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リュウレイの誓い  作者: ミニトマト
終章 ともしびの先へ

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終章(15)

「それじゃ、リュウレイの独り立ちを祝って……乾杯!」


「「「「乾杯――!!」」」」


 午前中で今日の仕事を切り上げた工房の食堂には村の人々が集まり、リュウ家の跡取り娘、リュウレイの晴れ姿を一目見ようとごった返していた。彼らの視線の先には家族とともに独り立ちの儀を終えたリュウレイが晴れ晴れとした表情で杯を手に誇らしげな姿を見せていた。


 師匠でもあり、普段から人一倍世話になっている親方リコウの音戸の下、大きな酒樽からこぼれんばかりの酒を注いだ杯を持った人々は大きな歓声とともにそれを一気に飲み干してゆく。


 中原の騒乱をよそに、この五年間順調復興を遂げた北の地の豊かさを象徴するかのように、リュウレイの義姉リュウシュンを中心とした女衆が作り上げた魅力的な料理の数々が食卓を飾り、人々は思い思いに食事を楽しんでいた。


「いやあ、あの小さかったリュウレイがこんなに立派になるとはねえ。時がたつのは早いもんだ。これからも頑張れよ、応援しているからな!」


「うん、ありがとうテイヘイさん! これからもいろいろ教えてもらうと思うけどその時はよろしく!」


「ああ、任せておけ! これでもまだまだ俺は現役のつもりだからな!」


 リュウレイの前に立つ五十絡みの男の名はテイヘイ、この村で鍛冶師と農業を兼業している。リュウゲンに近い年齢の数少ない熟練した鍛冶師であり、リュウレイとリュウシュンには畑作をはじめ、この村での生活面において多大な影響を与えた人でもある。


 一方で、家族が娘ばかりだった彼は全員がふもとの町やその周辺に嫁いでしまい、現在は末の娘が家族とともにこの村に戻り、その旦那はテイヘイの跡を継ぐべく工房に勤めている。


 テイヘイは特に手先が器用で、細工物などを作らせたらこの村で右に出るものはないくらいの名人でもあった。故にリュウレイが手掛ける柄ごしらえ用の細工や商人組合に卸している銀細工などでもたびたび彼から助言を受けている。


 気が強いリュウメイをなだめ、ほかの若衆たちを叱咤するテイヘイは村人からの信頼も厚い。そんな彼にも認められたリュウレイは得意満面であった。


「リュウレイ姐さん、今日は機嫌がいいですよね――」


「そりゃそうだよ、普段はみんなから白い目で見られることが多いからね。こんな時くらいちゃんとしてもらわないと、私の立場が無いよ」


 二人揃って甘い果実酒を楽しむリュウフォンとカンショウ。特にリュウレイはリュウフォンのことを自分の嫁と公言するだけあって、村人たちからも二人の仲の良さは評判に上るほどだ。


 故に調子に乗ってリュウレイが怒られたりすると人知れず、頭を下げて回るのもリュウフォンの役目であったりするのだ。人受けのいいリュウフォンならではといったところではあるが、我慢にも限界がある。


 時々、爆発するとリュウレイは彼女の機嫌を取るためにありとあらゆる手段を尽くす。そんな相棒の熱心でけなげな謝罪に彼女を嫌い切れないリュウフォンもいつものように最後には許してしまうのだ。


 リュウレイとリュウフォンは自分たちの間には切っても切れない絆があると自負している。それゆえに、家族以上の結びつきを常に求めあったりもするのだ。


 ――リュウレイもこれで少しは落ち着いてくれるといいんだけど。


 逆に落ち着きすぎても面白くないし、けれどおだてればすぐに逆戻りしてしまう彼女の極端さはやはり義母リュウメイの破天荒な人生が大きな影響を与えているのだろうと思う。


 義姉の姫長メイシャンの言う通り、リュウレイは元気すぎる方がちょうどいいのかもしれない。


 そんなことを思いながら、リュウレイを見守るリュウフォン達の方に工房の先輩たちがやってきた。彼らは既に顔がほのかに赤く色づいて上機嫌の様子だった。


「おお、こんなところにいたのか、二人とも!どうだ、楽しんでいるか?」


「あ、はい! 私も気楽にやらせてもらっています!!」


「この宴会はリュウレイの祝いと一緒にカンショウの歓迎会も兼ねているからな、精々楽しんでくれよ!」


「はい、ありがとうございます!」


 律儀なカンショウはわざわざ立ち上がって何度も深くお辞儀をしている。そんなやり取りを見ながらリュウフォンは笑顔を浮かべながら男たちの方を警戒していた。正直言って、この村の男たちの癖の悪さを一番理解しているからだ。


 今も長い布地を一枚巻き付けただけの目を見張るようなリュウフォンの姿を横目でちらちらと盗み見ている。リュウレイが一緒にいてくれないといつもこれだ。


 そんな欲望剥き出しの旦那たちを村の女衆が黙ってみているはずがない。抑えがなければどこまでも飛んでいくどうしようもない連中なのだ、北の鍛冶師という存在は。


「あんたたち、いつまで若い娘に見とれているんだい!?」


「い、いや俺たちはただかわいい後輩を励ましてだな……」


「その割に、リュウフォンのそばから離れようとしてないのはどういうわけだい?」


 食堂で働く女たちも厨房の方から顔を出して、自分の旦那たちを威嚇する。こうなると素直に引き下がるしか手はない、おそらく今夜はどこの家庭も嵐が吹き荒れることであろう。


「みんな、ありがとうね――」


 笑顔のリュウフォンが女衆に礼を言うと彼女たちは首を振ってこたえた。


「男なんてみんなあんなものだよ! 言ったって聞きやしないんだから、だからいつも最後にはとっちめてやらなきゃ気が済まなくなるんだよ!! また今度何かあったら、すぐに言うんだよ!」


「うん、わかった――。その時はよろしくね――」


 普段から村の女衆とは仲が良く、また子供たちの面倒をよく見てくれるリュウフォンの存在は女たちからも重宝されていた。特に女の子たちは空を飛ぶ力を持つリュウフォンへのあこがれも強くよくなついているくらいだ。


 去っていく女衆に手を振るリュウフォンを見ていたカンショウが尊敬のまなざしで彼女を見るのも無理はない。


「すごいですね、リュウフォン姐さん。やっぱりフォン姐さんじゃないと、こうはいきませんよね」


「あはは、カンショウも気を付けないとだめだよ――。男はしっかり手綱を握っておかないとだめだからね――」


 結婚なんてまだ先の話で、どんなものなのかカンショウには想像もつかない。ただ幸せな家庭を築きたいと願うばかりだ。だがどんなことにもそれを実現するための努力が必要になるということはこの村に来て目の当たりにしたことだ。


 特に姉弟子のリュウレイが独り立ちという自分の夢を実現したのはまだこの道に足を踏み入れて間もないのカンショウにとっては大きな刺激となったのは言うまでもない。


 ――私もリュウレイ姐さんみたいに頑張らなきゃ、せっかくこの村で修業することができるんだから!


 北の鍛冶師たちを束ねる名人リュウゲンとその娘リュウメイ。そして彼らの跡を継ぐ鍛冶師リュウレイ。これから修業を積んでいくうえで、カンショウは恵まれた環境にいるといっても過言ではない。


 今日という日を忘れずに頑張ろうと改めて心に誓う彼女の前に村人へのあいさつを終えたリュウレイがやってきた。


「あ――、疲れた! あいさつ回りっていうのも結構くたびれるものだな、みんなお祝いしてくれるのはいいけどそのあとの飲み食いの方が本番だから大変だったよ」


 そう言って笑うリュウレイにリュウフォンとカンショウは顔を見合わせると笑顔で独り立ちを祝福する言葉を継げる。


「今日はおめでとう、わざわざ禁足地まで付き合った甲斐があったっていうものだよ。これからも頑張ってね!」


「おめでとうございます、リュウレイ姐さん! 私もいつか姐さんみたいに立派な鍛冶師になって見せます! 今日は私ももううれしくって……涙が出てきちゃった――」


「おいおい、大丈夫か? 気持ちはうれしいけど、あまり無理はするなよ。心配するからな」


 途中で泣き出したカンショウを慰めるリュウレイ、そんな二人を傍らで見つめるリュウフォン。


 仲のいい三人のやり取りを周囲の人々はほほえましく見守っていた。


「あ、お姉ちゃんあそこにいたよ!」


 小さな子供の声にリュウレイたちがそちらを振り向くと村の子供たち十数人が集まってこちらにかけてくるのが見えた。


「「「お姉ちゃ――ん!!!」」」


 元気のいい声をともにこちらに来る子供たちをリュウレイは笑顔で迎えていた。


「お、みんなも来てくれたのか、みんないい子だな――!」


「「「わ――――!!」」」


 食堂に響き渡る子供たちの歓声。次の瞬間、想像もしない出来事がリュウレイを襲い、打ちのめす。彼女の絶望はここから始まるのだった――。


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