第5話 全く誤魔化せなかったよ
どうしたものか。立派な鎧だし、どこかの良い所のお嬢様だろうか。周囲には、焼けた木々が水浸しとなっている。周辺には、これほどの状態にできるほどの川や池といった所はない。魔法を使ったと言っても、おとぎ話の世界のようだし、信じて貰えないだろう。かといって、この状況をどう説明をしたらいいのか、何かしらの取り調べを受けるに決まっている。面倒だ。
(違う異世界に行ってみるか?)
しかし、このステータスプレートの永久身体強化の恩恵は非常に大きい。それに、魔法が使われていない為か、魔物も魔法を使うと倒しやすい。お手軽にレベルアップができる。
次の異世界もこうとは限らない。魔法を気兼ねなく使いたいが、自分の強さがどれほどがわからない状態ではリスクが大きい。ならば、とりあえず。
「早く答えないか。」
黒髪ポニテの少女がせかしてくる。よく見ると凛々しい顔だが、年齢は同じぐらいだろうか、この子も美少女だ。やっほい!
あ、やばい、今にも首が切れそう。血が出てる。無言で黒髪美少女が首筋に当てている剣に力をいれる。
「お、俺じゃないです。」
とりあえず、他人が倒したと押しつけて逃げるに限る。
ステータスプレートが急に今まで以上に光だし、その光が夢叶を包む。
「・・・ずいぶんとレベルが上がったようね。少年。」
少年キター。なぜだ、倒した時にレベルが上がらなかったのは疑問に思ったが、まさか遅れて上がるとは予想外である。
「なんで、今頃レベルが上がるんだ?」
聞いてみた。
「自分より上位の魔物を倒すと、経験値が大量に手に入る。その分の一気に上がったレベル分のステータスアップする為の処理に時間がかかるみたいだ。そして、サラマンダーはランクAだけど、限りなくランクSに近い魔物。それを倒したのだから低レベルから上がる量は相当なはず・・・それで?なにか言うことは?」
「仮に、俺がサラマンダーを倒したとしたら何か問題があるのか?」
「そうね。まず、王国で取り調べを行い、新人冒険者でもあるのに関わらず、ランクAの魔物を倒すのは、尋常なことでない。倒した方法及び技術の提供をしてもらう。」
「必要な時以外は、下手な事ができないように軟禁生活、ってか?」
「それは、あなた次第ね。少年。」
しばらく、沈黙が続く。
「そもそも、あなたに拒否権はない。従わぬのなら、ビギワンス王国の反逆者として対処させてもらう。」
「ビギワンス王国?」
そういえば、この世界に来て初めて国の名前を聞いた。
「まさか、今、ビギワンス領にいる人間にもかかわらずビギワンス王国を知らないなどと言うわけではあるまいな?」
「知らないが?」
クールで可愛い美少女の顔が驚きに変わる。
「やっと追い付いた。」
息を切らせながら近づいてくる3人の女達。そのうちの1人が、慌てて近づいてきた。
「ちょっと!何をやっているの!?その剣を納めなさい!」
不運にもサラマンダーと出くわし、襲われたところを助けて逃がした白髪ツインテの美少女だ。
「殿下!?・・・しかし、この者は新人冒険者にも関わらず、サラマンダーを倒したのです。油断をしては、何をされるか。」
剣はしっかりと、首筋に当てられたままだ。夢叶もいつ斬りかかられても対応できるように身体強化魔法を首筋に剣を当てられてからずっと発動している。
殿下か・・・道理で立派な鎧だったわけだ。他は、護衛といったところか。遊び半分で冒険家になりたいとか言いだしたのだろうか。
「うそ!?だって、こいつはお子様よ!?」
帰って来た“お子様“
「しかし、現に私の目の前でレベルが大幅に上がりました。それ以前にビギワンス王国を知らないのがあやし過ぎます。」
「まぁ、エリィがそう言うのなら、・・・お子様。ステータスプレートを見せなさい。」
「断る。」
「ハ!?」
殿下とやらがビックリして、目をパチクリしている。
「そんなに驚かれても困るんだが・・・自分でもまだ、ステータスプレートを見ていないし、予想以上に上がっていたら余計に何か面倒事が増えそうな気がするからさ。それに、俺はあんたを逃がしてやったというのにこの待遇はひどいんじゃないか?」
っう、という反応をする殿下とやら。
「エリィ、剣を下げなさい。」
「しかし!」
簡単には納得しない。最悪の場合、殿下の命にも関わるのだから。
「いいから、助けられてその相手をこのような扱いをしていては、王家の恥となってしまうわ。」
殿下に強く言われては仕方がない、しぶしぶといった様子で、剣を鞘に納める。首元を手でさすり、ようやく首から嫌な感触がなくなったと安堵する。
「ちょっと、ステータスプレートを見てみてもいいか?」
見ようとしてまた剣を突き付けられてはたまったものじゃない。
「構わないわ。」
了承を得て、胸ポケットのステータスプレートを取り出す。取り出す間も、エリィやその後ろにいる2人は剣をいつでも抜ける用、万全の態勢をとっている。
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名前 ユウト・オウセ
職業 冒険者
レベル 25
体力 500
力 60
防御力 40
素早さ 50
次のレベルまで 14800
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無言でステータスプレートを戻す。
「ちょっと!見せなさいよ!」
殿下が、プンプン言う。
「だが、断る!」
キリッ!
エリィの目がもの凄く鋭くなった。殿下である少女の言うことを聞かず、態度も悪いからだろう。
「エリィさん、ちょっと落ち着こう。」
言った瞬間、また、剣が首元に。あれ?冷や汗が大量に出てくる。
「貴様にその名を呼んで言いと言った覚えはない!」
何故か、もの凄く怒っている。
「いや、名前、知らないし。」
「・・・私は、エイリ・ザファース、殿下の側近、親衛隊隊長だ。以後、勝手にエリィと呼ばないように。」
睨みつけ、剣を収める。
「なぜ、呼んだら駄目なんだ?愛称みたいなものだろ?」
はぁと溜息される。
「貴様、愛称のこともわからないのか・・・。」
「正直、あだ名とか的な簡略に呼ぶやつだと思ってました。」
なぜか敬語で答える。エイリの隣の殿下が肩を落としていらっしゃる。
「愛称とは、親愛の気持を含めて呼ぶ特別の名まえだ。それを気持ちも無いのにその愛称で呼ぶということはひどい侮辱になる。今、殿下を愛称で呼べば、問答無用で貴様の首を刎ねていただろう。それ以前に、殿下を助けたという功績がなければ、私の愛称を口にした時点で刎ねている。」
結構ガチで危なかった。まだ、身体強化を解いたわけではないのにも関わらずほとんど動けなかったのだ。
確か、あの禿げのオジサンでレベルが20なんぼかだったはずだから、同等のレベルぐらいになっている今の夢叶でも動けない早さと言うことは最低でも冒険者ランクでいうとAランク以上となるだろう。Sランクかもしれない。エイリは想像以上に強いようだ。
殿下はおそらくレベル1だろう。2に上がっているかもしれないが、ラビットを倒すのに苦労していたようだし。
「それで、俺は帰っていいのか?そろそろ、冒険者試験の終了時間が迫ってきているのだが。」
気がつけば、日が傾いていたのだ。
「駄目だ、貴様には王都について来てもらう。冒険者の事は、私がギルドに申告しておいてあげる。」
えー、と内心思いつつ、エイリ相手に逃げきれるかわからない。それなりに離れていればどうにかできるだろうが、今はこの距離だ。良からぬことをすれば、ほぼ確実に殺される。などと考え、そして諦めた。
「わかったよ。大事にはしないでくれよ。」
「善処しよう。」
「話は終わったわね。それじゃあ、とりあえずステータスプレートを見せなさい。」
殿下が言ってくる。そんなに見たいのか。
「だが、断る!」
キリッとドヤ顔してみせる。
「なんでよ!私、姫なのよ!」
キーっとプンプンしている。和むなーと思いながらその様子を見ていた。
2017/11/14 微修正