第54話 シルヴィの過去
「大した話ではないんだが」と前置きをして語りだすシルヴィ。
「妾の意識が目覚めた時、いや、意識を持った時と言った方が良いだろう。その時にはすでにこの世界の神龍として自覚し、この世界の誰よりもどの生物よりも強いと自覚していた。」
目覚めたではなく意識を持った時と言い変えたのは自身が作られた生命であるということからだ。
「その場所は、奥深い森の奥でそこが住みかだとも認識していた。しばらくは何も疑問に感じずそのまま特にこれといったことはないまま過ごしてきた。何もないがゆえに娯楽か刺激が欲しくなって姿を隠して世界を飛び回っていたのだ。そしてある日、魔法使いの集団が何やら空間を開けているのを見てな。こっそりとあとからその空間に入ったのだ。」
魔法使いの集団とはマジェスト達のことだろう。
「そ、そうか。い、異世界に行っていたのか。それ・・・で、どこにもいなかったわけか。ガハッ。」
口から血を出し、喋る田中太郎。無理して喋るなよとは思いつつスルーする。
「察しの通り、マジェストの後を付いて行ってグラディオで何をするのかしばらくマジェスト達の様子を隠れて見ているとロシィが現れてな。魔法使いの集団に物ともしない圧倒的強さに憧れたのだ。」
少し照れながらそう語る。
「妾の力は当時、今の半分あるかないか程度の力しか持っていなかったのだ。ロシィの強さに憧れ、その世界の魔物を倒し周ったのだ。ロシィが分解能力を持っているのは見ていて気が付いた為、それに匹敵する力はないかと思案しながら鍛錬に明け暮れた。そこそこ強い魔物も当然いたんだがそれでも妾の方がまだまだ強さは上であったのだ。2週間ぐらいだろうか、グラディオ中の魔物が大半いなくなってな。その頃には思ったよりも早くこれだと思う力を手に入れたのだ。」
珍しく熱く語るシルヴィ。
「合成か。」
夢叶の呟きに頷くシルヴィ。そして驚きを見せる田中太郎。
「な、なんだそれは!?カハッ。」
口の中に溜まった血を吐きだす田中太郎を無視して話を進めるシルヴィ。
「妾もなんどか分解を試してみたがまるで手応えがなくてな。反対の効果なら?と試してみると手応えがあってな試しまわっていたのだ。それであの時の妾はかなり暴れ回っていてな、グラディオの世界のドラゴンもいたのだが妾に対抗できるのはロシィだけになったのだ。今振り返ってみると、不思議だがどの戦いも上手く落とし所を付けて引き分けにされていたと思ってしまう。まだまだ妾はロシィの足元にも及んでいないと感じる。」
そう物思いにふけるように倒れているロシィの方を向くとそこにいるはずのロシィの姿がない。
「ロシィ!?」
慌てて当りを見渡すシルヴィ。すると上からロシィがしがみついてきた。
「もう、可愛いなぁ。こいつぅ。」
シルヴィの頭をグリグリしながら言うロシィ。さっきまでの話を聞いていたのだろう。
「もう大丈夫なのか?」
心配の声を掛ける夢叶に親指を立てるロシィ。
「もともと回復力は高いしね。さすがに回復してもらってなかったらやばかっただろうけどね。ありがと!ユウ!」
ヒシと抱きついてくる。そんなロシィを愛おしく抱きかえす。
「すまなかったロシィ。」
90度に頭を下げるシルヴィ。
「い、いいって。操られてたんだからしょうがないよ。そんなことより続き話してよ。」
今までツンとされていたシルヴィに真剣に謝られ照れて両手をワタワタとさせる。嬉しいのやら、謝らせて申し訳ないやら何とも言えない気分になったので話の続きを促した。
実際、たいしてロシィは怒っていなかった。むしろ、なぜ攻撃されたのかの驚きの方が大きかった。今まで正面から戦いを挑み、強さを求めていたシルヴィがこんなところで不意打ちをして倒して意味があるとは思えなかったからだ。やられた理由が分かった今ではむしろシルヴィの方が可愛そうとさえ思っているほどであったがそれはシルヴィにも不快な思いをさせかねないので黙っていた。
「本当にすまない。あー、妾がグラディオの魔物をほとんど蹴散らしたあたりだったか?」
もう一度謝り、話を続けた。
「魔物の数が見る見る減るから当然途中でロシィが現れて先ほどの感じで妾は勝てなかったのだが。どうにも同じ者をずっと相手にしていると新しい発見ができなくなってきてな。ロシィとの戦いに夢中になっていたら何やら人間の社会がいつのまにやら発展していることに気が付いてロシィが。」
「暇潰しに行ってくる!」
ビシと手を上げて合の手をいれる。それにシルヴィが苦笑いしながら頷き話を続ける。
「それならば私も、ということで人の姿になれるロシィに見様見真似でなんとか人の姿になれるようになった妾も遅れて人の社会に紛れ込んだのだ。そして、たまにロシィと戦いながら過ごしているとユウ達とであったというわけだ。」
これで終わりだと手を広げた。
「と、ところで、このほ、炎を何とか、して・・・貰え・・・ない・・・だろうか。」
田中太郎が倒れながらも必死の形相で頼み込んでいる。
田中太郎の倒れている下の地面から周囲の魔力を使い、腹部に黒炎を発生させ、ひたすらに田中太郎をシルヴィの話の間燃やしていたのだ。周囲の魔力を使えるのは、田中太郎がそこまでの制御をしている余裕がないという状況だからだ。黒炎により焼かれている体はその部分が常に分解され、ないような状態になっており、回復に集中しなければ死んでしまうからだ。こうでもしなければ、田中太郎は回復魔法で元の体に戻り、再び襲ってくるだろうし、さらに周囲の魔力を無駄に使用している為、田中太郎は自身の魔力を使うしかなく自身の魔力は凄い勢いで減っていたのだ。当然、その間の痛みは当然あるが田中太郎は痛み止め的な魔法でも使用したのか声を上げていない。
「ないな。お前は俺を怒らせた。」
ビシッと指を指して言う。
「そのまま魔力が尽きて死ね。」
「そ、そんな・・・同郷の、よ、しみで・・・い、命だけは・・・。」
絶望の顔をして頼む田中太郎。
「最初はそのつもりだったさ。都の人間が操られても所詮俺にとっては赤の他人だからな。しかし、お前はロシィを殺しかけた。その時点でお前の死は確定している。さらにそれをシルヴィに仲間を手に懸けたと言う非道な行為を行った。そんなお前を許すはずがないだろ?後悔しながら死ね。」
見下し、冷たい目で言い、じりじりと体を焼いていた黒炎の威力が少し強くなったことで夢叶に田中太郎はこれ以上頼んでも無駄だと絶望した。あとは、願うしかなかった。
「・・・御助け・・・くだ・・・さい・・・い、いざ・・・な・・・みさ・・・。」
助けを求めようと声を振り絞りだしたその瞬間、田中太郎が跡形もなく消えた。




