第67話
―――― 少し時間は遡る。
犬耳を生やした少女?が真っ青な顔をして、周囲は微妙な空気となっている。
「獣人族だ。何でこんなところに。」
「汚らわしい。」
「関わっちゃいけません。」
周囲の反応からして、獣人はこの世界で物凄く嫌われているということが簡単にわかる。
「ほれ。悪いな。」
落としてしまった物をロシィと拾い集め渡してやる。
「あ、そのありがとうございます。」
耳を垂らし、礼を言う少女だが体が震えている。
「あと、これ。」
ロシィが帽子を被せる。耳が隠れたことにより少し安堵するがすでに周囲にはバレてしまっているため、じっと様子を伺っているようだ。
「何?あの子達。獣人に接するなんて何を考えているのかしら。」
「獣人を知らないのか?見た目で騙されては駄目だぞ。」
「ああ、前も酷い被害にあったな。」
「チームエメランスがいなかったらどうなっていたか。」
「飼い主は何をやっているだ。獣人を一人にするなんて。」
・・・飼い主?。
「も、申し訳ございません!」
勢いよく頭を下げて、この場から走り去ってしまった。
「おう、あんちゃん。獣人は初めてか?」
気さくそうなおじさんが話しかけて来た。
「そうだが、獣人が嫌われているみたいだが、なんでだ?」
「それも知らないのか。獣人は、雄は厳つく、雌は見た目は可愛いのが多いがあいつらは化け物なんだ。」
「化け物?」
「ああ、雄は見た目通りだが、雌も暴れだすと手が付けられねぇ。1か月ほど前になるか。理由は知らないが獣人が暴れてな、チームエメランスがパーティで掛かってようやく討伐することが出来るほどの強さなんだ。被害も家屋が5件以上壊されたみたいだしな。たもったもんじゃない。」
「討伐って事は殺したのか?」
「当然だろ?暴れて被害を出すような獣人を放っておくほど世の中甘くないのさ。」
「なら人間が同じような事をしたらどうなる?」
「ん~。まぁ、修理費、罰金を出して反省していると認められればそれで終わりじゃないのか。人的被害は幸いなかったからな。あればさすがに死刑か牢屋行さ。」
奴隷、獣人による差別か。嫌になるな。
「昔はもっと凶暴な獣人が多くいたんだ。しかし、暴れまわる輩が多く。人間との間で戦争が起こってな、数で勝る人間が勝利を収め、生き残った獣人共は、奴隷となることで種族の存命が許されたのさ。」
「・・・奴隷か。獣人族は納得はしていないんだろ?もっと待遇とか接し方を変えなきゃそのうちまた反乱とかするんじゃないのか?」
「したところで今度こそ、獣人族という種族がこの世からなくなるだけさ。」
おそらく、獣人はどこかの異世界物でもあるように、魔法は苦手だが身体能力は非常に高いといったところだろう。でなければ、恐れられている力を持ちながら人間に負けるわけがない。
「それに、危険性から奴隷としての値段も安いし、獣の耳と尻尾が生えているが見た目だけは良い女が多いからな。小金持ちの連中の奴隷としてはちょうど良いのさ。」
「ここでも奴隷は道具扱いか・・・。」
「まぁ、酷いのはほとんど獣人相手だけだがね。同じ人間は大体、孤児となった者が多いから親代わりや人手不足を補うためっていうのがほとんどだ。」
「・・・そうか。少しは安心した。情報ありがとな。」
「おう、獣人には気を付けな。」
一応礼を言ってその場から立ち去る。ここでも前の世界と同じなら同じことをやってしまいそうだった。しかし、獣人か。ケモミミ。・・・良いね。
「どうするの?」
ロシィとリリィが左右から除くように見上げ、両手を頭の上に乗せてピコピコしてくる。抱きしめたくなるのを公衆の面前でさすがにする勇気がないため我慢する。
「ん~。さすがにまたやらかすわけにはいかないしなぁ。そんなことをしていたら何個も国を潰さなければならなくなる。しばらくは、放置してこの世界を満喫かな。」
「あ~い。」
「じゃあ、スライム退治?」
ロシィの返事の後にリリィが訪ねてくる。
「そうだな。取り合えず、この世界の金を手に入れよう。」
そう言って、街の出口を目指す。
「おがーざーん!どこー!おどーさーん!」
しばらくとは言わない程度を歩くと道の端で泣き叫んでいる幼女がいた。誰も面倒くさそうに、鳴き声が鬱陶しそうに幼女を見たり、睨みつけて通り過ぎていく。
夢叶一行も気にしながらも通り抜けて行く。幼女を通り越し、数歩歩いたところで夢叶は足を止める。後ろを振り向くと通行人の間をすり抜けて幼女に近づこうとしているエリィの姿があった。
「悪い。少し、街でも見学しておいてくれ。」
「ああ。ユウは知ってるんだね。分かった。」
何を知っているのだろう?エリィがクール系キャラのはずなのに迷子を放っておけない性格の事だろうか。
「悪いな。終わればテレパシーする。」
じゃ、と手を上げてエリィの方に向かう。
「よっと。」
幼女を肩車して、エリィと共に歩き出す。
「リカちゃんのお母さんいらっしゃいませんかー!」
エリィが大声で呼び掛ける。幼女リカちゃんの親を探している。
「リカちゃんのお父さんいらっしゃいませんかー!」
「・・・何かさ。最初に会った頃も迷子の子の親を探してたよな。」
あの時はエリィが有名人だからいろいろな人が話しかけて来たな。その度にこっちに変な話題を振ってこないかビクビクしていたが、今となっては懐かしい思い出だ。
「そうだな。別にスライム退治に行ってくれていて構わないぞ。」
「一人だけ来たばかりの世界にいさせるわけにはいかないだろ。何があるか分からないんだし。」
「リカちゃんのお母さんいらっしゃいませんかー!・・・アース家の者達はどうなる。」
「あいつらは、俺らから離れて過ごすいい機会だしな。親離れ的なやつだよ。エリィは、リリィとずっと一緒にいるつもりだろ?なら、無暗に危険にさらさせる訳にはいかない。仲間なんだからさ。別に困っている奴を助けるのは良いことじゃないか。迷子に過剰反応するのは気になるけどな。」
「リカちゃんのお父さんいらっしゃいませんかー!」
仲間と言われ、少し照れるエリィ。街を救うためとは言え、能力授与の主従契約を交わした。これまで通り過ごせるわけがないと諦めていたが、寧ろ前よりも充実した日々を過ごしている。色々とユウは厄介ごとを持ってくるが、ユウの容赦のない所に度々恐怖を覚えなくもないが、それでもユウなりの信念もあり優しさもある。今だって心配して付いてきてくれている。
「・・・昔な。この子ぐらいの時だ。私も親と離れて迷子になっていた時に人攫いに会って、奴隷商に売られ掛けられたんだ。幸い、冒険者が見ていたらしく、その冒険者に助けられてな。まともに礼も言えずに去られてしまったが、その時に騎士に、強くなって皆を守ろうと心に誓ったのだ。迷子の子を見るとどうも人攫いに会うんじゃないかと不安になってしまうんだ。」
「・・・そうか。お前がまた迷子になったら全力で迎えに行く。エリィは気にせずに自分のしたいことをすればいい。出来る限りのサポートはするから。」
そう言った、夢叶の顔はほのかに赤い。それを見てフッと笑みを浮かべ、リカちゃんの親を声を出して探し続けた。
――――
「エリィって昔、何かあったの?」
リリィにロシィが問いかける。
「小さい頃にちょっとね。まぁ、詳しいことは本人から聞いて。好き勝手に喋る内容でもないと思うから。」
他人の昔のトラウマを他人の喋るような無粋な真似はしないし。ロシィも「そっか。」とその辺りは理解して追求はしてこない。普段、イラっとする事をしたりふざけたりしているが、こういう所はちゃんとしているロシィである。
「いたぞ!」
街を散策しているとそんな声がした。声の主はモヒカンブルー。その声に後ろから駆け寄ってくるモヒカンレッドとモヒカンイエロー。
「どうやって、逃げ出しやがった。痛い目をみたいのか!?」
人通りが多い中、大声を上げてズンズンと近づいて来るモヒカンレッド。周囲の人達はモヒカン達だと分かると関わりたくないのか道を開け、その場から離れていく。
「ほぇ?」
外に並んでいたアクセサリーを見ていたロシィが間抜けな声を出して何用?と首を傾げる。
「ん?あのひょろそうな男はいないのか。丁度いいだろう。あんなひょろいのより、俺達に付いて来い。行くぞ!」
有無を言わさぬ感じで背を向けて勝手に歩き出す。当然、付いていくわけもなく、アクセサリー鑑賞を続ける。
「結構、デザイン可愛いいの多いね。」
「だねー。お金貯めて買おっか。」
ロシィとリリィがキャッキャッと言い合っている様子を、シルヴィが生暖かく見守り、ティエが鼻息を荒くしてリリィを見ている。店主は、そんな様子をソワソワとやばいですよと気が気でない様子。
「って、付いてこいや!」
再びこちらを向き、叫びを上げるモヒカンレッド。
「逆らわない方が身のためだぞ。」
「目を付けられたのか。」
「可哀そうに。」
憐みの声がヒソヒソと街の人間数人が道に残って見守りながら話している。
「何でさ。今、ウインドウショッピングで楽しんでいるんだけど。」
「ウンド?なんだ?そんな事はどうでもいい。早く付いて来い。」
ロシィの言葉に意味が理解できなかったが気にせずに再びロシィの腕をつかみにかかる。それを今度はサッと躱し、モヒカンレッドの手が空振る。
「お前ら!逆らわずにお前も来い!」
モヒカンブルーがリリィの腕にも手を伸ばす。しかし、手にリリィの腕が収まっているはずだったが地面に手が付いている。
「汚らわしい手でリリィ様に触れるな!ゴミが!」
物凄い形相で吐き捨てるように怒鳴るティエ。久々のアーギョモードである。
周りが「えー」と周囲は唖然としている。見た目が控えめな様子からは想像できない言動だ。
「す、直ぐに謝ってください。でないと・・・!」
店主が謝るように推奨してくる。
「なぜ謝らなければなんねぇんだ?こいつはリリィ様に手を出そうとしたんだぞ?あぁ!?死ぬ以外に選択肢なんかねえだろ!」
ティエの形相にドン引きで黙る店主。
「き、貴様!私達にこんな事をしてただで済むと思っているのか!?」
よろりと立ち上がり、怒鳴り散らすモヒカンブルー。
「それはこっちの台詞だ!ゴミ虫が!」
「ちょっと待っ・・・!」
モヒカン戦隊達にとって目にも止まらぬ速さで移動し、モヒカン戦隊をボコスカとリリィが制止を言い切る前にやってしまうティエ。
「あの人達を一瞬で!?」
地面に倒れているモヒカン戦隊を見て、周囲の見ていた者達は驚愕していた。実力者であるランクA、3人を相手に一瞬で倒してしまったのだ。
「ティエ!メッ!私達が変に動いたらユウに迷惑がかかるでしょ。」
リリィが人差し指で可愛く起こる。
「ハッ!?申し訳ありません。しかし、ユウなどに迷惑が掛かっても何か問題があるのでしょうか?」
正気に戻り何か問題が?と尋ねるティエ。
「私が悲しい。」
シュンとするリリィにズキューンと胸を打たれるかのような衝撃を受けるティエ。
「申し訳ございません!気を付けます!」
ハハーと土下座するティエ。その時に「たぶん」とボソと付け加える。
「何か言った?」
「い、いえ!何も言ってませんよ。」
シュタっと立ち上がり否定するティエ。
「多分だって~。」
「ちょっ!?」
ロシィがニマニマしながら言う。
「へぇ~。」
ジト~とティエを見るリリィ。
「ゆ、許さねぇ。絶対に・・・」
ガシとリリイの足を掴み地べたから見上げるモヒカンレッド。
「汚らわしい手で触れるなと言っただろ!ゴミが!」
再びティエが荒ぶる。ザクとモヒカンレッドの手に剣を刺す。
「があ!?」
涙を必死にこらえるモヒカンレッド。
「コラ!」
「あ!申し訳ございません!このゴミが・・・。」
「言い訳はいい。取り合えず、ユウに連絡するからちょっと待って。」
シュンとなるティエ。リリィの事になると相変わらず周りが見えなくなるティエである。過剰反応し過ぎなのが問題点である。
『ユウ。ユウ。なんかギルドで絡んで来た人達がまた来て、ティエがやらかしちゃったんだけど。』
『ええ~まじかよ。ちょうどさっき、思いのほか早く親御さん見つけたからすぐ行く。どこだ?』
『よかった。えっと、なんかアクセサリーショップがある所。』
リリィからのテレパシーで明らかに嫌そうな反応をしていたが直ぐに来てくれるようだ。
「ふむ。何処だよ。アクセサリーショップって。」
「どうかしたのか?」
「いや、何かティエがやらかしたらしい。」
訪ねたエリィに簡単に答える。
「アクセサリーショップならさっき向こうの通りで見たが。」
「連れてってくれ。」
「分かった。」
駆け足で向かう。
「来た来た。早かったね。」
「ごめんね。ユウ。」
夢叶とエリィの姿を見つけ、ロシィとリリィが駆け寄ってくる。
「それで何があったんだ?」
「かくかくしかじか。」
リリィが苦笑いしながら先ほどの出来事を説明してくれる。
「ほぅ。お前ら、俺の女に性懲りもなく手を出したのか。」
モヒカンレッドの前に立ち、ギロリと見下ろす。
「ケッ。貴様如きが。この俺様に勝てるとでも思っているのか。」
よろよろと立ち上がる。そんな姿でもまだ負けるつもりはないようだ。
「ティエが痛めつけたみたいだし。今ならまだ見逃してやるが、どうする?」
「舐めるなよ!ひょろ男がー!」
バッと後ろに飛び躱す。
「ティエ。好きなだけ痛めつけていいぞ。」
「何であなたに指図されなきゃいけないのよ!」
え~。
「ティエ。お願い。」
リリィがお願いのポーズをとる。
「お任せください!」
切り替え早いなー。
「覚悟は良いですね。」
「き、貴様!男なら女に頼らずに自分で掛かってこいや!」
「やだよ。」
ティエの強さは身を持って知っているモヒカンレッドは何とか勝てそうであろう夢叶と一対一で戦おうとするが、即答で拒否られてしまう。そもそもティエに頼んだのは夢叶の自分の力を知られない為だ。目立つのは強い女の味方がいる男でお腹一杯である。
「「「ぎゃーー!!」」」
モヒカン戦隊の断末魔ような叫びが街の中に響いた。
『ユウさん。モヒカンの人達って今どうしてますか?』
イルからテレパシーで連絡が来た。
『ん?ロシィとリリィに手を出そうとしたからフルボッコにしたところだが、ティエが。』
『丁度よかった。申し訳ないのですが、それを連れてこっちに来てもらえませんか?その父親の公爵の聞き分けがなくて少々困ってまして。』
『・・・それって絶対に面倒事だよな?』
『かもしれません。』
苦笑いしている様子が目に浮かぶ。
『わかったよ。ちょっと待っててくれ。』
『すいません。よろしくお願いします。』
「どったの?」
「イルからで。どうもこれの親と揉めているらしい。」
「ククク。親父に勝てるわけがねえ・・・!?」
キンッ。
甲高い音が鳴り、モヒカン戦隊を凍らせるティエ。といってもモヒカン戦隊一人一人を分厚い氷で囲っているだけで、氷漬けにしているわけではない。
「サンキュ。ちょっと場所を移動しようか。ティエ頼む。」
「ティエお願い。」
「分かりました!」
ティエが夢叶の頼みに物凄く嫌な顔をするが、そうなると分かっていたリリィがすかさずお願いと言うと瞬時に笑顔で対応する。
ティエが手を翳すと、風が巻き起こり、リリィ達と氷で覆われているモヒカン戦隊が浮かび上がる。そして、そのまま空高く飛び去って行く。夢叶一人を残して。
ポツーン。
周囲の人達が空を飛んで行くのを眺めて意識が上に向いている間に夢叶は、物陰に入り、テレポートしてリリィ達の元に行く。
ギョっとモヒカン戦隊は驚いているが気にしない。後でどうにかする。そして、そのまま空中でゲートを開き、イル達アース家と合流したのであった。




