応の罰を受けて貰いますので。」
立ち上がり、無理やり父親の頭を下げさせ、ペコペコとする上司。
「そうだな。そもそもその罰を与えるつもりで来たのだから当然受けて貰うさ。」
にっこりと邪悪に笑う夢叶。
「は?」
上司の言う罰とは当然、法廷で判決を受けて罪を償わせることだ。しかし、今のこの少年の言い方だと自ら何かをすると言っている。このタイミングでするということは良いことであるはずがない。
「ま、待ちなさい。恐らく、それをしてしまうと今度こそ本当に犯罪者になってしまうぞ!」
警察の不手際であった為、敬語で下手に出ていた上司だが、説得モードに移行したようだ。いまだに父親は棒立ちをしている。薄ら笑いを浮かべ、今後自分がどうなるか悲惨なことになるであろうと考えているのだろう。折角、息子と再会出来たというのに自分の事で頭がいっぱいのようだ。
「おじさんさー。いい加減戻って来いよ。・・・たく。」
呼び掛けても大した反応もなく、こちらをチラっと見るだけだ。その様子に少し腹を立てた夢叶が勇太に近づき、腹パンをする。腹がたっただけに。
「がはっ。・・・お前!こんな事をしてただで済むと思っているのか!」
「おいおい。こんな拘束すら抜け出せないような奴が一体何が出来るっていうんだ?」
勇太は殴られ睨み付けてくるが、夢叶の言う通り、この拘束はびくともしない。
「往世夢叶。暴行現行犯で逮捕する!」
このままでは、危険と判断した上司が直ぐに取り押さえようと動く。しかし、透明な壁のようなものに阻まれ近づくことすらできない。
「な、何だ?これは。」
バンバンと透明な壁のようなものを叩く。はたから見るとパントマイムでもしているかのようだ。実際、薄い透明な壁を生成しているのだが。当然、ちょっとやそっとでは、拳銃ていどでは壊れない、地球ではまだ作れないであろう品質だ。
「親父!しっかりしろ!殺されるぞ!親父―!!」
勇太の必死の叫びに親父がようやくハッと我に返る。
「ゆ、勇太!お前!勇太を帰せ!」
飛び掛かってくるも透明な壁に激突して、唸る。
「なら、俺の母親も返してくれよ。お前のせいで死んだ、俺の母親をさぁ。」
「お前の母親など知らん!生活が苦しんで自殺したのなら自分の行動が悪かっただけだろ!勝手に人のせいにするな!」
その通りでもある。しかし、
「確かに、母親も悪かったのかも知れない。だが、お前が弱みに付け込みさえしなければ、こんな結果にはならなかったと思うんだよ。仮に、俺が捕まったとしても出所するまで信じて待ってくれたはずだ。しかし、売るようにお前に弱みを付け込まれ、俺を売ってしまった母親は俺を出所するのを信じて待つことなんてできるか?自分のせいで捕まったんだ。おまけに約束していたはずの金さえ手に入らなかったんだ、罪悪感でいっぱいだろう。出てきたら復讐されるとさえ思っていたはずだ。もしかしたら、俺を売った金で俺が出所してから良い生活をするための資金にしようとしていたのかもしれない。それなら当時の状況からすれば俺を説得できたかもしれない。それすら台無しになったんだ。あとは、出てくるまでの罪悪感と出て来てから復讐されるという恐怖。おまけに息子が犯罪者だ。近所からはどんな目で見られたことか。そんな状況でずっと正気にいられるわけがないだろ?」
あの頃を思い出し、少し悲しい気持ちがこみあげてくる。
「そんな事、俺が知った事か!早く、勇太を帰せ!」
一瞬、戸惑った様子になったが先ずは息子という事らしい。
「息子が大事だと言うのはわかるが、もう少し言い方ってもんがあるだろ。置かれている状況が分かっていないみたいだな。」
ヒュンと何かが通ったと感じた父親だが、その直後、左太ももがパックリと裂けて血があふれ出てくる。
「ギャー!」
痛みで転げまわる父親。急に足が裂けて血が出ることにより、悲鳴を上げる周囲。
「な、何をした!?」
上司は平静を装いつつ問いかける。勇敢だな。未知の存在相手に足を震わせながらも立ち向かえるのだから。
「別に何も。勝手に叫んでいるだけだろう?」
ウインドカッターで軽く切り裂いただけだ。
「お前ー!!」
勇太は怒りの声と共にボコボコと壁を壊し、拘束を解く。
「な!?」
「嘘!?」
周囲の警察官は壁を壊すそのように畏怖を感じているようだ。
「もう、容赦しない。殺す!」
「消え・・・!?」
勇太の姿が警察官立ちからすれば消えたように見え、夢叶の上後方から拳を繰り出す。それを上司達が近寄るのを妨害してた透明な壁を動かし、勇太の顔面に押し付けることで防ぐ。顔面を押し付けられたことで勇太はなかなか不細工な顔をしている。舌打ちをしながらワンステップ後方に下がると共に勇太の手には剣が握られていた。
「なるほど、さすが勇者。いろいろな魔法が使えるとみる。風魔法で剣を回収することが主目的だったか。」
「そんな分析して余裕こいていられるのも今の内だ!」
剣を構え、再び、迫る。勇太は既に夢叶を強敵と見ている。異世界でも空間魔法、異世界とつなげる魔法、勇者召喚を10人以上でようやく行えるのだ。その際、女神により異世界でも不自由ないよう何かしらのチートな力を手にする。勇太はこの時に手に入れた力は異世界での最強の力を求めた。強い力にも関わらず、異世界での初の魔物戦で、異形の形をした魔物に恐怖し、動けずに大怪我を負い、トラウマとなった。その為、そのトラウマを克服するのに世界最強の力を持ちながら表に出ることが出来ず、最近ようやく克服したところなのだ。
しかし、勇太の最強の力というのも欠点がある。手に入れた時の世界の最強の力だということだ。新たに強い者が現れたからと言って随時強くなるというほどチート能力でもない。しかし、当時でも魔王よりも強い力を持ちトラウマさえなければ、今頃は本当に魔王を倒し勇者として良い御身分となっていたことだろう。しかし、力と精神は別物であったが為に今に至る。
手に入れた時点の世界最強とは、世界最強であった魔王よりも少し、全てのステータスが高いだけで、技術や精神面は別物である。いくら強い力を手に入れようとまともに使えなければ全く意味がない。
そして、勇太は夢叶を魔力、魔法に特化したチートの力の恩恵を手にしたのだろうと考えていた。しかし、世界最速のはずの素早さを簡単に防いだ。勇太はこれを既に結界を張り巡らせているという判断をした。
だが実際は、夢叶はステータスプレートという肉体の変化による身体強化を行っている。これだけで身体能力という点はすでに勝っている。さらに数年に渡る魔法の特訓と2つの異世界の最強に位置する者達とも戦う事による実戦の経験をしている。回数は少なくとも経験の濃さの差は歴然だ。勇太の世界最速と思っているステータス任せな攻撃を簡単に躱し、父親に近づく。
「行かせるか!」
父親に近づけさせまいとさらに速度を上げる。戦闘経験のなさからか自分の体に振り回されている。夢叶を捉え、全力で剣を振るうと同時に体が一回転する。
ザシュ。
確かな手応えを感じる勇太。やったと笑みを浮かべ、一回転して正面に戻ってきて切った相手を見るとその笑みは絶望へと変わった。
勇太が斬ったのは夢叶ではなく、肩から腰までを斬られ血を噴出している自分の父親だった。
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