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リュウレイの誓い  作者: ミニトマト
終章 ともしびの先へ

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終章(169)

 鍛冶師の村に夕闇が訪れようとしている、例年にないほどの盛り上がりを見せた収穫祭も後半に突入してリュウレイたちは昨日、この村へと戻ってきた。ふもとの町で過ごした数日はとても楽しいものであった。


 子供たちとともに街の出店を回って見たり、大陸の遥か南方に住まうアルディマの民による軽業、大道芸などを観覧したりと文字通り息をつく暇もないほどの見所があった。


 そして、暇を見つけては相棒のリュウフォンや妹分のカンショウとともに姉のリュウシュンが営む露店を手伝ったりした。


 特に出来たお菓子を運んで空を翔けるリュウフォンと彼女の加護を得てそれを手伝う二人の子供ラグセリオとシラルトリオの姿は人目を引いて大好評を博した。


「お店を手伝うのって楽しいね!」


「僕もお母さんの跡を継いで商人になるんだ!」


 喜び合う二人の姿を見て笑顔を見せるナルタセオと、我関せずとばかりに酒を飲むラセルエリオ。対照的な母親たちの姿がそこにはあった。


 一方で村の子供たちとも大いに打ち解けたのはレイアス家の子供たちであった。その中心となったのは以前から収穫祭でのお披露目に向けて準備を着々と進めてきたリュウサンたち。


 どうせなら一緒にやったらどうかと幼馴染のリホウが呼び掛けたこともあり、村についてからは大人の手を借りずに自分たちだけで集まって何事かを話し合い、練習に励む姿が目撃された。


 そして今、鍛冶師の村の工房近くに新たに建設された迎賓館の大広間の舞台上でほぼ満員に近い貴族諸侯や近隣の村人たちの目の前でリュウオウ、リュウサンをはじめとする子供たちが緊張した面持ちで立っていた。


 舞台下の両側には思い思いに着飾った村の子供たちがそろい、花を添えている。リュウレイやリュウフォン達は子供たちの不安を和らげるためにすぐそばに付き添っていたが、壇上にいるのは文字通り、リュウ家の子供ばかり。


 若干の懸念気がかりはあるものの、普段はおとなしいリュウオウもこの時ばかりは前を見据えて堂々とした姿を見せている。その隣にいる妹のリュウサンは早くお披露目が始まれと言わんばかりに待ち遠しさをこらえきれずにいるのが遠めからでもよく分かった。


「それでは、お待たせしました。我らが姫巫女様ご子息のお披露目会をこれから始めたいと思います! それではどうぞ!!」


 司会役の若手貴族が声を振るい、会場を盛り上げる。それを聞いた子供たちは一人一人前に進み出て自分の名を名乗り、かわいらしく挨拶していく。


 リュウオウは名乗るとともに周囲に幻想的な炎の演武を披露して最後の妹リュウサンの登場に花を添える。会場には日替わりで招かれた貴族たちが来場することになっており、その都度お披露目会は開催されることになっている。


 特に炎の王の後継者と目されるリュウオウには多くの観客から盛大な歓声が上がった。あわよくば王家との関係を持とうと考える貴族たちの反応は当然といったところか。


 そして、後ろに下がった兄リュウオウに代わり満を持して登場したのはちび姫ことリュウサンであった。この日のためにお抱えの仕立て師に頼んで作ってもらった衣装を身に着けたリュウサンは確かにほかの子供たちとは一線を画する存在感を放っていた。


 その華々しい登場に会場は静まり返る、そんな場内を静かに美和増したリュウサンは甲高い声で自らの名乗りを上げる。


「よくぞ、ここに集まった皆の者――! わらわこそが姫巫女リュウメイシャンが一子、リュウサンなのじゃ、見知り置くがよい――!!!」


「「「「ハハ――――!!」」」」


 方々から声が上がり、会場にいた人々はみな一様に首を垂れて敬意を表する。リュウサンの背後にいた子供たちはみんな顔を見合わせて、一斉に動き出した。


「それじゃ、行くよ……せ――のッ!!」


「今こそ修行の成果を見せる時なのじゃ――!!」


 リュウサンの得意気な叫び声を合図にその背後から眩い光が差し込める。それは会場内を照らし、やがては外の世界全てを白く染め上げていった――。



 … … …



「おお、これはなんとすごい!」


「これほどの力を目の当たりにするのは初めてのことだ!」


「やはり我らが神の加護を得た炎の御子は健在であったか!」


 レゾニア貴族たちは頼もしい力を目の前に口々に感想を言い合っている。しかし、本来なら一瞬で消えるはずの光はその後もずっとその明るさを保ったままであった。


「……また消えないな」


「炎の精がずっと活性化しっぱなしだね。どうするんだろ?」


 リュウレイとリュウフォンが首をかしげていると、壇上から悲痛なリュウサンの泣き声が聞こえてきた。


「一人の時はうまくいったのにみんなが気合入れすぎたからまた消せなくなったのじゃ――!!」


「僕が消してあげるから大丈夫だよ、落ち着いてサン」


 リュウオウの呼びかけに答えた炎の精が落ち着きを取り戻すと同様に周囲は普段の明るさを取り戻していた。肝心な場面での失敗に落ち込んでいたリュウサンであったが多くの人を前にすぐに自分を取り戻して、これからも変わらぬ支援を呼び掛けて終わった。


「まあ、あの年であそこまでできれば立派なものだよ。リュウサンも成長したんだな」


 こちらに降りてくるリュウオウ達に手を振りながら、リュウレイはひそかにそう呟いたのだった。



 … … …



 それから迎賓館での懇談会が始まり、人々は思い思いの場に集まり話に花を咲かせている。そんな楽し気な人々をしばし眺めていたリュウレイは、一人工房の方へと歩いてゆく。その普段とは違う様子に気が付いた妹分のカンショウはそのあとについていった。


「こんな時に工房へ何しに行くつもりなんだろう、リュウレイ姐さん」


 暇を見つけて姉貴分たちを探していた彼女は、首を傾げつつ足早に去るリュウレイを追いかけてゆく。たどり着いたそこは工房裏手にある長い廊下、その先にある客間の一室であった。


 わずかに開いたその先には腰をかがめて何かを寝台の下から取り出すリュウレイの姿がある。彼女の前には衣装掛けが一つ用意されていた。


 手慣れた手つきで取り出した衣装を掛けてゆくリュウレイ、それは村の女性たちが祭りの時などに纏う色鮮やかな女物の装束であった。


 針と糸を取り出したリュウレイはほぼ完成した装束に最後の一針を入れていく。そのあまりに見事な手つきにカンショウは思わず声をかけていた。


「こんなところで何をしているんですか、リュウレイ姐さん」


「後をつけてたのはやっぱりカンショウだったか、見ての通りだよ」


 こちらに背を向けたまま、入念に出来栄えを確かめていくリュウレイ。その衣装はどう見てもリュウレイ自身のものではないらしい。近づいて、衣装をよく確かめてみるカンショウ。


 他の人より幾分大きめに余裕を持たせてある胸元を見て、無意識のうちに自分の胸を抑えたカンショウはたどり着いた結論を口にする。


「これ、誰がどう見ても思いっきりリュウフォン姐さん専用ですよね?」


「そうだ、そしてこれを私が縫うのは今年で二度目になる――」


 リュウレイは語る、去年の今頃相棒のリュウフォンを驚かせようとして秘かに仕事の合間を見ては少しずつ、収穫祭用の装束を仕上げていったことを。当日に披露して彼女を驚かせようとしたリュウレイの努力は空しく水泡に帰した。


 なぜなら……。


 長布一枚を身に纏うリュウフォンを強引にそして鮮やかな手つきで無垢な姿に変えたリュウレイはさらに達人級の手並みであっさりと完成した装束を着せてしまった。腰帯を結んでいざ、背鏡に映る相棒を見た瞬間全ての苦労は報われた。


 少なくともリュウレイ自身はそう思った。しかし、当の本人は何かを耐えるように固く目をつぶったままだった。


「おい、大丈夫か? リュウフォン……」


 心配したリュウレイが声をかけた次の瞬間、目を見開いた彼女は鋭く叫んでいた。


「やっぱり……ッ! いやッッ!!!!」


 内側から鋭い風の刃が走り抜け、せっかくの衣装は弾け飛び巻き添えを食ったリュウレイもひん剥かれてしまった。しかし、その時の光景はリュウレイの脳裏にしっかりと克明に刻まれることになる。


 衣装の下から現れた震えるリュウフォンの見事な胸元、その白い素肌を垣間見た時の感動がその後のリュウレイを大きく狂わせていったのだと――。


 それを聞いたカンショウは呆然としながら、ある結論にたどり着く。


 ――この人、最初から狂ってるよね……。


 しかし、リュウフォンもさるもの。今年は昨年のこともあり、警戒度は並大抵のものではあるまい。


「だからこうして、あいつのいない場所で衣装を仕上げていたんだ。まあ、空しいことだけどさ……」


「私絶対に協力しませんからね」


「ああ、それはいいさ。もう役には立ってくれたからな――」


 カンショウの言葉と裏腹にリュウレイは素早く動き、扉の先にいた人物の手を取り部屋の中に引き入れる。それは言うまでもなくリュウレイたちを探しに来たリュウフォンであった。


「ちょ、ちょっと離してよ、リュウレイ!!」


 羽交い絞めにされたリュウフォンが抵抗する中、ほくそ笑むのはリュウレイの方だ。


「ふふふ、寂しがり屋のフォンなら私とカンショウがこっちに来た時点で後をついてくるとわかっていたぜ……さあて、お愉しみと行こうか!!」


「自分だけでやってくださいね、本当にこの人は……!」


 巻き添えを警戒するカンショウが距離を取る中、リュウレイはまたしても去年以上に鮮やかな手つきでリュウフォンを裸にしてその上から完成したばかりの衣装を着せてしまった。


「もう、服を着るのは嫌なのに……」


「へ――、でもよく似にあってますね、フォン姐さん。なんだかすごく新鮮――」


 その姿を見たカンショウが思わず見とれてしまう出来栄えであった。それを見たリュウレイは鼻高々といった様子。


「ふふん、これに懲りたら少しは人間らしい服装を心掛けてもらいたいもんだな、フォン!!」


「――でも私やっぱり、いやッ!!」


「!!」


 狭い室内に吹き荒れる風の刃、その中で生まれたままの姿を晒すリュウレイたち三人はどこか間の抜けた様子であった。


「……結局私たち、いつもこんな感じですよね」


「――いいんじゃないか、これもリュウフォンの晴れ姿を拝めた代償ってことさ」


「もう、リュウレイ嫌い――」


 とか言いつつ、その大きな胸元でリュウレイとカンショウを包み込んでくれるのは優しいリュウフォン。


 彼女たちの楽しい日々はこうして続いていくのだ――。



 … … …



 その頃、夜の闇に包まれた古の街道を村に向かい、白馬に跨った緑髪の女性が進んでいた。南の山を貫き鍛冶師の村へと続く灰の隧道を抜けた彼女は中原を抜けて遥か西方の地から帰還したばかりであった。


「予定より、すっかり遅くなったな……。みんな待ってくれているといいけど」


 激しく響く馬蹄を耳にしながら、ひたすら夜の森の中を駆け抜ける。その先には懐かしい村の風景が広がっていた。


「ああ、とうとう戻ってきた。みんなは元気かな、リュウレイやエルカオネ……リュウフォン。それにメイシャンやアルスフェロー、それにリュウ家や村の人たちも!」


 女性は、愛馬の背をやさしくなでてこれまでの労をねぎらうとともに村の中央へと進んでゆく。その先には楽し気な人々の声があふれていた。



 … … …



 これからも彼女たちの日々は続いてゆくのだろう、つらい時も悲しい時も喜ばしい時も全て受け止めながら、生きていく。


 それが鍛冶師リュウレイの選んだ道なのだから――。


長かったリュウレイの誓いもこれでおしまいとなります。

ここまで書き続けられたのは自分でも奇跡だと感じています。

全てはここまでお付き合いいただいた皆さんのおかげです。

ありがとうございました。


リュウレイたちのお話はまだ続いていきますが、

今後のことは未定です。

またどこかで見かけることがあったらその時はよろしくお願いします。


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