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リュウレイの誓い  作者: ミニトマト
リュウレイの誓い~後編~

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鍛冶師リュウレイ(97)

「自らの志を成し遂げたようだな、リュウレイ。見事だぞ」


 泣きじゃくるリュウフォンとカンショウ、自分の胸に顔を埋める二人を抱きしめていたリュウレイに向かい古の精霊セファルナの賛辞が届いた。柄にもなく、自分のために泣いてくれたリュウフォン達からもらい泣きしていたリュウレイもまた、目を潤ませながらセファルナに向かい大きくうなずく。


 ――どうにか自分の望む真打を完成させることができた。これもいろんな人たちの力添えあってのことだ。みんな、ありがとう――。


 リュウレイの視線の先には、自分の技術と思いのすべてを込めて打ち上げた真打がある。それはリュウレイが今まで打ち上げた中で一番の出来といっていい。仕上げや研ぎがまだ残っているものの、失われた鉄を求めてこの禁足地まで来たことは決して無駄ではなかった。


 今はっきりと自覚する、これからが鍛冶師としての人生の始まりなのだと――。


 宴の席で、村長が言っていた言葉がある。人生とは長い旅路のようなもの、その先に終わりはないのだ。


 ――やってやるさ、私の旅はまだ始まったばかりなんだ。それにこいつらとならどんなことでも乗り越えていける……。


 腕の中にある二つのぬくもりを感じ、リュウレイは瞳を閉じる。この瞬間を迎えるために過ごした日々を思い出し、リュウフォン達を抱きしめる両腕にも再び力が籠る。


 リュウレイが目的達成の感動に打ち震えていることを知ったリュウフォン達は涙をぬぐい、彼女を見上げる。


 ――どんな時も私たちは一緒だよ、リュウレイ。


 ――何があろうと、この手離しませんからね、リュウレイ姐さん!


 二人の思いに応えるように、リュウレイはただ力強くその手を握りしめていた――。



 … … …



「さて、目的を達成した喜びに震えるはそこまでにしてもらおうか――」


 怜悧な声がリュウレイたちの耳朶を打ったのはその時だった。それはどこかとても澄んでいてどこまでも突き刺すような鋭さを内に秘めていた。


「セファルナ様……」


 顔を上げたリュウレイの先には赤く燃え上がる炎を背にした古の精霊セファルナの姿があった。先ほど聞いた声と同様に彼女は鋭い視線をリュウレイたちに向けている。そこには先ほどまでの温かみなどどこにもなく、敵対するものを焼き尽くさんばかりの激情がうずまいているようでもあった。


「鍛冶師リュウレイ、並びに連れの者たちよ。既に目的を成し遂げたお前たちがこの禁足地にとどまる理由はなくなった。速やかに自分たちの住む地へと戻るがいい、ここは我が同志と末裔たちが築き上げた聖地。お前たち風情がいつまでも留まっていいところではない!」


 彼女の言葉と同様に荒れ狂う炎の渦はリュウレイたちの周囲を満たし、まるでこちらを飲み込まんほどの勢いだ。怯えたカンショウがリュウレイの手を強く握りしめる中、リュウレイはただセファルナを見つめ、その言葉の真意を探ろうと努めていた。


 リュウフォンもまた、リュウレイと同様にその意を図りかねているようだ。


 それはまるで炎神の社にて、姫長メイシャンが南麓の青の民を試した時を思わせる。リュウレイたちの強い視線を受け止めたセファルナとにらみ合うことしばし。


 やがて彼女は笑みを漏らし、視界を満たしていた炎は祭器の器に収まるほどに小さくなった。


「と、言いたいところだが今日一日くらいならば休息をとることを許そう。お前たちも丸二日睡眠を取らねば、つらいだろうからな」


「えっ!? それ本当ですか??」


 それを聞いたカンショウが目を見開いて、驚きの声を上げた。あまりに間の抜けた妹分の反応にリュウレイとリュウフォンは思わず顔を見合わせる。


「やっぱり気づいてなかったか」


「リュウレイがあまりにも集中していたから、私もそれに気づいたのはついさっきだけどね……」


 そう言って力なく笑うリュウフォンのお腹がぐうとなったのはほんの偶然だろうか?


「フォン姐さんお腹空いたんですか?」


 恥ずかしそうにお腹を押さえるリュウフォンにカンショウが問いかける。


「そういうカンショウはどうなのかな?」


「私は……あまり自覚がないですね……お腹空いているのかな?」


 自分でも空腹を図りかねるのか、カンショウは首をかしげていた。二人のやり取りに笑いを浮かべたリュウレイは祭壇の上に置いてあった裏打ちを手に取ると、二人を促し地上を目指すことにした。


「二人とも、自覚はなくても疲れているに決まっている。私も時間の感覚があやふやだし、とりあえず外に出て最後の食材を使いきって飯にしよう。そのあとはセファルナ様の言うように体を休めればいいさ」


「それもそうだね……」


「……今になって、お腹空いてきました……」


 リュウレイの言葉に頷いた二人を伴い、リュウレイは改めてセファルナに向き直り独り立ちの儀を完遂した礼とその助力に感謝の意を伝えた。


「鍛冶師リュウメイが義娘、鍛冶師リュウレイ。ここに古の精霊にして偉大なる先達セファルナ様に深く深く感謝するものであります。わが命続く限り、そして我が子孫が続く限りこのご恩は決して忘れません。遥かなる炎神の末裔に栄えあらんことを!」


「ふっ、口上だけは立派だな。リュウレイよ! だがそれでよい、それでこそ私も力を貸した甲斐があるというもの。胸を張って村に戻り、精進を重ねるがよい。お前が後世に名を遺す鍛冶師となることを期待しよう」


 セファルナの言葉にリュウレイは深くうなずいてから満面の笑みを浮かべてそれに答えた。


 同じく顔を上げたリュウフォン達も嬉しそうに笑っている。


「それじゃ、行くか!」


 リュウレイが声をかけるとリュウフォンがふわりと浮かび上がり、リュウレイたちの方を振り返った。


「うん、行こう! 私お腹ペコペコだし!!」


 リュウフォンの笑顔にカンショウも笑顔でうなずいてそのあとを追いかける。リュウレイは二人を追いかけるように歩みだす。彼女たちの背をセファルナは目を細めて見送っていた。


 ――気持ちの良いものたちだ、こんな気分になったのは久しぶりだ。


 そう心の中でつぶやいた彼女は自分の本体が宿る炎の祭器を振り返り、そっとつぶやく。


「変化の時が訪れたのかもしれぬ、私にも。そして、この地にも……」


 瞳を閉じた彼女の胸に去来するものは遥かな昔、この地に人々が暮らしていたころの懐かしき情景。それから長き時が過ぎて、今は人のすまぬ地となった禁足地の風景がよみがえる。


 ――あの者たちに賭けてみるか……。


 誰にも届かぬつぶやきを残し、精霊セファルナと祭器の炎は消え去っていた――。

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