第43話 ブラックドラゴン現る
「おい!今、連絡があった。お前達の言葉は真実だった。よって、今からすぐ近くの帝国本土、帝都にて詳しい事情聴取を行う。ついてこい。」
バタンと勢いよく扉を開け、兵が入ってくる。
「それって、皇帝と会える機会ってあったりするのか?」
「会えるわけがないだろ!やはり、何か良からぬことを考えているのか!?」
駄目もとで聞いただけなのに、面倒な事に。
「口は災いの元とどこかのお偉いさんが言いました。」
ロシィがフッという顔で言う。
「いや、皇帝はどういう考えなのか直接聞いてみたいなと思っただけだ。」
「どうだかな。おい、肉壁。さっさとこいつらを連れて行くぞ。」
「わかりました。」
肉壁と呼ばれ、男2人が近づいてくる。良く見れば、ローブの中には鎧が着込まれており、腰には剣をぶら下げていないようで代わりに、盾が両腰にぶら下げられていた。
「付いて来てください。」
肉壁の言うとおりに付いて行く。小屋を出て、街道を2人の兵を先頭に、肉壁2人の主、その後ろに肉壁2人で前後を挟まれた状態で歩いて移動する。道中、一番後ろの肉壁にこっそりと尋ねてみた。
「なぁ、肉壁として一生過ごすのは満足か?」
「・・・そうですね。満足かと言われれば、満足ではないと思いますが、我々肉壁、いえ、奴隷はそれ以外の生き方を知りませんから。」
苦笑いで返してくる回答に、アース家も何か想う所があるのだろう。複雑な表情を浮かべている。
「暴力とか、理不尽な事はされていないか?」
「それは、良くされますね。ストレス解消などに良く殴られますよ。それも肉壁としての務めですから。」
大きな溜息をつく。
「じゃぁ、お前達奴隷は主がいなくなったらどうするんだ?」
「主の家族にそのまま務めるか、いなければその辺を彷徨い、運が良ければ誰かに拾われますし、拾われなければだいたい、野垂れ死ぬことが多いですね。魔物の素材も肉壁だとそう簡単には手に入れることはできませんしね。」
「・・・奴隷に忠誠心っていうのは存在するのか?」
「よほど、良い主人なら自らどんなことでもして護ろうとするでしょうが、私が見て来た限りでは、生きるために仕方なくがほとんどですね。奴隷を自分達の良いように使うのがほとんどですから、良い主人に出会うなど本当に稀なことです。」
「お前は、今の主が死ねばどうする?」
「誰かが拾ってくれるのを祈るしかないですかね。」
「主が死ぬことになんとも思わないのか?」
「複雑ですね。暴力から解放は一時的にされますが、食費すらまともにすることができなくなってしまいますから。」
今、思う所を奴隷の口から直接聞いてみた。嘘を付いているようには感じない。わかったことはやはり、奴隷の扱いは酷いと言うただ一言で終わらせられるようなことだった。あとは、主に対してあまり良いように思っていないと言うのが普通なようだ。
「・・・そうか。」
――――――――――――
帝都の入り口に着いたようだ。立派な、どこかの巨人の世界にあるような、真下から見れば、見上げても先が見えないほどの大きな防壁がある。
「・・・これが帝都の。」
「でかいですね。」
「申し訳ありません申し訳ありません。」
「ま、まぁまぁじゃないですかね。」
アース家が感激と驚きでいっぱいのようだ。
そこに、フッと急に黒い影が落ちる。すると、アース家の感動が一瞬にして防壁と共に崩れさった。
「「「「・・・」」」」
皆さん言葉にならない様子だ。
それもそのはず、ブラックドラゴンとなったロシィが、空から防壁を潰して降り立ったのである。
「脆い、脆過ぎる!」
ふうと口から煙を吐くような溜息を出す久しぶりの威厳モードのロシィ。
「ま、まさか、ブラックドラゴン!?」
兵達が驚き怯え、尻もちを付いている。
「1日だけ、猶予をやろう。帝国でも王国でのメッセージを確認したころだと思うが、王国を潰したのは、我だ。奴隷の扱い。いや、同種族でのその所業。許されざる行為である。
まずは、帝都にいる者達よ。今日中に帝都を王国側へ出ていれば見逃してやろう。ただし、奴隷契約は解除しておくことだ。あとから発見した者は、後悔してしまいたくなるような殺し方をしてやろう。・・・明日、再び来る。時間は我の気まぐれだ。今日中に決めておくことだな。」
空高く、吠えるように放つその声は、帝都以外の街、王国側、まるで世界中に聞こえるような響く声で届いたと言う。
バサっとツバサを羽ばたかせ、防壁の瓦礫を散らしながら空へと飛び立って行く。
「大変だ!本当にブラックドラゴンが来るなんて・・・」
「普通のドラゴンよりも2周りぐらい大きかったぞ!」
「ドラゴンが人の言葉を話すなんて・・・。」
兵達が騒ぎ出し、防壁が崩れたことにより、帝都の街の人々達も騒ぎが大きくなっているようだ。連行していた兵達も連行していたことを忘れ、帝都の方へと駆けて行く。それに肉壁も慌てて付いて行く。
俺達を放置していいのか・・・まぁこちらからしたらありがたいから構わないのだが。向こうはそれどころではないのだろう。王国が事実、あのブラックドラゴンに潰されているのだから。
「やー!」
「やー!」
ロシィがテレポートで帰って来て、リリィとハイタッチをする。
「お疲れ、ロシィ。悪いな。」
「いやぁー。たまにはああいうのも気分がいいね。」
頭を撫でるとニっと笑いながら答える。
帝都への道中にこっそりとロシィ達に話をしていたのだ。このまま帝都を潰すと無関係な罪のない人々や、解放しようとしている奴隷達そのものを殺してしまうからである。王都での過ちを繰り返さないようにしているのだ。
今の警告で、帝国が素直に奴隷に対する扱いを改めようとしてくれるなら一番良いがまず、ないだろう。戦力を掻き集める可能性が非常に高い。
せめて、少しでも帝都から出てくれる者達が多いことを祈るだけだ。
やるべきことは1つ。奴隷制度の変更、ただそれだけだ。
帝国が抵抗しようものなら潰す。この世界はそれほどまでに腐っている。
皆は、こんな誰でも思いつきそうな案にでも、何も言わずに二つ返事で答えてくれた。
無意味に殺してしまった人達の分までこの世界を俺なりに良くする。これが当面の目的だ。
――――――――― 見張り小屋
「待っている間、暇だし、エリィ。悪いんだが、アース家とリリィの訓練でもしておいてやってくれないか?」
「そうだな、わかった。皆、行くぞ。」
エリィの後ろに付いてリリィは手を振り、アース家は皆頭を下げて出て行く。
ついでに、見張り小屋では、ブラックドラゴンが現れて放置されたから、帝都危なさそうだし、とりあえず戻って来た。という感じで言うと、今日一日は泊らせてくれるようだ。見張りの兵もロシィの声は聞こえていたらしく、すぐに了承してくれたのだ。何気に良い人だ。奴隷以外には。
日が沈みかけたころ、帝都から家族連れの魔法使いだろうか。男女2人ローブを来てその真ん中にまだ幼い子供と男の横に額に奴隷紋が刻まれたボロボロの服を着た少年が見張り小屋に入って来た。
この辺りでは、帝都から王国側に出るとなると、この時間帯からなら遠出もできず、見張り小屋が一番安全な場所となる為、大概の人はここで一夜を過ごすだろうと思い、ここで夢叶達も一夜過ごすことにしたのだ。
「お前達、ブラックドラゴンから避難してきたのか?」
入ってきた家族連れに尋ねる。
「はい。まだ幼い我が子がいますし。とりあえず1日様子を見ようかと思いまして。」
父親が答える。
「だが、ブラックドラゴンは確か、奴隷紋は消せと言っていたはずだが?」
少し睨みつけるように訪ねる。
「ああ、高い金払ったのに、物を手放すなんて馬鹿らしいじゃないですか。そもそも、どうやって、逃げた人間が奴隷持っているのかの確認をしようがないと思うんですよ。なら、解除するだけ損でしょ?」
せっかくの効果な物を手放すわけがないだろうと言っている。
「手放さなくても同じ、人間、家族として一緒に暮らせばいいだろ?お前もそっちの方が良いだろ?」
家族の奴隷の少年に尋ねる。
「・・・私は、所詮物ですから。しょうがないですよ。ちゃんと食べることだけでもできているだけマシですよ。」
少年は、父親の方をチラっと見ると、父親が頷き、自暴自棄気味に苦笑いをしながら答えた。
「家族が大事なら、奴隷紋は解除しておいた方が良いと思うぞ。ブラックドラゴンは、そういうのが目に余るから今回の事に乗りだしたんじゃないのか?」
「ハハ、ブラックドラゴンも馬鹿なものですよ。帝国に一日の猶予を与えるなんて、王国も不意を突かれたからやられただけでしょうし、ブラックドラゴンは帰り内にあって終わりですよ。」
当然のように帝国が勝つと思っているようだ。
その後、見張り小屋がいっぱいになるほどの人がやってきたが、どれも似たような答えばかりが返って来たのだ。ブラックドラゴンは帝国に負けると。
そして、夜が明け、朝が来た。




