第61話
「うん!」
両手を前で握り締め、気合を入れ直すアーク。しかし、エメラ及び、観客は唖然とファイアボールが飛んで行った方を見ていた。
「今度はこちらから行きますよ!数多の炎よ、相手を焼き尽くせ!ファイアボール!」
今までのお返しとばかりにファイアボールという同じ魔法を放つアーク。しかし、エメラが一発一発の連射と違い、自身の周囲にエメラよりも一回り大きなファイアボール10個が空中に現れ、一斉にそれぞれが違う角度からエメラを襲う。
「うっそ!?風よ!」
エメラは一瞬で正気に戻り、慌てて風の結界を張る。風の結界によりファイアボールの弾道が逸らされ、何発かエメラのすぐ横の地面に着弾し、小さな爆発が起きる。咄嗟に張った風の結界ではその爆発までは防ぎきれず、小さく吹き飛ばされてしまうエメラ。
「キャア!」
「エメラ!」
予想外にエメラが吹き飛ばされたことにより、ランエスが声を上げる。
小さく一度バウンドし、転がるエメラ。
吹き飛ばされたと言っても風の結界によりほとんどの威力が相殺されているため、ファイアボールによる爆発のダメージはないに等しい。ただ、単純に風圧に耐え切れずに飛ばされただけだった。その為、すぐに立ち上がり詠唱を始める。
エメラは別に油断していたわけじゃない。ランエスとあそこ迄戦える子の仲間ならそこいらにいる連中よりも余程強いとは思っていた。しかし、その強いと思っていたレベルが予想以上だっただけである。エメラは、相手の強さを見直し魔法を繰り出す。
「風よ。切り刻め!エアカッター!」
詠唱の短い魔法を杖を斜めにクロスさせるように放つ。透明のような風の刃はパッと見では分かりづらいが、放つ瞬間から見ていればさほど脅威ではない。アース家を含む夢叶一行からすればだが。こういった魔法も夢叶の中では定番の魔法であり、身体強化と同様対策はしっかりしている。150km程度の速度ではアークやアース家達に取っては非常に遅い速度である。夢叶一行との模擬戦ではその倍の速度が基本である為、アークは何か罠かと首を傾げ、横に大きく飛退く。
「良い判断ね!でも!」
まともに見えない風の刃だ。どれほどの大きさかよくわからなければ大きく避けるのが無難である。それが、エアカッターに対するこの世界の一般的な考えである。
しかし、アークはエアカッターの範囲がどの程度かしっかりと見えていた。エアカッターは放つ時の動作により大きさが基本的に比例する。杖を使い、上から振り下ろして放ったのならその杖の上の先端から降ろした先端迄がエアカッターの大きさになる。それ以上にすることも可能だし、別に振る動作が必要なわけではないが、その方が魔力消費や発動に効率が良いのだ。仮に振る動作より大きい場合の見分け方は、あくまで見えづらい刃というだけで、ちゃんと見れば透明な刃があるのがちゃんとわかる。透明なプラスチックがある感じとでも言えば良いだろうか。なので、振り下ろした先端からその先にその透明な刃があるのかを確認すれば良いだけなのである。
「これはどうかしら!?」
エメラは大きくアークが避けることを予想しており、アークの避けた所に無詠唱による魔法が放たれた。
その魔法は氷の先端が尖っていない槍、定番のアイスランスだ。尖っていないのは殺傷能力を減らすためである。
アークに飛退いた瞬間に放たれたそれは、アークの足が地面に付く前に直撃するコースだ。
―――― ちょっと時間が戻った観客席
「お、おい。あの子。ファイアボールを打ち返したぞ。」
「・・・」
言葉を発した男の隣にいる男は反応がない為、おいと揺すられる。
「!?あ、ああ。何なんだあの子は。さっきの子といい。」
我に返り呟く。魔法を打ち返すなど過去あっただろうか・・・。精々魔法同士で相殺するのが手一杯だ。魔法同士の相殺だって、あの早い魔法を狙って相殺するなどかなりの腕でないとできはなしない。それを相殺どころか魔法を打ち返すなど信じられない。ほとんどの者は偶々上手くいっただけだと思っていた。
また、別のグループでは。
「なぁ。今回ってランクSクエストの受けられるかの試験じゃなかったか?」
「ああ、こんな名勝負はなかなか見られないぞ。チームエメランスを見に来たが予想以上のが見られたな。」
ランクが高いチームエメランスの戦いは、下の者からすれば見るだけでも勉強になる為、戦闘が絡む事だと沢山の冒険者が見に来るのだ。
「「「「お!?」」」」
これは勝負あったなと観客席の誰もが思った。
「「「「なっ!?」」」」
そして、誰もがまじかよと思った。
――――
(よし!)
貰ったとエメラは思った。ランクSであるエメランスの隊長と副隊長がこうもこんな若い子の新人にいいようにされては威厳がなくなる。この街ではチームエメランスの存在はそれなりの抑止力となっている。人数は全員で10人ではあるが、常にパーティの誰かが街にいるようにしている。舐められてしまえば治安が悪くなってしまう。そんなことになってはたまらない。私とランエスはこの街出身で、この街が大好きである。最前線ということから偶々ランクSにまで上り詰め、国からも目を付けて貰えるほどの実力となった。国の危機の時以外は街を優先しても良いという条件で、この国お抱えの冒険者となったのだ。
国のお抱え冒険者、ガントリーは、国からの支援があり、国の平和、秩序を守るために各地を回る役目を主にしている。魔物の出没が多くなった街に出向き、討伐したり国の重役の護衛やスパイなども行ったりしている。栄誉ある、国民の憧れの地位である。
「な!?」
観客席と声がハモる。
空中で、地に足が付く前に当たるはずのアイスランスをアークはロッドの先をで滑らせるように軌道をエメラのいる方へと変えたのだ。
まさか、返されるとは思いもしていなかったエメラは対応に遅れ、自ら放ったアイスランスを避けきれずに当たってしまい、再び吹き飛ばされてしまう。
「もう、怒ったわよ。大怪我しても知らないからね。」
ヨロヨロと立ち上がり、ヒールを自信に回復魔法を掛ける。
「我が身、それは風の如く、疾風の如く!エンチャント!スイフトゥ!」
ランエスが使っていた風により素早さを上げる魔法だ。魔法使いが、何故素早さを上げる必要があるのか、距離を取る為か、場所を変えながら魔法を放つ為かと観客席にいるエメラを知らない人は思っただろう。しかし、エメラを知る者はエメラが本気になった、あの子はあの幼い対戦者はそれ程のまでの強さだと分からされた。
エメラは距離を取るのでもなく、場所を変えて魔法を放つのではなく、真っ直ぐに、杖を構えてアークに突っ込んできたのである。その速さはスイフトゥを使ったランエスと同等だ。
「エアスラスト!」
そこに距離を縮めながらも無詠唱で風の魔法を放つ。風の刃ではなく、風の拳といった魔法だ。エアカッターみたいに振る動作もせず、ただ風の塊を飛ばすその魔法は簡単に単純に繰り出せる。当たれば当然痛いし、直撃すれば骨を与えるであろう威力だ。しかし、エアカッターと違い、スラストは明らかな風の塊が見える。カッターより回避の為に見極める必要性がない。
アークはエアスラストを難なく横に躱すとそこに詰め寄ってきたエメラの槍術が繰り出される。
そう、エアスラストはただの牽制する為だけに放たれ、エメラは魔法使いに取って苦手とする近接戦闘に切り替えたのだ。
魔法と近接の両方をここまで鍛え上げている者はそうはいない。エメラはランエスと幼い頃から槍術をやっており、お互いがライバルだった。そこに魔法を習得しだしたのだ。エメラが魔法を習得しだしたことにより、ランエスも負けじと習得し、エメラが槍術よりも魔法の鍛錬の方に力を入れたため、ランエスが前衛、エメラが後衛の魔法使いというのが基本的な配置となったが、エメラは槍術こそが本来の戦闘スタイルだ。そこに魔法を組み合わせることによって遠近両方、さらには近接戦闘をしながらでも魔法を放つことが出来るまでになったのだ。それゆえに、エメラのような者は魔法使いにとって天敵とも言える存在なのだ。
だからこそ、多少逃げ足が速くてもこのまま今度こそ、自分の十八番で勝てる自信があった。
それが、普通の魔法使いならば。
「う・・・そ・・・。」
エメラは驚愕しながらも攻撃の手は緩めない。魔法使いが私の槍術を難なくロッドで防いでいる。
「槍術は先ほど見ていましたので不安はありましたが、対応できますね。良かったです。」
笑みすら見せるアークにエメラはカッとなり、
「そんな・・・魔法使いに私が負ける何てあり得ない!」
「エメラ!駄目だ!」
「風よ!渦巻く刃で敵を切り裂け!ストームカッター!」
ランエスの制止は間に合わず、これが試験だと言うのを忘れ、相手を殺してしまう魔法を放ってしまった。アークの足元に風が渦巻き、大きな竜巻となった。
ハッ!?しまったとエメラが気付いた時には既に遅い、魔法は既に発動している。
ストームカッターは竜巻で相手の逃げ道を無くし、その中を無数のエアカッターが使用魔力に応じて無差別に放たれ続ける上位魔法で、エメラの扱える魔法の中でもかなり上位に位置する魔法だ。今回、エメラはカッとなってしまったことにより、完全に殺してしまう程の魔力を込めてしまっている。普通なら切り刻まれ人の形を保っていれば良い方である。
風が竜巻がストームがアークを飲み込みエアカッターで切り裂く。竜巻に砂が混ざり中はほとんど見えない状態だが、無数のエアカッターが放たれているのは分かる。嵐観客席で悲鳴が上がり、誰もが目を逸らす。エメラも地面に手をつき、絶望の表情だ。ガントリーであるチームエメランスの評価を下げただけでなく、自身は牢屋行、人間相手に使って相手が生きていたことは一度もない。当然使った相手は盗賊といった悪人や敵国の兵などにしかないが。そんな魔法を放ってしまったのだ。しかも完全に竜巻で捕らえて直撃だ。絶望するしかない。
「アークー!」
ベンチからもレンの叫び声が上がる。
そして、エアストームが収まり始める。




