第36話 音を立てて崩れて行く学校生活
「平民が貴族を倒したぞ!?」
「なんだあいつらは!?」
「ライ家も落ちたものだな。」
「しかし、あの黒い炎はいったい。」
「肉壁の動きも普通じゃなかったぞ。」
「あの平民のパンチ力はなんだ?」
さまざまな声が聞こえる。
あーもうやだ。リカバー。
「ツンツン。」
ロシィが指でアオイズマの脇腹を突く。
「おい、いい加減に起きろ。」
ゲシと軽く蹴る。ぐふっと呻き起きてこちらを睨む。
「こ、こんな物は無効だ!あいつらはトップクラスの冒険者だろ!?あんな黒い炎見たこともない魔法を魔法陣も詠唱も無しに使えるなんてそれ以外ありえない!そんなのにまだ学生でもある我が勝てるわけがないだろう!」
「あ?お前馬鹿か?・・・違ったクズだったな。」
「な!?貴様!」
呆れて物言う夢叶に怒り、胸倉を掴んでくる。
「お前が言ったんだろ?己が持つ全ての力を使って相手を倒すというルールを。仮にトップクラスの冒険者だろうと何の問題があるんだ?お前は他のクラスの連中か?そいつら連れてきている。それが人脈もその力の一つという証拠だろうが。その人脈が俺の方が圧倒的に上だった、それだけだろ?」
正論を言われ、ぐうの音しか出ないようだ。
「アオイズマ。お前は自分で挑み、さらに自分で言ったルールで敗北したんだ。言い訳はできないぞ。しかも、人数は倍以上で挑み負けているならなおさらだ。」
マルクス先生が言う。
「しかし、我の奴隷を渡すなど・・・どれだけの資金を掛けたと思っているのだ!」
「知るか。それもお前が言いだしたことだろ。」
バッサリと切り捨てる。
「諦めろ、それ以上は、ライ家の名を汚すことになりかねないぞ。」
「く、くそぅ。」
目に涙を溜め、腕を捲って奴隷紋を差し出す。
・・・どうしろと?
「何をしている?奴隷紋を貴様に渡すのだ。早くしないか。」
「いや、別にいらないんだけど。」
「なんだと!?」
周囲がざわつく。
「奴隷紋はいらないんだけど、解除はしてくれ。」
「・・・・・・・それでいいのか?」
少し考え、訪ねてくる。その顔が悪い顔になっているのを隠せていない。
「ああ、ただし、再びあいつらを奴隷にするとかほざいたら次は、殺すよ?」
「フン、奴隷に恵まれているだけの平民が何を言っている。その時死ぬのは貴様だ。」
「・・・なるほど。つまり、お前は今、この場は解除して、また後で捕まえて奴隷にすると宣言したわけだ。」
「奴隷が奴隷から解放されたからと言って奴隷に行くところがあるわけないだろ!行く当て、生きるすべが他にないから奴隷になる以外の選択がないのだ!物として救ってやっているだけありがたいと思ってほしい所だね!そんな物をどうしようが関係ないだろうが!それ以前に、貴族である我に使われるのだ!むしろ本望だろう?」
無言で顔面を殴り、アオイズマを地面に叩き伏せる。
「お、おい!ユウト!決闘は終わってダメくんは起動していないんだぞ!」
「だから?」
マルクス先生の制止を聞かず、アオイズマを見下ろす。
「き、貴様・・・我に屈辱を与えたことを後悔させてくれる。」
「そんなことはどうでもいい。さっさと解除しろ。」
「な!?」
冷たい目線に怯むアオイズマ。
「アオイズマ。とりあえず、早く解除した方がいい。平和的に終わらせるのにはそれが一番だと思うぞ。」
「・・・くそが。もういい!!お前ら!こいつらを始末しろ!!」
どうあってもアオイズマは奴隷紋を解除しないみたいだ。おまけに始末しろときた。
「「「「あああ!!」」」」
奴隷達が悲鳴を上げる。
奴隷紋による契約で自由を拘束され、主による命令に刃向うと激痛が起こる。
「貴様ら!命令に刃向うのか!」
「ロシィ、頼む。」
本来、奴隷紋の契約解除には本人がやる必要がある。しかし、ロシィには固有能力、分解がある。奴隷紋を黒炎で分解消滅させることにより強制的に解除することができるのだ。当然、奴隷紋は腕に付いているから腕を焼くことになる。
ただ今回夢叶は、知らずにそれを言ったのだ。ロシィが解除の方法を知っているだろうと思い。
「燃しちゃうことになるけど、いいんだよね?」
「燃す?」
「うん、黒炎で。」
「あー。そういうことか・・・。まぁ、こんなクズにはいいお灸だろう。」
分解能力ついては、秘密にしてもらっている。普通、分解能力など持っていないためだ。ばれれば、狙われたりと面倒が多くなりかねない。そこで、黒炎=分解という風にしている。黒炎は時折、闇属性の炎ということで使うからさほど問題ないんじゃね?ということだ。実際、早くも使ったし。
「な、何をする気だ!?」
「あ、動かないでくださいね?首、刎ねますよ?」
リリィが笑顔で首元に剣を突きつける。それで固まったアオイズマの腕を掴み、ロシィが黒炎で奴隷紋を燃やし、消滅させていく。4つあった為、結構な範囲が薄くだが、抉られるたような傷ができた。黒炎は焼くではなく、滅する、消滅だ。その部分が消滅してしまったのだ。
「※×○□!?!?」
声にならない悲鳴を上げ、あまりの痛みに気絶してしまった。
「なんだ・・・何をしたんだ!?ユウト!」
マルクス先生が尋ねる。
「奴隷紋を強制的に消しただけだが?」
「ありえない・・・普通、腕を切り落とされても奴隷紋は魂同士で繋がっているから、体の違う所に再び現れるはずだ。それを消すだなんて・・・いったい何者なんだ?」
つまり、分解・消滅で魂との繋がりを消したということである。
マルクス先生が驚愕している。観客席からもざわめきが聞こえる。
やっちまった。騒ぎになりかねない。リカバー。
「えー、君達ももう自由だし、今後は実家にでも帰ってゆっくり過ごすといい。」
元奴隷達に向かって平静を装いつつ、話を変える。
「アオイズマ様の扱いには本当に辛く、開放していただき本当にありがたいのですが、しかし、アオイズマ様が言った通り、私達には行く当てがありません。」
困った表情をする4人。
夢叶も困った顔をする。
「うーん。さすがに、4人も養うほど余裕はないしなぁ。」
この世界の人間にこの4人を預けるとほぼ確実に同じことになりそうだし、やはり面倒をみるしかないか?奴隷ハーレムとか目指してないんだが・・・。
「えっと、とりあえずお前達は何ができるんだ?」
「「肉壁です。」」
「「魔法補佐です。」」
きっぱりと返答してきた。
「うん、わからん。」
「俺もさっぱりわからん。さっきのはやはり闇属性の魔法か?」
マルクス先生が詰め寄ってくる。話の内容が違うだろ。
「肉壁ってやめないか?ただ、接近されたら護る為の剣士だろ?」
マルクス先生を・・・いや、こいつも奴隷を物とかにしか考えていないアオイズマと同じだ。マルクスを無視して肉壁っていう響きが嫌だから提案してみる。
「しかし、剣士というのは貴族しかなれませんし。」
元奴隷の男の肉壁だった者が言う。
「んな馬鹿な・・・。くそ、この世界は無駄に面倒だな。」
どうしたものか・・・
(この世界・・・だと!?)
マルクスが反応する。
「まぁ、いい。とりあえず、肉壁って単語は使わないでくれ。気分が悪くなる。」
「「「「わかりました。」」」」
4人が返事する。
「んで、魔法補佐は見た限り、巻物を掲げているだけだったんだけど、それしかできないのか?」
苦笑いしながら尋ねる。
「いえ、魔法陣か杖があれば初級魔法なら使えます。」
「私達2人は、上位属性である氷を得意としています。」
魔法補佐の2人が答える。
「まぁ、自分より強くすると自分の威厳がなくなるとか格好が付かないとかでまともな鍛錬をさせてもらえなかったとかそういうところか。」
「はい、アオイズマ様が鍛錬している様子を常に見てきましたのでそれでなんとか、初級魔法は使えるようになりました。」
「その、アオイズマ様ってのもやめよう。もうお前達は奴隷でもなんでもないんだからさ。」
半分呆れ気味に言う。
「申し訳ありません。そうですね。この人には、今まで衣食住を与えられて恩は確かにありますが、それ以上の暴力をされてきましたからね。様なんて付けるのは、なんだか馬鹿馬鹿しいですよね。」
「ああ、こんなクズに様付けは勿体ない。」
「おい、君。君がこの者達の主だろ?」
学生の者達とは違った装飾が多く入った紺のローブを来た中年の男性がやって来た。
「誰?あんた?」
「私は、マドニクス・ハリー。国家魔法使いをしている。貴族ではないが、これでもこの国のトップの位置に値する立場だ。」
手を広げ、私は凄いんだぞと体全体で表してきているかのような動きだ。
国家魔法使いの登場に会場がさらにざわめき立つ。
「んで、その国家魔法使いさんは俺に何かようなの・・・んですか?」
一応念の為言葉使いを改めてみる。
「はっはっは。別にそのままの喋り方で構わんよ。そういう鬱陶しいのが嫌で、爵位を与えられると言われても断っているのだからな。」
貴族よりは、話ができそうだ。
「それで、だ。そこの奴隷2人をこの私、国家魔法使いの肉壁と魔法補佐を買いとらせていただこうと思ってな。無論、拒否権はない。」
ああ、俺の平和な学校生活が音を立てて崩れて行く。それでも、許せないことはある。こいつは、マルクスと同じだ。いや、権力を持っている分、たちが悪い。しかも、フル活用してきやがる。
「・・・お前は、今!何のための決闘をしたのか分かっているのか!?」
声を少し荒げてしまう。
「無論だ。奴隷を掛けた決闘だろう?君は、アオイズマ君が気に食わないから奴隷を奪いたかった。しかし、自分には優秀な奴隷がすでにいる。だから、アオイズマ君から奴隷を奪った所で、奴隷はこれ以上必要もないし養うほど裕福でもない。しかし、またアオイズマ君や他の誰かに取られる者気に食わないから何とか養おうと話しあっている。そうだろ?」
何、さも当然合っているだろうみたいな態度してやがるんだ。
「だから、私がそこの2人を買い取れば解決する。そこの奴隷4人が数年は遊んで暮らせるほどの金貨は払ってやろう。それぐらいの金はある。なんなら、君も私といつでも話をできるように融通効くように取り計らっても構わない。何せ国家魔法使いだからな。」
「親父!こいつは俺の生徒だ!俺にも買い取らせてくれよ!」
マルクスが自分も欲しいと言い出す。
「ならぬ、あの奴隷は、国家防衛強化に繋がる物だ。そんな物をお前の私物にさせては何にもならん!」
親子でロシィとリリィをどちらが買い取るかで言い合っている。
「ロシィ、リリィ、俺、もうそろそろ駄目だわ。」
「だよねー。」
「うん、私もそろそろ限界。」
「ユウ殿。」
「ユウ。」
会場で見ていたのだろう、シルヴィとエリィが寄ってくる。
「いつでもやって構わないぞ。」
「ああ、さすがに私も限界だ。」
全員の許可は得た。あとは、いつ解放するかだ。
「おっと、すまない。そうわけで、早速こちらに引き渡してもらいたいのだが。」
親子の話が付いたのか、どういうわけか知らないが渡せときた。
「・・・当然、拒否だが?なぜ、お前のような奴に俺の仲間を渡さなくちゃいけないんだ?」
「何が問題なんだい?君は、金が入るし、奴隷の数が倍になる。さらには、国家魔法使いである私といつでも話せる権利を得るのだぞ?本来なら私と話すのに何日も待つ必要があるのだがそれがないのだ。なんと凄い権利なのか。」
凄いだろうと自分を象徴する。
「何も凄くないし、そんな権利欠片も欲しくないんだが?それに、数とかの問題じゃない。こいつらだって、1人の人間だ。それを物として扱っているお前らが俺は許せない。その矛先が俺の仲間に向いているから尚更だ。」
そうだそうだとロシィが拳を上へ上げ、解放された元奴隷達も含め、他の仲間達は静かにマドニクスを睨みながら頷く。
「許せないから何だと言うのだね。言っただろう?拒否権はないと。私に刃向うと言うことは国家反逆罪となるがそれでも構わないのかね?それを破格の待遇を用意してやったというのに、愚かな平民だ。」
やれやれと大げさに手を広げ肩を落とす。
「破格の待遇なら、静かに学校に通わせてくれることだよ。それもクソ貴族とお前のせいで台無しになったがな。国家魔法使いとやらに声を掛けられたらそれだけで注目されるだろうからな。」
「光栄なことだろう。何が不満なのか私にはさっぱりわからないな。それよりも早く渡しなさい。本当に国家反逆罪とみなすぞ。」
「そうか、平和的に済ませたかったのだが仕方ないな。言っておく、俺らに手を出すなら死ぬ気で来い。」
「く、くはははは!!」
「クククク。」
「あはははは!」
「わーっはははっはっは!」
ハリー親子を含め、会場全ての人間が笑いを上げた。
笑いに少し恥を掻いたような気分になるが、リカバーしながら同時ないように振る舞う。
「何がおかしい。」
「おかしいも何も、私に対して死ぬ気で来いと!?そう言うのか君は!?まるで私に勝てるかのような物言いじゃないか!これが笑わずにいられるかと思うか?ククク。」
腹を堪え笑いっている。
「全くだ。ユウトよ。親父は、この国で最強の魔法使いだから国家魔法使いとなっているんだぞ。それを魔力値18のお前なんかが勝てるわけないだろ?」
クククと笑い膝をつく。
「マ、マルクスよ、そう笑うな。奴隷とはいえ、あの2人はなかなかにできる物だ。もしかしたら、もしかしたりするかもしれん。ククク。いいだろう、ならば決闘をしようじゃないか。」
笑いを堪えながら手を広げ生ぬるいことを言い出す。
「決闘?フン。断る。」
再び会場が笑いで包まれる。
「クハハ。やはり、負けるとわかっているのに決闘はしないか!当然だな。しかし、もう貴様に特別待遇なんてやらないぞ。」
「何か、勘違いしているようだが、決闘なんて生ぬるいことはしないと言っているんだ。お前は、お前らは俺が最も嫌いとするタイプの人間だ。万死に値する。」
「まさかとは思うが、それは殺し合いをするということだぞ。・・・そうか、君はあの物を渡すぐらいなら死んだ方がマシだとそういうことか。わかった、いいぞ。華々しく散らしてやろう!」
手を花が咲くように広げる。
「いつにする。杖も持って来ていないようだし、明日にするか?一週間後でもいいぞ?ん?」
目を開きニヤニヤと見てくる。
「今からに決まっているだろ。このクズ共が。」
「クク、ハーハッハッハ。君は自分の物を過信しすぎだ。いくら強かろうとあの程度で私に敵うと思っているのかね。例え、闇属性だろうと私は聖属性だ。なんの問題もないんだぞ。」
再び、大声で笑う。鬱陶しいことこの上ない。そして、手を広げるの大好きだなこの国家魔法使い。
「もう、目障り過ぎだ。行くぞ。」
限界に来たため、動き出す。
「おっと、エアーボム。」
無詠唱で放つ、小さな風の爆弾。炸裂するとともにその周辺に暴風が起こり、それを利用してマドニクスはふわりと距離を取る。暴風に巻き込まれた、マルクスとアオイズマは不意の事に吹き飛ばされ、元奴隷4人はロシィが吹き飛ばされるのを極薄の黒炎で護る。無詠唱で吹き飛ばすほどの魔法を放つとはこの世界ではかなりの実力になるだろう。最強も伊達ではないと言うことだろう。
「っしゃー!鬱陶し話終わったー!!出番だ!ぶっ殺す!」
ロシィがない袖を捲る動きをして前出てくる。それを手を上げて夢叶が制止する。
「ほぅ?自ら死ににくるか?物を使えば可能性はあるのかも知れんぞ?」
マドニクスが顎に手を添えニィっとしている。
「あー。ちみ達。端っこまで言ってようね。」
「そうだね。あれは、駄目だね。」
「駄目だな。」
「うむ。」
「え?え?」と困惑している元奴隷4人の背中をロシィ達が押しながら会場端による。
「本当に、1人で来る気か。いいだろう。痛みなく散らしてやろう!」
マドニクスがローブをバサッとして手を広げる。




