第65話 モヒカン公爵
『お気をつけて。』
レンとのテレパシーを終え、ロシィは連れ去られ、夢叶は唖然と固まっていたようにギルド内にいた者は思っただろう。
「それじゃあ、スライム退治と行きますか。」
「そうだね。」
「うむ。」
「はい。」
それぞれが返事をし、何事もなかったかのようにギルドを出る。後ろから、何て薄情な奴等なんだという声が聞こえたが気にしない。何故なら。
「やー!」
「やー!」
リリィとロシィがハイタッチをする。ここにいるのだから。モヒカン戦隊が目を離した一瞬の隙を見てテレポートしたのである。
「ねぇ、ユウ。今回は殺らないの?」
「ああ、何だか前と同じパターンな気がするんだ。どうせ裏にいる奴とかがこの世界のトップクラスの実力者で倒してしまってまた大事になりそうな未来しか見えないからな。」
正しく、夢叶の読みは正解であったが、仲間がそれに首を物凄く突っ込んでいるとは思っていなかった。
「そんな事よりもさ。今度着物作ってよ。お代官様ごっこやーりーたい。」
子供の様に言うロシィ。
「わかったよ。今度、創造で作ってやる。しかし、お代官様とかどこで知ったんだ?」
ロシィはグラディオにいた。ならば、あの田中太郎が地味に普及させていたとしても不思議ではないが、見た範囲では着物そのものすらなかったはずだ。そもそも見た範囲は少ないが。何で知っているのか考えていたら、ロシィとリリィが「こんな感じにあ~れ~って回りながら言うの。」とクルクル回っている。道で何をやっているんだ。
「邪魔になるぞー。」
しかし、時すでに遅し。ロシィがドンと歩いていた人に当たり、お互い倒れてしまった。その際に相手の手に持っていた籠が落ちて中の物が転がる。
「すいません。大丈夫ですか?」
「ごめんね。大丈夫?」
夢叶が駆け付け、ロシィもすぐに謝る。籠の中に入っていたのはリンゴ?などの丸い果物類で拾っている最中、相手のかぶっていた帽子が落ちてしまう。
「あ。」
思わず夢叶は声を出してしまった。帽子が取れたことにより頭から生えている犬の耳に驚いたからだ。
後から来たリリィ達の他に、周囲の人達も驚き、犬耳で短髪の・・・少女?少年?は真っ青な顔をしていた。
―――― ギルドマスターの部屋
ギルドマスターのゴウエンは今、一生懸命机に向かっている。その様子を椅子に座って見ているアース家。
アース家は待っているのだ。地図が出来上がるのを。最初は場所を口頭で教えてもらい向かったのだが、10分歩いても聞いていた目印の建物が見えない。一旦戻っても一向にギルドが見えない。それから30分程彷徨ってどうにか戻って来たのだ。
「おし。出来たぞ。今度は迷うんじゃないぞ。」
なぜ俺がこんな事をとぼやきながらも丁寧に結構細かく地図を書いてくれていたことに感謝して頭を下げるアース家。
「「「「ありがとうございます!」」」」
頭を上げ部屋を出て今度こそ貴族の家へと向かう。。
「あの建物があるから、こっちだな。」
レンが目印となる建物を見つけ、道を曲がるとドンと人とぶつかる。
「チッ!どこ見てやがる!」
モヒカンイエローが睨みを利かせて詰め寄ってくるが、ぶつかった相手がレンだとわかると「気を付けろ!」と捨て台詞を吐いてそそくさと立ち去った。そのすぐ先でモヒカンレッドと合流し、「いたか?」「いないっす」などと話している。
「逃げられたんだな。」
「まぁ、当然だよね。」
レンとルーシーが苦笑いしてモヒカン達を見ていた。
「お、あれだな。」
それからもうしばらく歩くと貴族の家というか屋敷が見えて来た。
「でかいな。」
見上げていると槍を持った門番が近寄って来た。
「ここに何か用か?」
いかにも怪しんでいる。
「ああ、はい。ここの息子さんの事で少々お話がありまして。」
「こちらに話はない。今すぐに帰れ。」
レンが息子の事を話に出すと有無を言わせぬ感じでしっしっと追い払おうとする。
「そちらになくてもこちらにはあるんですよ。とりあえず、貴族さんに話を通して貰えませんかね?下手をすれば息子さんの命に関わるかもしれませんよ。」
ユウさんが移ってきたのだろうか。前までなら貴族関係相手にこんな態度はとれなかったのだが。
「ふん、脅しか?そんな物に屈するわけがなかろう。この街の、この国の者が公爵様を相手にそんな事をしてただで済むわけがなかろう?」
鼻で笑う門番。公爵だったのか・・・公爵から何故あんな駄目な人間に育ったのか・・・。
「いえ、私達はこの国の者でもないので。」
「ならば、この国に戦争でもしかけるつもりか?」
「いえいえ、そんなつもりもないですよ。ただ、お宅の息子さんの行動が余りにも目に余るもので。そろそろおやめになっていただきたいだけなのですよ。」
「そんな事、門番である私が知った事ではない。公爵様に害をなすようなら容赦はしないぞ。」
門番が槍の矛先を向ける。
「もう、面倒ね。私達はね。勇者ではないけど異世界人なの。国とかどうとか関係ないのよ。わかったらさっさとその公爵様とやらに話を通してくれない?」
ルーシーがレンの横に出て来て不満たらたらに言う。
「分かっていないのはお前達だ。仮に本当に異世界人だとしても勇者ではないとしたらそれはおかしい。異世界人は皆勇者として召喚されるのだ。勇者ではない異世界人などいないのだよ。さあ、命が惜しくば帰りたま・・・え?」
言い終える前に門番の視界が空に向いていた。門番が気付かない程の速度で地面に仰向けに倒されていたのだ。
それにしても異世界人は勇者しかいないのか・・・。
「これで、どうかしら?死にたくなければ早く公爵に伝えてきなさい。」
ルーシーは剣を門番の首元に向け、門の近くで待機して様子を見ていたもう一人の門番に言うと慌ててその門番は中に入って行った。
「ちょっと、やり過ぎじゃないですか?」
アークが剣を向けられている門番を見て気まずそうに言う。
「こういう輩はこうした方が速いの。あのまま言い合っていたらどの道こうなってたわよ。」
ルーシーはさっぱりと言い切る。そうかもしれないけどと微妙に納得できていない様子のアーク。
「あ、来たみたいだね。」
イルが戻って来た門番に気付く。
「公爵様はお会いになるそうです。」
「分かったわ。」
ルーシーが剣を収めると、ふうと安堵しながら剣を向けられていた門番が立ち上がり、ルーシーを睨みつける。
「何?」
睨み返すルーシーを無視して持ち場に戻る門番。
「ちょっと、教育なっていないんじゃない?」
「申し訳ありません。後で言っておきますので。」
門番があれでは公爵もろくな人間ではないなと思うアース家一行であった。
「こちらです。」
通された部屋は、部屋というには余りにも広く、直径50メートル程あり、広間と言ってもよいだろう。剣や槍が立てかけてあったり、倉庫だろうか、小学校の教師にある用具入れより一回りは大きい物が6か所に等間隔で置かれてある。
「お前達か。私の愛する息子の命が危ないなどと抜かす輩は。」
その中心付近に、モヒカン頭に厳つい顔に無精髭を生やし、グレーのスーツに身を包んた男性が立っていた。その者からはランエスなどよりも強い雰囲気を持っていた。
「はい。あなたの息子さんの行動次第では・・・ですが。」
レンが少し緊張した様子で答える。
「その理由は?」
睨みつけながら聞いてくる。
「えっとですね。今から2時間程前でしょうか。息子さんが手を出してはいけない人達に手を出してしまいましてね。その方達は息子さんがしているような事は大嫌いなのですよ。」
厳つい顔にちょっとビビりながら話すレン。
「だから何だと言うのだね?その者が私の愛する息子を殺すと?もし実際そうなったとしてその者が今後どうなるのか考えもしないほどの愚かな者なのかね?」
馬鹿馬鹿しいと吐き捨てるように言うモヒカン公爵。
「ある程度は分かっていると思いますよ。そうですね。まず、門番さんにも行ったのですが私達は異世界人です。この世界に来たばかりですし、愛着も特にまだありません。そして、息子さんが手を出している方も私達と同じ世界から来ました。そして、私達はあなた達が言う勇者ではありません。」
「ククク。何と愚かな者達だ。勇者ならまだ話し合いに応じる用意も考えたが愚かだ。実に愚かだ。勇者でなければ女神の力は与えられていないだろ?そんな輩にこの私が聞く耳を持つ必要があるのかね?」
レンの説明の途中で笑い出し、聞く耳を持つ必要がないと言っているようなものだ。公爵は周囲に目を配る。その目配せにはアース家一行も気付いた。
「愚かなのはあんたよ。この世界の勇者召喚ってどうせ数人がかりで凄腕の魔法使いが集まって行うんでしょ?」
「そうだが・・・それが何だと言うのだね?」
呆れたように言うルーシーにピクっと反応する公爵。
「あんたの息子は、その凄腕の魔法使いが集まって異世界から勇者を召喚する行為を一人で出来るって人に手を出しているってことよ。この意味わかる?」
「ふん、そんな世迷言を信じるとでも?やれ!」
ガン!ガン!
「どうした!?早く出てこないか!?」
「申し訳御座いません!なぜか開かなくて!」
「こちらもです!」
用具室の中から叫び声が聞こえる。
「あの中に入っているのは分かっていましたので、しばらくあのまま中に入っておいて貰います。」
アークが冷たい目で言い放つ。用具室の扉が密かに氷で塞がれていたのがしっかりとした氷で用具室を氷全体で覆う。
それにより叫んでいた声も小さくなる。
「あのまま放っておくと凍えて死んでしまいますが、あなたが息子さんをちゃんと再教育して頂けるのなら解放します。」
「ほう。なかなかの魔法じゃないか。無詠唱にこの私に気付かせずに行うとは。だが、私の強さを知らないのか?」
まだ、自身の力に自信があるのか余裕のようである。
「知ってますよ。チームエメランスのリーダーと副リーダー二人同時にしても勝てるほどの強さ。実際目にしますと、あの二人を加減なしだと圧倒できる程ですかね。」
「ああ、俺一人でも余裕というわけだ。」
アークはそう分析し、レンが前に出るがそれを止めに入る者がいた。
「ちょっと今度は僕にやらせてくださいよ!」
イルだ。試験で戦ったのだから今度は自分の番だと言う。
「・・・この私を舐めているのかね?」
怒りが沸点ギリギリのようだ。顔を歪めていらっしゃる。
公爵が指笛を吹くと4人がババっと公爵の前に現れた。
「こいつらは、ランクSランクAのつわもの達だ。この4人を相手にお前たちはどこまで余裕でいられるかな?」
一人ずつ相手にするということだろうか。
「それよりも、早くしないとあなたの部下が死んでしまいますよ。」
アークが公爵の部下を殺してしまわないかそれが心配だ。氷も半分ほどになりすぐにでも解除出来るようになっている。
「そんな事を言って、氷を維持するのが限界にきているだけじゃないのかね?それにその程度部下などいくらでも変わりはいる。あの鬱陶しいガキどもを始末しろ。」
公爵の指示に4人がアース家一行に向かって走り出してきた。
それと同時にルーシーがキレた。




