転生者と核兵器
加護や異世界の知識を振りかざし、世界に大きな変革をもたらす転生者達。彼等の生き様は神話として、伝説として、伝承、伝記として人々の間に語り継がれていく。
むかしむかしあるところに、邪な王様が治める国がありました。気に入りらない人がいるとすぐ処刑してしまう、それなりに残虐な人物でしたが、野望と謀略の渦巻く城内を生き抜く才能に秀でていたため、その地位を奪おうとする試みはことごとく失敗に終わっていました。
王様が治める王都に神の寵愛を受けし1人の転生者がいました。彼は職人でした。『ゲンダイニホン』の知識や『カガクギジュツ』を用いて便利な道具を創りつつ、2人の奥さんと幼馴染、妹、5人の可愛い子供達に囲まれて、幸せに暮らしていました。
ある日、横縞な…もとい邪な王様は職人に強力な兵器を作らせることを思いつきました。彼が作った兵器を使えば、他国を退け自国の領土を拡大できるでしょう。王様は職人を説得しました。しかし、職人は日本の常識に囚われたヘタレ…もとい平和を愛する人物だったため、その依頼を断りました。
王様が行うであろう大量虐殺は、彼の信念に反するだろうと思ったからです。
王様は依頼が断られることを予想していたので、予め職人の家族を惨殺しておきました。家にたどり着いた職人が目にしたのは、真っ赤に塗りつぶされたわりと凄惨な光景でした。
あまりの光景に絶望と自責を感じた職人は、生きる気力を失ってしまいました。瞳からプルキンエ像を失い操り人形となった哀れな職人は、邪な王様に言われるがままに強力な兵器を生産しました。職人の兵器はその世界に存在するどんな武器よりも強力で、対抗できる国などありません。王国はみるみるうちに領土を拡大していきました。
自分の意思を失い言いなりになっていた職人ですが、王様への復讐心だけは心の奥底に持っていました。職人は、王様の命令をこなす一方で、密かに復讐の準備を進めていました。彼の前世の知識にある最強の兵器を、今世の魔導技術を用いて改良し、造っていたのです。それは、彼の前世ですら実戦投入されたことのない最凶最悪の兵器となっていました。
王様の凱旋パーティーがあったある日、ついに職人は兵器を完成させました。パーティーは夜を徹して行われ、その間職人は兵器の最終調整を行いました。パーティーが終わり夜も白み始めた頃、ようやく調整が終了しました。職人は亡くなった家族への手向けにスイッチを押しました。
スイッチを押した瞬間、暖かく白い光が職人を優しく包み込み、彼の意識は途切れました。爆発は非常に小さく、多くの人は何かが起きたことに気がついてすらいませんでした。しかし、もう既に賽は投げられていました。
最初に異変に気がついたのは見回りの兵士達でした。彼等は爆発によって焼け焦げた実験室と職人の遺体を発見しました。しかし、彼の自殺が何をもたらしたのか、気がついた者はいませんでした。
数日後、城の住人達が血を吐いて次々に倒れていきました。しかし、原因が誰にも判らず謎の病と言う他ありませんでした。医者にもなす術がなく、彼等は次々に亡くなっていきました。邪な王様やその家族も例外ではなく、終には職人の復讐は果たされました。
被害は城内に留まらず、城下町へ広がっていきました。1ヶ月もすると、行方不明の知人を探しに城へ乗り込む者、逃げ出そうと試みる者、錯綜する情報とデマで、王都は大混乱に陥りました。さらに、遺体は供養しないと、条件次第でアンデッド化しますから、城内でも埋葬されなかった者達が次々と魔物へと変化し、混乱に拍車をかけました。
原因を探ろうとする人もいました。原因が呪いであると考え、祓おうとする人もいました。しかし、全ては手遅れでした。
こうして王様を失った王国は滅び、王都の場所も今ではわからなくなってしまいました。しかし、無人となって、魔物が闊歩する王城は、今もどこかで人を拒み続けていることでしょう。
拙作を読んで下さりありがとうございます。以下ちょっとした解説。
中性子爆弾:
王都を滅ぼした爆弾は中性子爆弾というタイプの核兵器をモデルにしている。最近他人事じゃないから困る。
放射線とゾンビ化の組み合わせはホラーかもしれない。
プルキンエ像:
プルキンエ‐サンソン鏡像とも。よくイラストなどで目に描き込まれるハイライトや光点の(たぶん)正式名称。