第69話 ・・・思い・・・出した
(ああ、これはちょっとやばいかなぁ。)
一人の男の笑い声により静寂に包まれ、視線がその男に集中する中、ロシィはそう思っていた。
「勇者様のお話し中だぞ!何が可笑しい。」
兵の一人が笑い声を上げた男に注意する。
「いや、なーに。あのクズが勇者と言われ、人を守るとか言っているのがどうもおかしくてな。ククク。」
そう言って嘲笑する男、夢叶。リリィやエリィ、シルヴィもいつもの痛い言動とは様子が違う為困惑している。
「何だと貴様!勇者様に向かって何という口の聞き方だ!勇者様は公爵様よりも偉いのだぞ!侮辱罪で死刑にされるぞ!」
「偉い・・・?こいつが・・・?冗談だろ?」
口元に手を当てクククと嘲笑う。
「何だお前は!この勇者である俺に対して何様のつもりだ!?」
身に覚えのない事で愚弄され、怒りが露わになりだす。
「そうそう、それが本来だろ?自分を偽って偽善者ぶって勇者とチヤホヤされ、気持ちがよかった?そんな事で過去にお前がした事が無くなっているとでも思っているのか?そもそも、お前に過ちを反省、治すという気持ちすらあったか?」
「俺の地位を落としたい輩か?身に覚えのない事に反省も治すも何もないだろうが!」
段々と喋りが汚くなってくる勇者ユウタ。
「これだ。クズだから当然か。皆も身に覚えのある者は多い事だろう。自分に何か不幸な事、嫌な事をされた場合は強く記憶に残るものだ。そうだろう?それが最悪トラウマになって今後の人生にすら影響を及ぼす事だってありえるんだ。ここの公爵達、元公爵か。は女を自分の好き勝手にしていた。好き勝手された女はどうだ?今も人生を楽しく、明るく生きていられるか?今日の件で多少は憂さ晴らし程度のことは出来たかもしれない。だが、心には大きな傷が今後もずっと残る。完全に言えるまで一体どれだけの月日が掛かるか考えたことはあるか?そして、その女の親、家族とて同様なはずだ。自分の娘をおもちゃのように使われて良いと思う家族がいると思うか?お前達は、王都からまだ近いこの街を身近な者達を守ることすらできないで何が勇者だ。ただ、力があるだけの存在だろ?勇者とは様々な人を助ける存在、皆の憧れ、偉業を成し遂げる存在だと俺は思っていたんだがな?国王も同じだ。公爵と同等以上の強さを持つ人間が出来たのなら何故もっと早く対処しない。前線で戦えば勇者の力も更に付くだろう。そんな事も分からないのか?結局、お前たちも自分の身が可愛いだけなんだよ。」
柄にもなく熱弁する夢叶。
「勇者である俺に対してだけでなく、陛下にまでの侮辱の発言。余程死にたいのか?」
一瞬で夢叶の目の前まで迫り胸倉を掴み、喉元に剣を突き付ける。一瞬と言っても常人からすればの話で、ランエスがスイフトゥによる風魔法で速度を上昇させた程度の速さだ。
「皆、見たか?これがこの勇者の本性だ。自分の都合が悪くなれば直ぐに力で解決しようとする。話し合いをしようとすらしない。これを勇者と認めていいのか?これでは元公爵と何も変わらないぞ。」
「確かに。」「あの勇者は野蛮だ。」などと声が上がりざわつき始める。
「静まれい!」
陛下の声にざわつきが一瞬で収まる。
「済まないな。我が国の勇者が失礼をした。・・・ユウタ!その短気な性格、何度言えばわかるのだ!」
「申し訳ございません。」
夢叶から手を放し、陛下の傍に戻る。
「陛下。気が立って気付くのに遅れたのですが、あの服装、この者は恐らく、私と同じ世界から来た者です。」
「ほう、とすれば其方も勇者か?」
ようやくそこに気が付いたか。
「確かに、俺はそこのクズ勇者と同じ世界から来た。しかし、勇者ではない。」
「お前!」
「ユウタ!それは、初耳だな。異世界人で勇者でないとは。」
クズ勇者と呼ばれ、再び飛び掛かろうとするユウタを陛下は片手で制止して、きっぱりと言い切った夢叶に首を傾げる。
「そんな事よりも、クズ勇者。本当に俺の事を覚えていないのか?」
「あ?」
このクズ呼ばわりする奴と過去にあったことがある?異世界人であることからして、地球にいた時に会っていたのか?必死に思い出そうとする。
「まだ、思い出せないって顔だな。なら、俺にした事と同じことをしてやろうか?」
「・・・良いだろう。俺も勇者だ。仮に本当にあった事で忘れていたとしたら、気分は悪いだろう。それでお前の気が済むのならそうするが良い。」
事実であってもそうでなくてもこれで勇者という体裁は保てるとユウタは判断した。
「公開するなよ?」
ニヤと不敵に笑う夢叶。
「レイさんとイルさん、悪いが赤の他人である俺の指示に従ってくれないか。不快な思いをさせるかもしれないが、あなた達二人ならこのクズ勇者に対応できるだろうから。」
「「わ、わかりました。」」
レンとイルを指定する。他人行儀でこれからする事で今後彼らに出来るだけ迷惑が掛からないようにと、身内ではないということをアピールする。
ユウタは何処か引っ掛かっていた。異世界人なら女神から何らかの力があるはず、先ほどの脅しにも何の反応も示さなかった。反応できなかったということなら、剣を喉元に突き付けられた時点で驚くなり何かしらの反応はあるはずなのだ。しかし、何もなかった。ということはあの速度に反応、対応が出来ていたということだ。
「それじゃあ、そういう段取りで頼む。」
「「「わかりました。」」
考えを巡らせている間に、話が付いたみたいだ。さぁ、どんなことをしてくるのか。夢叶の未知数の力に汗ばんでくる。
「んー。あ、そこの人。ちょっとその盾を貸して貰えないか?」
「これか?」
「ああ。」
端の方で見ていた男が持っていたニードルシールドを指さす。名前の通り、盾の真ん中の位置に横一列に3本の棘が付いている。盾のまま体当たりすれば串刺しに出来る代物だ。
許可を得たので礼を言って借りて来た。
「あと、何か要らない厚手の布を誰か持っていませんか?」
「毛布で良ければ。」
おばさんが何故か持っていた毛布を渡してくれる。まあ、丁度良かったので追求はしない。
「ま、こんなもんでいいか。」
その毛布をニードルシールドに棘が僅かに出るようにぐるぐる巻きにする。そして、その出た棘部分をユウタの方に向くようにして、毛布部分を掴んで構えて持っているようにと言う。
「こうか?・・・な!?」
ユウタが確認するが、その返答は毛布巻きニードルシールドに拳で前触れもなく返って来た。
「お前!何を!?」
「何をもくそもお前が俺にやった事だ。」
バシバシとニードルシールドを殴る。サンドバックだ。
「お、おい。棘の方は勇者様の方に向いているんだぞ。あれでは、盾で防いだところで棘に刺さってしまう。」
誰かがそう言う。ユウタもそれは分かっており、棘は僅かしか飛び出していない為、大怪我をする事はないがチクチクと地味に痛い。その痛みから逃れる為に盾を反対にしようとする。
「その通りだ。俺はそれを強要させられた。・・・そして、何勝手に持ち替えてんだ!クズ勇者!」
がら空きの足を蹴り、ユウタが尻餅を着く。
「お前!」
尻餅を着いた恥ずかしさからか怒声が出る。
「あ?何、反抗してんだ?サンドバックが喋るな。」
ユウタの顔面を強打する。ユウタは口の中を切り、血が出る。
「これでも、俺にした事よりましなんだぞ?お前は、いや、お前達は俺というサンドバックという1人に対して3人がかりでやっていたんだ。それが今は3分の1。優しいだろ?」
嘲笑う。
「ふざげるな!」
ユウタが叫んだ瞬間。レンが後ろからユウタを羽交い絞めにし、イルがニードルシールドを奪う。ガードすら出来なくなったユウタを何度も強打する。顔が張れ、何人かは顔を背け、リリィ達とアース家は、夢叶のあまりの変貌に言葉が出ない。陛下は、勇者の体裁の為と手を血が出るほどに握り、我慢している。
「も、もうやめ・・・。」
「もう終わりか?まだ立つ元気があるだろ?まだまだ行けるだろ?」
不敵に笑う夢叶を見て、ユウタは目を見開く。このままでは殺される。耐えることは簡単だと思っていた。長年鍛錬し、魔法により異世界物必須とも言える身体強化により防御力も上げていた。にも拘らずそれを物ともしないでサンドバックにされている。このままでは殺されると感じた。
「おいおい。いい加減、思い出せよ。お前達は、毎日のように俺が立てなくなるまでサンドバックにしてくれたんだぞ。あの、お前が消えた日は倒れた後も蹴っていたじゃないか。あの時は、さすがに死を覚悟したんだぞ。」
消えた日。それは恐らく、ユウタが勇者召喚された日だ。確か、体が急に燃えて川に飛び込んだらこの世界に来ていたのだ。
「召喚された時は、どうだった?燃えたまま召喚されたのか?」
・・・思い出した。
「・・・往世・・・なのか?」
この世界に来る前の学校で、いつも辛気臭そうに暗い顔をしたこいつが目障りでよく友人とボコっていたのを思い出した。あの日から5年は立っている思いだ返してみると確かに往世が少し大人びた感じだ。
「おー。ようやく思い出してくれたか。そして、行為を認めたということだ。こんなクズみたいな事をしている者が勇者であっていいのか?今は良い子ぶっているだけで、裏では何をしているか分からないぞ?もしかしたら元公爵と同じような事をしているかもしれん。」
夢叶がレンに合図してユウタを離す。
「な、なにを言って!」
ユウタが思い出したのも束の間、夢叶のありもしない言葉を止めようとするユウタ。
「あの時は、済まなかった!申し訳ない!」
土下座をするユウタ。
「まぁ、俺を殺しかけたお蔭で、力に目覚めたからある意味は感謝はしている。」
「あの炎はまさか!?」
「ああ。あの時は、自覚は全くなかったがな。後から気付いて練習して扱えるようになったわけだ。そんな事より、あの後どうなったか知っているか?」
当然、すでにこの世界に召喚されているため知るわけがなく、首を横に振る。
「お前の父親、刑事だろ?」
「親父はどうだった!?俺がいなくなって心配していたんじゃ?」
心配し、懐かしそうにするユウタ。
「ああ、物凄く心配していたさ。俺をでっち上げた証拠で牢屋に放り込み、俺の母親を死に追いやるぐらいにな。」
「・・・え?」
さすがにそんな事は予想のかけらもしていなかったのだろう。固まってしまう。
「お前の父親は何を思ったのか、誰でもいいから、犯人を捕まえたという安心感が欲しかったんだろうな。それで当時一緒にいたという俺を犯人に仕立て上げる為に、貧乏だった俺の家は母親を買収し、挙句に俺を捕まえた後は金も払わず、ポイだ。とんだ糞親子だな。まぁ、燃やした犯人は実際俺だったんだがな。殺人罪までつけやがった。ここに生きているっていうのにな。ついでに、俺に暴行したという事を分かっていながらお前やそいつらには何もお咎めなしで、なかったことにされたみたいだ。おかしな話だろ?」
何も言えないユウタ。まさか、父親がそんな事をするとは思ってもいなかっただろう。
「俺もまさか召喚されている何て思っていなかったからな、正当防衛だったとはいえ、殺してしまったのかと思ったから痛み分け程度に思っていたんだ。母親に売られたんだ、そこまで母親が死んでも思ったよりショックはなかったからな。だが、ここにこうして生きている。なら、今まで恨みが溢れて来ても不思議じゃないだろ?そこで、思い着いたんだ。お前の父親をお前の目の前で殺してやるか、お前が父親の目の前で死ぬか。どっちが良い?」
その瞬間、ユウタの体が光に包まれる。
「昔みたいにお前をいたぶって殺してやるよ!」
僧侶による回復魔法、ハイヒール。ヒールの上位回復魔法でユウタの傷が瞬く間に治った。
「そうか。ならお前を絶望の淵に落としてやる。」
過去の夢叶からは考えられない程の邪悪な笑みをしていた。
いつもお読みくださりありがとうございます。
ブックマ、評価してくださった方ありがとうございます。




