第53話 神龍と哀れな田中太郎
まるで時が止まったような静寂な中、ロシィが倒れ血を流している。その時、一瞬何かが頭をよぎった。脳裏に誰か少女が倒れ、血を流しているようなシーンが見えた。
「くくく、あーっはっはっはっは!」
その静寂を破るかのように高らかに笑う田中太郎。
「大丈夫かロシィ!」
田中太郎の笑い声で、正気に戻り、テレポートでロシィの元まで転移して、回復魔法を発動する。
「ユウ、避け・・・!」
シルヴィの声に反応して振り返るが、ロシィの回復に集中していた為に遅れてしまう。
ガキィン!
夢叶に向けられて振り下ろされる腕だけが龍化したシルヴィの攻撃をエリィが剣で受け止めた。
「シルヴィ。一体どういうつもりだ?裏切るのか!?」
エリィが殺気を放つ。
「い、いや。わ、妾・・・」
シルヴィは動揺を隠せず、後ずさる。
「すまん。完全に油断していた。」
エリィの横に並び、シルヴィを睨みつける。
「し、信じてくれ!妾は裏切ってなど!から!?」
喋っている途中、シルヴィが後ろに飛び、城の外で体全てを龍化、白龍と化した。
「グオオオ!」
叫びと共にゴオオとブレスを放つ。咄嗟に、黒炎で護る。
「実にいい気分だ!長年どこにもいなかった俺の最高傑作、切り札である神龍がこんな所にいたのだからな!お前達はもう終わりだ!いくら1人が強かろうと、この神龍は俺と同等の力を持ち、さらに特殊な力を付与させているのだからな!俺と神龍を相手に足手まといを護りながら勝てるかな?」
クククと髪をかき上げ、勝利を確信したのか余裕の笑みである。
「やはり、裏切ったのか。何故だ!」
クソと苦い顔をするエリィ。
「大丈夫だ。俺は本気で怒っている。」
エリィの肩に手を置き、シルヴィを見る。
「くくく。怒った所でどうすることもできまい!この世界の神である俺が!この世界で!負けるわけないだろ!!殺れ!」
シルヴィに指示を出すが、シルヴィは動かない。いや、体が動き出そうとしているがそれに抗っているようだ。
「チィ。久しぶりだからか同調できていないのか?」
シルヴィが思うように動かないのを何故かと考えている田中太郎。
「あれは・・・。」
エリィが疑問に感じる。
「言っただろう。大丈夫だって。シルヴィは裏切っていない。つまり、田中太郎を殺ればいいんだ。同郷のよしみで命は助けてやろうかと思ったが、もういい。俺の仲間を傷つけた奴に遠慮はしない。殺す。」
エリィに安心しろと言いつつ、静かに田中太郎を殺すと明確に言った夢叶は今まで見たことのない冷たい口調と目をしていた。
「神である俺を殺すと言うか!やってみろ!さっきのようにはいかんぞ!」
その声にシルヴィが迫り、城ごと壊そうと腕を振り上げる。
しかし、振り下ろした腕には何も感触がなく空を切る。夢叶が瞬時にテレポートして、シルヴィと共に空に再度テレポートしたのだ。
「悪いな。すぐに終わらせる。」
シルヴィは龍となっている為、顔を抱く感じになってしまっているが、そこで優しくそう言った。
「グルル。」
言葉を出せなくなってしまっているのか、唸るような声しかでないようだ。テレポートで田中太郎の目の前に現れ、拳を振りかぶる。
咄嗟に田中太郎は腕を上げガードするが、吹き飛ばされる。吹き飛ばされた先に先回りしてさらに拳を繰り出す夢叶。まるで、どこかのバトル漫画のようにそれを繰り返し、空で白い衝撃波が起こっているようだ。
「クソがー!」
田中太郎が叫び、両手を上げ、周囲に炎魔法による爆発を起こさせる範囲攻撃を繰り出した。
当然、そのような攻撃が夢叶に当るわけもない。テレポートで範囲外に出ればいいのだが、それすらもせずにその爆発ごと田中太郎を黒炎により球状に取り囲んだ。そうした理由は簡単で、魔力からしてかなりの威力である爆発を発動させてしまうと都の被害が大きくなるからである。
爆発を黒炎で分解することでなんなく防ぎ、そのまま田中太郎に押し迫る。
「クソ!クソ!俺がこんなところで!」
聖属性で必死に攻撃をして迫る速度を遅らせるが、遅らせることしかできずじわじわと迫る様になっていた。
「死ね。」
冷たく言い放ったその言葉だが、そうすることはできなかった。
黒炎をシルヴィがブレスにより相殺したのだ。
「ククク。殺したと思ったか?残念だったな。」
ニタァと笑う田中太郎。その横を辛そうにしているシルヴィがいる。
「クリエイト。」
呟き、土を土台に作る刀。魔法により加工し、切り裂くことにさらに特化させる。そのまま無言でテレポートして先ほどまでと同様、刀を振るが、田中太郎の障壁に防がれてしまう。
「そう何度も同じ手が通用すると思うな。」
田中太郎が空中にいた為、それに近寄った夢叶も空中にいることになる。そこを横からシルヴィが田中太郎ごとブレスで飲み込む。
テレポートで避け、どこかの屋根の上に移動する。
すると上から田中太郎がドシャと屋根の上に落ちた。全身が火傷しており、かなりのダメージを受けているようだ。
さすがの夢叶もその光景に目を疑った。
「手間を掛けさせた。」
人型となったシルヴィが夢叶の横に降り立つ。
「嫌、いい。思ったより時間が掛かってすまない。」
申し訳なさそうに言う夢叶。
「そんなことは気にはしていない。それよりも私を信じてくれたことが素直に嬉しい。操られていたとはロシィを手に掛けてしまったのにも関わらず。」
悔しそうにいうシルヴィ。
「仕方がないさ。創造主に逆らうのはそうそう出来るものじゃないだろう。それにシルヴィは抗ってくれたし、あいつが作ったと言った時点で操られているとは思ったからな。それに、ロシィも無事だしお前も戻ってくれば何の問題もないさ。」
な?とシルヴィの頭をポンポンとする。
シルヴィは頭に手をやられたことに下を向き、頬を染め。
「案外、こうされるのも良い物だな。」
近くに夢叶にすら聞こえないほどの声で呟いた。
「何か?言ったか?」
「いや、なんでもない。それよりもこいつだ。」
照れ隠しで話を変えるシルヴィ。もう虫の息のような田中太郎を睨みつける。
「ああ、こいつなんでこうなったんだ?」
田中太郎を指差しシルヴィに尋ねる。
「こいつは、ユウが刀で切りつけ、障壁で受け止められた所を全力のブレスで殺れと命じてきたため、悔しいが体が勝手にそう動いてしまってな。あの時に撃てた全力のブレスを放ったのだ。」
「あー。なんだかわかった。こいつ、自分の障壁でそのままブレスを防げると思ったら防げなかったオチだろ?」
「その通りだ。」
流石のシルヴィも苦笑いするしかないようだ。
「はぁ、はぁ、し、神龍が、あ、あのタイミングであれほ、どの威力を出せるとは。」
命からがらと言った感じで会話に参加してくる田中太郎。
「妾はな。この世界とは違うところにいたのだ。」
そうして、シルヴィの過去がそれなりに語られ始めた。




