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リュウレイの誓い  作者: ミニトマト
終章 ともしびの先へ

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終章(9)

 リュウレイたちが禁足地から戻って数日が過ぎた。その間は仕事に追われて忙しく過ぎていくことになった。見習いだったカンショウも工房周りの清掃や道具の手入れから始まり先輩鍛冶師たちの手伝いを仕込まれることになり、文字通り息をつく暇もない。


 加えて、姉貴分リュウレイが禁足地で打ち上げた二本の剣の仕上げを見学させてもらいながら、その技を見て学んだりついでにリュウレイが内職として行っている銀細工の新たな図面の作成を一部担当したりと、なかなか充実した時間を過ごしていた。


 しかし、その分の疲労も強く毎朝の遠駆けもあり、空いた時間は自然と仮眠や休息に充てることが増えていた。


「くぅ――――……」


 食堂の片隅にある長椅子を占領して、静かな寝息を立てているのは仕事終わりのカンショウだ。親方や先輩たちは既に今日の仕事を終えて、家路につくなり、村の共同浴場で汗を流すなりしていることだろう。以前はリュウレイがやっていた工房の後片付けと明日の準備を手伝うようになってからというもの、もう一人の姉貴分リュウフォンが迎えに来るまでのわずかな時間をこうして眠る癖がついていた。


「カンショウも大分お疲れのようだね、それだけ頑張っている証拠かな」


 その心地よい寝顔をそばで見守りながら、白い衣を纏う緑髪緑眼の少女リュウフォンがほほえんでいる。その横では、リュウフォンの義理の姉でありリュウレイの実姉でもある食堂の主リュウシュンがいて、同じようにカンショウを見守っていた。


「そうね、この子以前より全然ご飯の進み具合が違うのよ。禁足地に行ってからなんだか、別人みたいに逞しくなったしね。リュウレイの独り立ちを見届けたことがいい刺激になったんじゃないかしら。でも、まじめだから頑張りすぎないように私たちが気を付けてあげないとね」


「うん、そうだね。今日もアルスのところに遊びに行ったら、みんなカンショウのことを心配していたから。実はね、今日はカンショウをリュウ家に誘うつもりなんだよ。メイシャンもそろそろうちに遊びに連れてきたらどうだって話していたしね」


「あら、そうなの。なら、うちのお店の売れ残りでよければ、焼き菓子をもっていかない?あなたの好きな果実酒も在庫があるし、またリュウレイにツケておいてあげるわ」


「ありがとう――! だからリュウシュンのこと大好きだよ!」


「あらあら、フォンったら子供みたいにはしゃいで……」


 ふわりと浮かび上がったリュウフォンはリュウシュンの提案に思わず歓喜の声を上げて彼女に抱き着いた。まだまだ現金なリュウフォンの姿にさすがのリュウシュンも苦笑いするしかなかった。


 そこに喜びもあらわにしたリュウレイが飛び込んできた。彼女は両手を高く掲げると大声で叫ぶ。


「いよぉし! 今月分の銀細工、なんとか納品完了!! これで少しは懐に余裕が出てきたぜ!!!」


 今まで商人組合の買取担当と水際の攻防を繰り広げていたリュウレイは念願の買取基準を勝ち取ったことに大いに満足しているようだ。またお金絡みの話題にリュウフォン達が無言で見つめていると、長椅子に眠っていたカンショウが突然起き上がって声を上げた。


「はい! カンショウはまだ戦えます、リュウレイ姐さん!!!」


「何寝ぼけているんだ、こいつ? まあいいや、起きたならさっさと風呂行って一日の疲れを癒そうぜ。今日は私も少し金持ちだからな。好きなものを奢ってやるぞ!」


「さすがリュウレイ姐さんですね、あと朝の遠駆けをもう少しだけ手加減してもらえると私はうれしいです!」


 まだ寝ぼけ眼で、思っていることが口に出ちているカンショウをリュウレイを含めた三人は見て笑いを堪えるのに必死であった。リュウフォン達から事情を聴いたリュウレイは直立不動で、舟をこぎ出したカンショウの前に腰を下ろして声をかける。


「ほら、疲れているなら私が風呂場までおぶってやるから方につかまれ」


 リュウレイの誘いにカンショウは無言でうなずくと、甘えるようにその背に乗りまたすぐに寝息を立ててしまった。


「こいつも疲れているな――、けど寝て起きた時の体力回復を見てると流石は炎の眷属って感じがするけどな」


「それでも女の子なんだし、まだまだあなたやほかの人たちに比べれば体力に劣るんだからちゃんとその辺は考えてあげてね。姉姫様もあなたやこの子には期待しているだから」


 すっかりがさつでぶっきらぼうになってしまった妹リュウレイにため息交じりにリュウシュンが呟く。当のリュウレイはそんなことはお構いなしに笑っていた。


「心配しすぎも却ってよくないぜ、何せこいつは私と同じで鍛冶師を目指しているんだ。少しくらいの無理無謀は当たり前なんだよ。おまけに義母さんが付いているからな……!」


「リュウメイ、カンショウとリュウレイには特に厳しいもんね。まあ、それが修行だから仕方ないんだけど」


 リュウレイの隣にならび宙に浮かぶリュウフォンもやれやれと首を振っていた。


「まあ、いいわ。その辺はあなたに任せるしかないし、私が口出しすべきことじゃない。それより、お金が入ったなら支払いの方はよろしくね。うちの方にもツケがたまっているし」


「ハハハ、好きにしろよ! 精々貸し倒れしないように気を付けるんだな!!」


 いつも通り、お金絡みの対立を見せる姉と妹。リュウフォンが険悪な両者をどうなだめたものかと思案に暮れているとその時リュウレイの背にいたカンショウが寝言を口にした。


「姐さん、うるさいですよ……、早くお風呂行って私を可愛がってください……」


 そのかわいらしい呟きに周囲にいた三人には気まずい空気が流れる。


「ま、まあカンショウもああいっていることだし、早く連れて行ってあげなさい。その間にお菓子とかはリュウ家に届けておいてあげるから!」


 そう言ってリュウシュンは慌ただしく厨房の奥へ引っ込んでしまった。あとに残されたリュウレイたちは顔を見合わせた後、いつも通りに共同浴場へと足を向けることにした。


「いやぁ、なんか思いっきり誤解されたみたいだな……」


「誤解でも何でもないでしょ、さすがにあれは気まずかったけど……」


 ため息をついて村のあぜ道を進むリュウレイの頬にそっと口付けする風の乙女リュウフォン。夕暮れの空を軽やかに舞う歌姫の姿を目に宿し、リュウレイはようやく一日の終わりを実感するのだった――。


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