第60話
「レン!」
アークが駆け付けると、「イテテ」と起き上がる。
「大丈夫?」
心配そうにレンの顔を覗くアーク。
「おう。ちょっとドジったというかドジらされただけだから。」
ポンとアークの頭に手を置くとアークの顔がポッと赤くなる。
「何?あの桃色空間。」
「できてますからねぇ。」
ボソッと言った夢叶にイルが返答する。
「・・・いつの間に。」
知ってた?というように皆を見ると。当然と返される。
鈍感なのだろうか。ロシィに指を指されたのでペシっと叩いておいた。
「そうか、ちゃんと人間してるじゃないか。」
「「・・・はい!」」
一瞬、イルとルーシーは顔を見合わせ、嬉しそうに返事した。
「あー。取り込み中悪いんだが・・・。」
少し気まずそうというか呆れながらランエスがレンとアークに話かると二人ともハッと我に返り顔を真っ赤にした。
「す、すまない。それで、合格かい?」
笑いながら誤魔化すように尋ねる。ランクSの依頼を受けるために新人が適した戦闘力があるのかを確認する為の試験だったのだよ。忘れてない。
「いやいや、俺とあそこ迄戦っておいて駄目なわけがないだろ。合格だよ合格。」
なぁ?と観客席に向かって問いかける。すると、観客達のほとんどが立ち上がり拍手でそれに答えた。
「な?皆、君の強さを認めたのさ。恐らく、これから君は人気者さ。まだ成人になってすらいないのにこの強さ。将来、君は俺よりも強くなるだろう。いや、もしかしたらすでに強いのかもしれない。最後の一撃も正直当たるとは思っていなかった。仮に当たっても防がれたか掠る程度だと思っていたんだ。一瞬、何かに気を取られたような気がしたんだがどうして最後はまともに当たってしまったんだい?」
ランエスは素直な疑問を訪ねた。
「いやー。あ、あれは・・・しゅ、集中がもたなかったんだよ。こんな終わり方ですまない。」
テレパシーでどころかベンチでアークとルーシーがキスしようとしていたとは言えるわけがないし、そもそも自分の隙を作るために見せられたのだから言っては相手に失礼ではすまないかもしれない。
「・・・やはり、まだ何か手はあるみたいだね。その手はまだ隠しておきたかったというわけかな。まぁこれ以上の詮索はよそう。それで、ほかの君の仲間は同じぐらいの強さなのかい?」
まだ底が分からないとランエスは思ったが詮索し過ぎるのも良くないと判断し、話を進めた。
「ん?ああ。あの女剣士のルーシーは俺と同じぐらいだな。ライバルといった感じだ。後の二人は魔法使いだが、同じぐらいだと思う。いつも良い勝負するからな。」
「なるほど、仲間であると同時にライバルということか。身近に同じぐらいの強さの仲間がライバルがいてこそのこの強さか。なら、皆合格で良いだろうな。」
ニッと笑うレンにランエスが納得する。
「あの!」
アークが声を上げる。
「どうした?」
普段あまり大きな声を出さないアークをレンが少し心配そうに見る。
「私ともお手合わせをお願いできないでしょうか?」
「あー。どうしたものか・・・。」
アークは真剣な表情でランエスを見るとランエスは少し困った様子だ。ランエスは正直これ以上の戦いは厳しい。相手がまだいつもの新人らしくランクDやC程度の強さならまだなんとかなるが、彼、レンと同じ程度の強さなら恐らくすぐさまに負けてしまう為、困っているのだ。
「それなら、私が相手になるわよ?構わないかしら?」
ベンチから出てきていたエメラが申し出る。
「良いのですか?」
嬉しそうに言うアーク。しかし、夢叶一行はそんなアークを意外と見ていた。アークは戦闘は争いごとは苦手、嫌いだと思っていたからだ。しかし、レンだけはアークの気持ちを察していた。伊達に恋人ではない。
アークは、自信の謝り癖は治ってきていると思っているが、どうしても戦いとなると遠慮してしまうのだ。それが仲間だからというのも当然ある。仲間相手ならまだ許されるがそれが魔物相手にも遠慮というか抵抗があるのが現状である。魔物ですら抵抗があるのだ。人が相手だともっとあるだろう。夢叶達以外とも対人戦を少しでもして、戦闘というものに少しでも遠慮してしまうことがないように慣れる必要がある。このままでは、いざという時に躊躇って取り返しのつかない事が起こってからでは遅いのだ。その為、アークは少しでもこういった生死に関わる可能性が低いならば率先してやるようにしているのだ。
「ええ、もちろんよ。こちらこそお願いするわ。ランエスが苦戦するほどのお仲間の力、どの程度か見てみたいし、魔物以外ではあなた達のような強い人達と戦える機会はそうないもの。」
エメラがアークに手を差し出すとアークはそれを手に取り握手を交わす。
「え、えー。どうやら、第二試合が開催されるようです!」
受付のお兄さんが実況する。試合ではない試験である。
レンとランエスも握手を交わし、それぞれのベンチに戻る。
「ちょっと、どういう事ですか!?」
「いや、悪いとは思ったんだ。しかしなぁ。」
レンが夢叶に怒っている。もちろん、テレパシーとキスシーンのことについてである。
「正直、お前も思ったより対したことないなとは思っただろ?」
「ま、まぁそうですけど・・・。」
夢叶の言うことも確かなことだった為余り反論できない。レンは炎属性を得意属性とし、それを使った高火力な攻撃に、身体能力強化もまだ使える。魔法使い補佐として育てられていたわけではない為、アークやイルより遥かに魔法の熟練度は低いが、身体能力強化だけは夢叶の指示により優先的に取得するように言われ為、おかげで前衛の剣士としての強さはかなり上昇している。ランエスの風の魔法スイフトゥにより風を纏い、風の後押しで移動速度が上がるというわけではない為、力も身体能力全てが向上する為、ある意味スイフトゥの上位魔法と言っても良い。夢叶一行内での模擬戦では常に使ってアース家達とも接戦していつもどちらが勝ってもおかしくない戦いをし、夢叶達相手には手も足も出ないのが普通であった為、身体能力強化を使わないというのは物凄く物足りない結果なのであった。
「それにな、相手はこの国でのトップクラスの実力者と言うじゃないか。そんな相手に勝ってしまっては目立つだろ?まだ、俺とはパーティ違いになってるから多少はこっちに的は来ないかもしれないが、確実にお前と知り合いってだけでこいつらも強いのかという注目が嫌でも出てきてしまう。そうなったら俺は、あと何回リカバーで胃の調子を直し続けなければならないんだ?教えてくれよレン・・・。」
「え・・・と・・・その・・・。」
胃を撫でながらそう言う夢叶にレンは何も言えなかった。レン達アース家は当然、夢叶が目立つのが嫌いだというのは知っている。それを忘れて遂、自分の実力を試したいが為に戦い、思ったより善戦した程度に留めておけばまだよかったかもしれないものを相手を追い詰めるまでしてしまったのだ。もう注目されないということはないだろう。それに気づいた時には既に遅すぎ、粗相してしまったということになる。これが、自分たちが奴隷のままだったならどんな仕打ちがあるのか分からない。主人が嫌いなことを自分がしてしまったのだ。最悪死刑だってあり得ることをしてしまったのだ。レンは真っ青になり、体を震わせている。
「どうかしたんですか!?」
エメラと試合する為の準備をしていたアークが様子がおかしいのに気付き、慌てて近づいてくる。
「お前は、俺のなんだ?言ってみろ。」
レンを睨み付けて問う夢叶。
「お、私はユウト様の従者です。」
声、体を震わせながら今にも涙を流しそうにそう言うレン。
「アーク!」
「ハイ!」
咄嗟にビシっと返事をするアーク。
「この馬鹿を張り倒せ!」
「嫌です!」
「うむ!」
夢叶の言うことを即答で拒否するアークにそれを納得する夢叶。レンはポカーンと間抜けな顔をしている。それをロシィがプークスクスといつものように笑っている。
「い、意味がわからないのですが・・・。」
戸惑いながらも訪ねるレン。
「意味が分かってないのはお前だけだぞ。」
夢叶が他の者達を見ると皆頷いている。レンはそれでもまだわかっていない様子だ。
「もう一度聞く。お前は俺のなんだ?」
その問いに必死に頭を巡らすレン。アークは頑張ってと両手を握りしめている。
「あ・・・。仲間です。」
苦笑いしながら答えたレンに対して、皆笑顔になる。
「だろ?敬語も別にいいんだが納得してくれなかったのはそっちだし、大した事では別にないしな。胃は痛いが気にするな。やっちまったものは仕方がない。失敗は誰にでもあるだろ?だって、人間だもの。」
お前は奴隷ではないと冗談を入れながら言う夢叶。
「ああ、申しわけない。」
頭を掻きながら謝るレンに皆気にするなと何故か盛り上がっている夢叶一行のベンチをチームエメランスとその他の観客が不思議そうに見ていた。
最近では、失敗という失敗はしておらず、自分の意志もしっかりと持てるようになり完全に油断していて、久々の失敗に頭が真っ白になり、奴隷だった時代が蘇ったということらしい。本人曰く。
・・・やっぱり、いい人達だな。とそうしみじみと思うレンであった。
「申し訳ありません。お待たせしました。」
トテトテと走って来てペコリと頭を下げ、試験開始の所定位置に付く。
「何か、不穏な空気が流れていたみたいだけど大丈夫なの?」
エメラが心配して訪ねてくる。
「あー、はい。申し訳ありません。ご心配をお掛けしました。ちょっと、馬鹿が馬鹿をやらかしただけですので大丈夫です。」
ニコリと笑顔で地味に酷い言い方をしているアーク。
「そ、そう。ならいいわ。では始めましょうか!」
若干引きそうになったが、気を引き締めて構えるエメラ。
「はい!」
同じく構えるアーク。相手との距離はレンとランエスよりも倍近く離れている。ほとんど会場の端だ。魔法戦となる為、遠距離戦が普通である為のこの距離だ。
「それでは!第二試合、始め!」
受付のお兄さんが開始の合図を行う。試合じゃないです、試験ですよ。
「さあ、行くわよ!炎よ!ファイアボール!」
先手必勝。杖を前に突き出し、空中に魔法陣が展開し、そこから、お馴染みの魔法、ファイアボールを繰り出すエメラ。拳よりも一回り程度の大きさだ。
―――― ベンチ
「ねえ!何あれ!魔法陣が空中に出たんだけど!?」
「ねー。何あれー。魔法陣出さないと駄目なのかな?」
「魔法陣出す必要ってあるんですかね?」
「魔力の無駄遣いですよね。」
「まだ、何かに書いてあるなら意味はあるのかもしれませんけど。」
「カッコいいんだけどな。」
それぞれが、魔法陣の展開を誰もがディスっているところに夢叶がボソッと呟いたことに「えー。」と皆が痛い視線を夢叶に向ける。
「ゴホン。あれだよ。あれ。」
「あれ?」
「あー。ほら、何も持っていなかった時にああやって魔法陣を展開できれば、最初の展開の消費だけで、素早く放てるってことだろ?たぶん。」
ニマニマしながら聞いてきたロシィにそれっぽい事を答える。
「確かに、それはあるかもね。魔法陣は魔力効率を上昇させるのが基本だし、維持に魔力消費はどうしても掛かってしまうけど、その分連発できるしね。」
ロシィの言葉になるほどと皆が納得している。それを見てニターとロシィが肩を叩き言う。上手く誤魔化せて良かったねと。
―――― 観客席
「おお。流石はチームエメランスの副リーダー。一言だけであれほどのファイアボールを放つとは。」
「剣士の子は凄かあったが、魔法使いの子はどうだろうな。」
「今のところ、逃げ回っているだけの様だが、なす術もないのだろうか。」
皆、やはりエメラを褒めていると共にアークのことも凄いのを見せてくれるのでは期待しているようだ。
――――
「ほら!どうしたの!?この程度で反撃もできないの!?」
エメラが煽ってくる。
「い、いえ!そのー何と言いますか・・・。」
エメラは驚いている。反撃は出来ると言っているのだ。しかし、何かできない理由があるのか困っていると言うのだ。
ファイアボールを躱しながら、チラッとベンチの方を見るアーク。
『どうした?』
『あのー。いつも通りにやってもいいのでしょうか?思いのほか弱いと言いますか何と言うか・・・。』
『大丈夫だ。問題ない。たぶん。』
テレパシーで夢叶とちょっとしたやり取りを終えるとアークは立ち止まる。そこに直撃コースでファイアボールが飛んでくる。
「やあ!」
杖をバッドのように持ち、体を素早く横にずらし、そのファイアボールを見事に打ち返したのだった。
ファイアボールは見事に空に飛んでいき、それを皆が見上げ、ポカーンと霧散するまで見ていたのだった。




