第66話
「ハッハー。可愛がってやるよ!お嬢ちゃん!」
「ヒャッハー。可愛がってあげるよ!坊主!」
公爵の部下、男2人を先頭に叫びながら迫ってくる。
一人は槍を持ち、もう一人は小太刀を持って迫る。同じような言葉なのに坊主の方が危険な言葉に聞こえるのは気のせいだと思いたい。そう言った男の口元が妙に赤い。口紅だろうか・・・。うん、気のせいだと思いたい。
その後ろにも二刀流の男に、素手、いや篭手を付けている男が迫る。
「僕が相手に・・・。ってちょっと。僕がやるんだよ!」
イルが前に出て行こうとしたらルーシーが先に前に出ていた。
「・・・何でもないです。」
ルーシーの顔を見て引き下がった。完全にキレていた。ルーシーだけじゃない。アース家一行は全員が怒っていた。それを表に出さずにルーシー以外は我慢していただけである。なぜ全員が怒っているのか。「その程度の部下などいくらでも代わりはいる。」という公爵の言葉からだ。つまり、死んでもしまっても別に構わない。物のように取り換えればよいと言っている。人間を物扱いする行為、言動にはかなり気分を害する。それも言葉のあやとかで出てしまった訳ではないから当然その気分を害する度合いは大きい。
「お嬢ちゃん一人で相手してくれるのかい?」
ニヤニヤして槍を持った男が先制攻撃と言わんばかりに突いてくる。それをさっと横に躱すとそこに口紅をした小太刀のオッサンが切りかかってくる。
「邪魔。」
小太刀を躱し、二人を無視して公爵の元へと歩いて向かう。。しかし、槍と小太刀の男の後ろにも迫っていた二刀流と篭手の男が迫る。
「少しはやるようだな!」
テンプシーロールの如く正面から拳を繰り出し、横からは二刀で切りかかっている。お互いが邪魔にならないように攻めてくる。良いコンビネーションだ。だが、それを難なく躱すと後ろから無視した二人が再び迫って来た。
一閃。
ルーシーは体を1回転させ、間合いに入った4人を一撃で切り崩した。全員が腹を切られ、致命傷までとはいかなくとも、これ以上戦おうものなら死に至るほどの傷だ。
「ば、馬鹿な!ランクSとランクAの4人相手に一撃だと!?」
驚愕する公爵。さすがの公爵この4人が同時相手では勝てなくもないが苦戦する。それをこの少女はたったの一撃で倒したのだ。
「素晴らしい。その腕を我が元で振るう気はないかね?」
公爵は、頭を切り替え、交渉に入った。
「冗談にしては、笑えないわね。」
「冗談ではないぞ。十分な待遇を約束しよう。この街にいれば私の力で何でも君のやりたいことを叶えよう。大抵の事は叶えてやれるぞ?どうだ?悪くはないだろう?」
ニィと笑う公爵。
「・・・そう。ホント息子も息子なら親も親ね。魔物の群れから街を守ったというから多少はましなのかなと思ってたんだけど、そうではなかったみたいで残念ね。」
「・・・残念だよ。その若さでそれ程の腕、歴史に名を残せるほどの強くなれるだろうに。その芽を潰さなければならないとは。」
公爵が剣を構える。
瞬時に間合いを詰め、上段から切りかかる。噂だけのことはある。ランエスやエメラならこの速度に反応して防ぐのが精一杯だろう。しかし、ルーシーはそれを無駄なく避け、公爵の足に切りつける。
「ぐうぅ!」
痛みを堪え、何とか踏ん張って立つ公爵。
「あ、ありえん。」
先ほどの部下を倒す姿を見て只者ではないと判断し、全力で切りに掛かった。ランエス達ですら防ぐので精一杯の攻撃をだ。本来ならば防がれてもそのまま連撃し、相手に反撃すら与えないようにできるのだが、少女はそれをいとも容易く躱し、さらに反撃してきた。
「小娘がー!調子に乗るなよ!!」
怒り、叫ぶ。公爵は足の痛みを無視し、全力で、先ほどよりもさらに早く動き、最速の突きを繰り出す。今出せる最高の一撃だ。
「ぁ・・・。」
しかし、それは当たらないどころか、剣を弾かれ手から離れてしまう。離れた所に剣が落ちる音が響く。
サクッ・・・。
「ぐっ!?」
公爵の足にルーシーの剣が突き刺さる。これで両足共に怪我をし、立っている事も難しい。しかし、仮にも元ランクSであり引退した現在でもトップクラスの実力。両足に剣が刺されただけでは倒れない。
「お、お前達。この私にこんな事をしてただで済むとは思っていまいな!
「済むと思っているけど?今度は腕?それとも完全に歩けないようにしといたほうがいいかな。」
公爵の言葉を流し、次は何処を剣で刺そうかと迷っている。
「ルーシーはキレさせたら駄目だね。」
「ああ。」
「ですね。」
イルがボソボソと言うと2人ともそれに同意する。
「私を殺すとでも言うのかね!?私が死ねばこの国の損失は計り知れないぞ!」
「だーかーらー。ウチ等にそんなの関係ないって言わなかったっけ?ウチ等異世界人はこの国がどうなろうと知った事じゃないの。それにあんたみたいなのを放っておくこの国もこの国よ。この国も滅んだ方がいいんじゃないかしら?」
何を馬鹿な事をと言いかけた公爵だが、何かが引っ掛かった。聞き間違いでなければ、この小娘は「この国“も”滅んだ方が」と言った。“も”だと言うことは違う国が滅ぼされたと言うことか?いや、そんな話は聞いたことがない。・・・まて、こいつらは異世界人だと言った。その異世界の国を滅ぼしたということか?そんな事が出来るわけがない。
公爵が必死に考える。
「ん?反省する気になった?今ならまだ許して上げないこともない。悪いのはアンタじゃなくて息子なんだからね。」
小娘の目を見るとさも当然のように言い放つ。国が滅ぶのも当たり前かのように。
・・・駄目だ。どう考えても勝てない。頼りの権力もないに等しいし、力でも敵わない。他の3人も無理だろう。魔法使いの小娘でさえあれほどの魔法を無詠唱で使うのだ。他の者も最低でもその程度の実力はあるだろう。それ以前、少しでも変な行動を取れば命すら危ない。こいつらは容赦なく私を殺す。
「す、済まなかった。もう二度としないように愛する息子に強く言い聞かせる。息子も私に免じて許して貰えないだろうか?」
立っているのも辛くなってきたのだろう、膝を付き、土下座に近い形で頭を下げる。
「ん~。まぁ、アンタ自体はさっきも言った通り悪くはないから別にいいんだけど。いや、アンタも全然悪いわ。息子の行為を容認しているんだから。」
「申し訳ない!私も二度としないと誓う。」
その言葉に公爵更に頭を下げる。土下座となった。公爵にとってこれほどの屈辱はなかっただろう。この場を乗り切りさえすれば、後でこいつらを侵略者として国から軍を出してもらい徹底的にするつもりであった。この公爵一人でも一国の軍相手にはさすがに無理だが、貴族が個人的に持つ軍程度なら勝てるほどの実力を持っている。それを圧倒する実力者相手には国から軍を出してもらうしかない。ランクS冒険者を集めるというのも可能ではあるだろうが、この国にランクSの冒険者はそれ程多くない。それにランクSの冒険者とランクA3人が同時にかかっても相手にすらならなかった。ランクS冒険者を交えた国軍で当たるしかない。今を乗り切り、息子さえ帰ってくればこんな奴等。そう思い屈辱に耐えていた。
「アンタ、物凄く後から復讐してやるみたいな感じだけど、その場合、死んだ方がましだと思う程の事をしてあげるからね。」
バレている。しかし、今を乗り切ればそんな物は関係ない。
「あと、アンタの息子。無事かどうかは分からないわよ。」
「な!?何故だ!?」
愛する息子が何故殺さなければならない。
「言ったでしょ。アンタの息子は手を出してはいけない方に手を出したって。言っておくけど私よりも容赦ないわよ。」
それ程までの相手が存在するというのか。絶望する公爵。モヒカンが垂れ下がっている。
「ルーシー。ユウさん来てくれるって。息子捕まえたみたい。」
イルが駆け寄ってくる。
息子が捕まった。愛する私の息子が!?公爵は涙を堪える。一体何をされるのか、息子は無事な姿で戻ってくるのだろうか。そればかりが頭をよぎる。
ブオン。
何もない所に穴が開いたような空間が出来る。ゲートだ。そこから夢叶一行がやって来た。ボロボロになったモヒカン戦隊3人が氷漬けになった状態でロープで繋がれて引きずられていた。
「な、何ということを・・・。」
わなわなと震える公爵。息子の姿は見るも無残な姿となっていた。両手足、顔も何か所も傷つき、そこに氷漬けである。氷漬けと言っても、周りを氷で囲っているだけで冷凍庫のようになっている。そのままずっと放っておくと当然凍って死んでしまう。モヒカン戦隊は傷と寒さでまともに動けない状態になっている。
「あ!」
アークは思い出したかの様に声を上げると、各場所からガタンと用具室から公爵の部下が歯をガチガチと寒さで震えた状態で倒れて出て来た。
「申し訳ございません。」
それぞれの近くに火の玉を作り、温めてあげるアーク。部下に罪はないたぶん。と思っての行為だ。部下も同罪ならこんな事はしない。
「巻き込むなって言ったのに。」
やれやれと言う夢叶。
「すいません。私達よりも強い人がいるって言ったらさっさと諦めて更生してくれるかなと思ったんですけど。どこの世界も貴族ってこんなのばかりなんですかね?」
苦笑いしながら言うレン。
「親父!助けてくれ!親父ならこんな奴等!」
氷の中からモヒカンレッドが父親である公爵を見つけ助けを求めるが、その父親は両足を怪我しており、俯いて首を横に振ることしかできない。さらっと息子を連れて現れたこいつらは空間魔法で出て来た。公爵の知る限り、あのような空間魔法を使うには高位の魔法使いが数人がかりで行えるものだ。それを軽々と何事もないように当然のように用いてやって来たのだ。そんな化け物を相手に勝てるわけがない。
「・・・そんな。」
涙が溢れてくるモヒカンレッド。
「どう?これで諦め付いた?」
「・・・ああ。それで・・・私達をどうするつもりかね。」
肩を落としながらも微妙に上から目線な公爵。
「どうします?」
ルーシーがユウに問う。
「ん~。正直、いつもの定番のゴミキャラだったしなぁ。」
「ゴッ!?」
ゴミと言われ怒りをあらわにするが、勝てない相手な為、何とか飲み込む。夢叶も異世界最初のゴミキャラを同行するつもりはあまりなかった。しかも相手は公爵という。ならば、まともに相手をすると国や勇者やらが出て来る可能性だってある。面倒だ。出来る限り避けるに限る。
「この街が一番被害に遭ってたんだろ?なら、この街の連中に判決を任せたらいいんじゃないか?」
「あー。いいですね。そうしましょう。」
アース家一行も賛同する。
「お待ちください。ユウさんとおっしゃいましたか?お金なら望みの額を、地位や名誉だって私の可能な限り与えます。どうか、考え直しては貰えませんか?」
この街の民が、私達を許すわけがない。このユウとかいうひょろそうな男に賭けるしかない。
サクッ。
「がっ!?な、なぜ!?」
公爵の右肩にルーシーの剣が突き刺さる。
「何勝手にアンタみたいなゴミがユウさんを愛称で呼んでいるの?ユウさんの名前が汚れでしょ。死にたいの?」
愛称?いや、たったそれだけでこんなにも起こるものなのか?公爵は痛みで出そうになる涙を堪え困惑している。
「あー、こいつらは愛称に物凄く拘りがあるんだ。下手にお前みたいなゴミが次にもう一回誰かの愛称を口にしたら本当に今すぐ殺されちゃうから気を付けろよ。あと、金は・・・あった方が良いが地位とか名誉とかそんなものはいらん。胃が痛くなるだけだ。」
公爵は涙を呑む。賭けにすらならないような夢叶の対応に終わったと。
「街の人達に言うのはお前達がやってくれよ。俺、関係ない。良いね?」
「わかりました。私とアークなら今日のランクSの試合でそれなりに有名にはなったみたいですから耳ぐらいは傾けてくるでしょう。」
「そ、そうだ!白いドラゴンだ!あのドラゴンはきっと、この街、この国の守護龍だ。ずっとこの国と街を守り貢献してきた私を見捨てるはずがない!」
「そ、そうだぜ!あの白いドラゴンがきっと助けに来てくれる!」
公爵は閃き、誰に言うのではなく言葉に出し、息子のモヒカンレッドもそう言って、只々祈る。そうであってくれと。
その公爵の様子に夢叶一行とアース家一行は顔を見合わせ、微妙な顔をする。
その様子を怪奇そうに見る公爵と息子。
「ま、まさか・・・。」
「そ。そのまさか。そのアンタの頼みの綱の白いドラゴンとやらもこちら側なの。残念ね。」
ドラゴンが人間と組んでいる、共に行動しているなど聞いたことがないが、こいつらはすでに化け物染みた者達だ。あり得ない話ではない。だが、もうそうでないことを祈るしかない。国にはランクSとAの部下達がやられた時には出しておいた。幸い気付かれていないようだが、王都にたどり着くまでに早くても3日は掛かる。そして、討伐の為の準備やらで来るのにも4日は掛かるだろう。どう考えても無理だ。その前に殺されてしまうだろう。
「あの、伝令さんですかね?たぶん、国に連絡しに行ったのですよね?どれくらいで戻ってくるのでしょうか?」
アークが公爵に尋ねる。
「え、あー。早くても7日は掛かるはずだが・・・。」
戸惑いながらも答える。
(バレていた・・・!?なのに放置していたというのか!?いや、これはむしろチャンスだ。)
「なら、7日後に判決を街の人達に尋ねましょうか。」
「あいよ。アンタ達、その間おとなしく、この家の中にいなよ。もし、外にでも出たらその場問答無用で苦しみながら死んで貰うからね。街の人達も伝えまわるから安心していいよ。」
何を安心していいのだろうか、つまり、抜け出そうとするなら街の人一人にも見つかるわけにはいかないということだ。国も動いてくれる。ここは大人しく待つに越したことはない。
そして、7日後。国から100人程度の兵士達となんか偉い人っぽい人が訪れた。




