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異世界召喚されないので、行ってみた。  作者: 手那
第1章 魔法が使われていない世界
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エピソード0

小さな頃から人とは違う物を感じていた。

最初は霊感だと思っていた。しかし、そんな幽霊など見えたことがない。


気が付いたのは、中学二年の頃だった。

その頃にはすでに不治の病、中二病を患わせており、オタクだった。その原因の一つとでも言うべき生活、家庭がめちゃくちゃだった。

家族を省みない父親によるDV、不倫、典型的といっていい最悪な家庭環境であった。

母親がDVに合う姿を見ない為、部屋に引き籠ったり、何も用がないのに出歩いて極力、家にいないようにしていた。出歩いても特にやることはなく、結局いつも古本屋で立ち読みをする毎日。漫画に夢中になっているこの時間が唯一の心休まる時であった。

そして、時間はかかったがなんとか離婚することができた。別れる気のない父親から離れるために慰謝料も取れなかったみたいだ。

それでも母親は、俺だけは独り立ちできるまではと必死で働き育ててくれた。

 そんな母親を守ろうとすることすらできず、外で漫画の世界へ逃げていた罪悪感が消えることはなかったが、今は中学二年。あと2年で高校生だ。そうしたらアルバイトして少しでも母親の負担を減らすことができる。その時はそう思っていた。


しかし、古本屋に入り浸っていた結果、オタクとなってしまったのが原因なのか、家庭事情もあって元々暗い性格だったのが災いしたのか、よく虐められていた。せめて、母親には迷惑、心配はかけまいとなんとか誤魔化してきた。今思えば、母親は察しがついていたが気がつかない振りをしていただけなのかもしれない。



そしてある日、意識がなくなるほど、河川敷の橋の下で3人から暴行を受けたことがあった。意識が途切れそうになった時、暴行をしていた奴らの体が突如燃えだした。火を消そうと転げまわったり、川に飛び込んだりと、苦しんでいる姿が目に映るが、意識はそのまま閉じていった。



目が覚めたのは、知らない天井。病院だった。

体を起こそうとするが、激痛が起こり、とてもではないが、体を起こす気にはなれなかった。周りには誰もいない。何が起こったのか、思い返してみる。


「おい、面かせや。」

 放課後、いつものように柄の悪い連中3人組みに呼び出される。いつものように河川敷の橋の下。いつもは、鞄を裏にして盾にして、1人ずつミット打ちのように殴られているだけだった。鞄を表にすると、殴る側は留め具などに当たって痛いのだ。もし、表でガードしてしまい、その留め具に当たってしまえば、残り2人からも殴られる始末。だが、裏にすることによって殴る側は、その部分に当たらないが、盾にする側にその留め具が当たり、逆にこっちが痛くなる。かといって、直に殴られるよりかは、ないよりはマシだ。

 しかし、この日は虫の居所が悪かったのか、鞄を奪われ、3人から容赦のない暴行が加えられたのだ。1人に後ろから抱えられ、サンドバックにされた。まともに立つことができないようになってしまえば、そのまま倒れかかっている所の横腹を思いっきり蹴り飛ばされそのまま殴る蹴るの嵐だ。抵抗することもできず、憎しみが溢れてきた。

(なぜ、こんなクソみたいなやつらに、何もしていないのにこんなことされなければならないんだ。もう、死んでくれよ。みんな燃えて苦しんで死んでしまえばいい。)

本気でそう思った。その直後、3人が燃えあがったのだ。そして、そのまま意識がなくなった。


(意識がなくなるあの時の感覚はなんだ。急に眠気が来たんだ。まだ、耐えられる自信はあったのに。てか、あれだけ殴られてまだ耐えられるって俺も大概殴られるのになれてしまっているってどうなんだ?いいのやら悪いのやら。)

 自分にツッコミを入れながら自分の回想に満足していた。

(あの眠気・・・?いや脱力と言ってもいい感じ、あれは何だ・・・。んー順番的にあいつらが燃えてから脱力か・・・?)

 ッハ!?と、そのことに気がついた時、まさかと思った。興奮が収まらない感じだった。 だが、その興奮もすぐに収まってしまった。


夢叶ゆうと!良かった。大丈夫?」

 母親が涙を浮かべながら抱きついてきた。

「母さん、痛いよ。」

「あー。ごめんね。体の調子はどう?」

「動かしたら痛いけど、特にこれといっては別にないと思う。」

 安堵する母親。


(・・・そういえば、あいつらはどうなったんだろう。まぁ、どうでもいいか。早く治して、母さんを安心させたい。あと漫画読みたい。)


―――次の日


「不思議ではありますが、明日にでも退院していただいても大丈夫です。」

 再検査結果の医者の言葉に安堵する母親。

「運ばれて来た時は、最低でも数週間は安静にしとかないといけない状態だったのですが、もうほとんど治りかけています。お子さんの回復力は大したものだ。」

 そう言いながら、俺の頭をポンポンする医者。


「良かったわね、夢叶。大したことなくて。」

「うん、そうだね。」

 病室に戻り、明日の退院の為に最低限の物だけ残して片付ける母親に対し、横になり答える夢叶。体はもう動くから片づけを手伝おうと思ったが病人なんだからと止められた。


 この回復力には心当たりがある。いや、これは回復力というより、回復したのだ。そう、よくファンタジー世界にある回復魔法だ。使ったのは当然、俺、夢叶だ。

 そう、回想した時に気付いた興奮は、俺が魔法を使えると気付いたからだ。小さな頃から感じていた霊感だと思っていた物はマナだったのだ。実際、魔法を使う度に今まで感じていた物に、これまで変化がなかった物に動きがあったのだから。それ以上に、なぜか、目が覚めてからより明確に感じるようになり、どう使えばいいか、感覚でわかるのだ。しかし、実際に見えないものだし、感覚的なことだから詳しくはこれ以上なにも言えない。


 昨日、眼が覚め、検査をして、母親が仕事に向かったあと、少し、魔法が本当に使えるかやってみた。その時は、病院を火事にしてしまっては駄目だから、ベッドからコップに水を生み出したり、飛ばし入れることができるか試してみたところ、最初は上手くいかなく、手からちびちび~っと出る程度だったが、何回かやると、コップに水を入れることができた。ついでに、周囲には幸い人がいなかった。大きな病室にベッドが6つあったけど、他の人は検査か散歩かわからないが、その時は1人だった。あと、練習で水浸しになった床とベッドは盛大に水をこぼしてしまったと誤魔化した。・・・誤魔化せたと思う。オネショとかって思われていないだろうか・・・きっと大丈夫。


 そして今日、病室で退院する為に最後の荷物を母親と片付けていたら1人の刑事が来た。夢叶に暴行をしてきた3人の事を聞きに来たのだ。2人は、火傷の痕が酷く、命には幸い問題ないが、火傷の痕は残るだろうとのことで、現在も近くの病院で入院中だという。


「なぜ、3人に急に火が付いて、燃えたのか覚えていないかね?」

 刑事が訪ねてくる。しかも、その目は、こちらが火を点けたと決めつけているような威圧的な目だった。


「い、いえ。僕はその3人に殴られたりして、そのまま意識がなくなったみたいで、3人がそのようなことになっていたとは知りませんでした。」

 その時は、自分の意思でやった自覚はなかったが、今は火の魔法を使ったという感覚はある。だが、そんなことを言っては不利になるだけだから当然喋らない。


「嘘を付くな!暴行を受けた仕返しにやったんだろう!?」

「刑事さん!この子はずっと虐められてきたんですよ!それなのに、この子がやったなんて、あんまりです!」

 やはり、母さんは虐められていたことに気付いていたんだ。


「あの河川敷周辺には燃えるものなんて一切なかった。ならば、人為的に起こすしかないのですよ。お母さん。それに、普段虐められていたならば、なおさらお子さんがやった可能性が高くなる。普段の怨みをここぞとばかりに犯行に及んだのでしょう。そして、自分は暴行されたと完全な被害者ぶっていればよい。そういうことだろう?往世おうせ夢叶君。」


「そ、そんな!?・・・証拠。証拠はあるんですか!?」

「川下でガソリンが入った容器が見つかっています。」

「う・・・嘘よね?嘘よね!?夢叶!!」

 悲しみが混ざった声で肩を掴み呼びかける。

「僕は、やっていません。」

 きっぱりと、刑事の目を見てキッパリと言い切った。


「それに、さっきから気になっていたのですが、その3人が僕に暴行をしてきたことに対して認めておきながら何も御咎めなしですか?」

 おかしな話だ。暴行され仕返しをしたということは刑事も3人が暴行したと認めているのに、こっちだけが悪いような言い方だ。


「夢叶君。容器からは君の指紋が出ているんだ。言い逃れはできないよ。」

「そんな!?それはきっと誰か僕がやったようにするための罠だ!そもそも、お金もないし、僕にそんなガソリン入手することなんてできない!」

 暴行の話をすり替え、こちらに罪があり、3人の事に触れさせないようにしてくる。


「・・・お母さん、ご自宅で知らないうちにお金がなくなっていたりしませんでしたか?」

 諦めが悪い奴だとめんどくさそうに言う刑事。その言葉に思い当たる所があったのか、

「そういえば、運ばれたと聞いた日に、何かあった時の為にととっておいたお金がなくなっていた・・・まさか!?」

 ハッっとした顔でこちらを見る。その顔を向けられて思わず、目に涙が溜まる。

(なんで・・・母さん。なんで母さんまでそんな目で俺を見るんだ。)

 母親の目は、もはや、息子を見る目ではなく、まるで化物を見るような・・・いや、飢えた目をしていた。


「・・・刑事さんって3人の内の誰かの父親なんですか?」

 少し、憎しみを持った目で刑事を見る。明らかに、3人には何も罪がないように言うからには身内なのだろうと思った。


「そうだ、だから、私は必死で犯人が誰か調べたさ。必死で調べた結果が今のこの状態だということだよ。そして、どうしてもその犯人に聞きたいことがあったのだよ・・・。」

 憎しみが入った目で睨みつけられ、胸倉を掴まれる。


「私の息子をどこへやった!!勇太ゆうただけが見つからないんだ!あとの二人も川の中に飛び込むのは見たと言っていたが、どこにもいないんだ!お前がどこかにやったのだろ!!」

 涙ながらに叫ぶ刑事。勇太とは、俺を虐めていた主犯格の遊部あそべ 勇太の事だろう。


「もう2日たっているんだぞ!あの子は火傷も負っているはずなんだ。悠長なことをしていては取り返しの付かないことになる!さあ!早く吐け!」

 肩を大きく揺さぶられ、その形相に竦み、何も答えられずにいた。


「クソッ。まぁ、良い。せめてもの情けだ、今すぐに自首をしろ。家族の事件には関われないからな、俺の独断で行動している。自首しなければ、今の内容を伝えれば、独断でした事とはいえ、お前にそれなりの操作が掛かり、直ぐに逮捕となるだろう。少しでも罪を軽くしたいのなら、少しでも悪いと思っているのなら自首をしろ。出なければ、俺は・・・抑えきれる自信がない」

 少し落ち着いたのか・・・いや無理やり落ち着かせたのだろう。拳が血が滲む程の力強く握られていた。

「夢叶、お願い。本当の事を話して。」

 

遊部の人を見下す目。誰かのせいにしなければ狂ってしまいそうなその表情。そして、母親の目。もう、味方をしてくれるような目ではなくなってしまっていた。

そして、察してしまった。

 恐らく、売られてしまったのだ。実の母親に。肉体的にも精神的にももう、俺を育てるのに限界だったのだろう。


いくら息子でも、大火傷させられて、行方不明になったとしても、その犯人の母親に金を払ってまで、犯人にでっち上げてまで捕まえようとは思わないだろう。ただ、犯人が誰か決めないと頭がおかしくなってしまうのだろう。一番可能性の高い夢叶を犯人でなくとも犯人として作り上げることができれば、おそらく、適当に約束はなかったことにされて終わりだろう。だけど、俺という重荷がなくなれば、少しでも楽になるだろうとそう信じて、自首を決意して病室から出た瞬間・・・

「さぁ、お金を、あなたの言うとおりにしたのだから!」

「※×□※×□※×□※×□」

 刑事の声は、何を言っているのか聞き取れない。

「どういうことよ!?約束したじゃない!!」

信じていた母親の縋りつくような声が、聞こえてきた。せめて、俺の耳に届かない所で言ってくれよ。わかってはいたけど、さすがにきついな・・・。

・・・声はなんとか出なかったが、涙が止まらなかった。





―――――――――――


 やることがなかった。牢生活。自分の時間では、見つからないようにひたすら魔法の特訓を繰り返した。余裕があれば筋トレもずっとしていた。することがなく、いつか漫画で見た異世界召喚で呼ばれないかなーと妄想していた。俺には、魔法が使えるんだ。勇者として呼ばれてもいいのでは?と思うが、俺犯罪者じゃん・・・と肩を落とす。こうなったら、自分から異世界に行ってやる!

異世界。おそらく、空間魔法・転移魔法を使えば行けるはず。なぜか、なんとなくそれらの魔法がわかる。しかし、知識とは別に技術が付いてこない。しかし、なんどか試すうちに使う感覚がすぐにわかり、着々と習得していく。


―――――――――――――――18歳になった。


「さらばだ。地球よ。」

 ッフと、カッコよく去ろうとする。刑務所の中である。囚人服である。

 母親にも売られ、世間からしても犯罪者であるこの地球にいても今後、普通の人よりも苦労があるに決まっている。異世界に行けるであろう能力があるのにわざわざ地球にいる必要がない。という理由で地球を去るのだ。


「っぁ。その前に最後に練習も兼ねて母さんに別れの挨拶をしておくか。一応世話になったし。」

 家の自分の部屋をイメージする。

「我が家へと顕現せよ、テレポート。」

 ありきたりな詠唱と魔法名を言う。その瞬間、我が家の自分の部屋にいた。細かな物は処分されているようだが、家具とかはそのままのようだ。

「うっし!」

 思わず、声に出してガッツポーズ。牢屋の中の、目と鼻の先へのテレポートはあるが、実は目の届かない所へのテレポートは、初めて使ったのだ。脱獄成功だ。どうやって抜け出たのかなんて絶対わからないだろう。


 魔法を使うには、イメージが必要で、明確なほどマナを効率よく使用でき、消費するマナを減らすことができる。口に出さずにでも魔法を使うことはできるが、詠唱、使う魔法に関する言葉、魔法名を口に出して言うことにより、イメージをしやすく、明確にしやすくなるというだけである。


「しかし、ほとんど変わらないな。」

 さすがにこまめな掃除はしていないのか、埃が積もっているが、配置とかはそのままだ。

母親が息子を売ってしまったせめてもの償いで部屋は残してくれていたのだろうか。そうだったらいいなという願望でもあるが、少し嬉しく暖かな気持ちになり、涙がジワリと出てきた。

しかし、そんな気持ちは一瞬で消え去ってしまった。

母親に会おうと、部屋を出た瞬間、異臭・・・何か腐ったかのような臭い鼻をついた。

リビングに入ると、変わり果てた天井からぶら下がっている母親の姿があった。数か月は経っているのだろう。異臭を放ち、虫が飛び交い、直視できない姿となっている。それでも、信じられずに近くによるとすぐそばの机の上に手紙があった。遺書と書かれた手紙が。



もう、こんな人生絶えられない。さようなら。

夢叶・・・護ってあげることができなくてごめんなさい。見捨ててしまってごめんなさい。バカなお母さんを許して。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい



短い文に、残りの余白を埋め尽くすようにごめんなさいという言葉をぎっしりと詰まっていた。

 息子を売った挙句、騙され、息子を売ってしまった罪悪感で押しつぶされそうになりながら生きていたが、数か月前に限界が来てしまったのだろう。天井から下ろし、床に寝かせ、手を組ませる。知りうるできる限りの身なりを整え、手を合わせ、冥福を祈る。


自分の部屋に戻り、しばらくして、落ち着いた所で気持ちを切り替え、とりあえず、いつまでも囚人服でいるわけにもいかない。何か、服を探す。さすがに中2の時の服は入らない。親の部屋に入ると、男物の着られる物が何着かあった。父親の物だろうか?

最終的に、黒のカッターシャツに、赤いTシャツ、黒のデニムパンツ、黒のスニーカーと全体的に黒を基調とした服装となった。


さて、とりあえず、異世界に行ってみるか!

「空間を、次元を、世界を超越せよ。開け、異世界への門!ゲート!」

 それっぽい詠唱でイメージをし、できる限り次元が近い異世界をイメージする。飛距離によって消費するマナが違うのだ。できる限り、初めての事なのでリスクは減らした。マナが枯渇して魔法が使えず、異世界に渡った瞬間、モンスターと遭遇とかしたら死んでしまいかねないからね。

 光の細長い、人1人が潜れそうな穴が現れる。顔を出し、覗いてみる。

そこには、地球には存在しないだろうというような広大な大地が広がっており、THE FANTASYという感じだ。成功だ。マナの残りも余裕がある感じだ。

「さようなら、母さん。」

 母親を最後に見て、ゲートに入る。


気持ちを切り替えて行こう。



さあ!冒険の始まりだ!


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