鍛冶師リュウレイ(53)
食事を終えたリュウレイたち三人が連れ立ってまた、鍛冶師の村の奥に広がる鎮守の森に向かうことを知ったリュウシュンはあまり無理はしないように言っていた。それから少なくとも義姉や自分たちの出発に間に合うように戻るようにと付け加える。
「三人とも明日は私も義姉さんもいないから、しっかり準備するようにね。これはあまりものだけど良かったら食べてね」
そう言ってリュウシュンはいつもより少し大きめの包みをよこした。それを受け取ったカンショウはありがとうございますと元気よく答えていた。
「それじゃ、行こうか。そんなに遅くならないようにな」
――さっきのことはその道すがらで教える。リュウレイの顔がそう言っているようにカンショウには思えた。
リュウシュンと別れ、工房の外に出た三人。その時、リュウフォンが声を上げる。
「どうせだから、大樹まで跳んじゃおうか?」
「たまにはそれもいいか、できれば帰りもよろしく頼むぜ」
リュウフォンの提案にリュウレイが笑って答える。風に乗り空間を飛び越える感覚がどんなものなのか、興味があったカンショウもぜひお願いしますと答える。
それを聞いたリュウレイとリュウフォンがにやりと笑うと、カンショウに身に心地よい悪寒が走る。
――なんだかとってもいい予感!?
実際には嫌な予感しかないが、今のカンショウにとってはリュウレイたちにかまってもらえるだけ楽しいし、愛しくも思えていた。
「それじゃ、行くよ! 二人とも目を瞑って――」
その言葉と同時に心を揺さぶるような静かな旋律が響き渡り、周囲の風が渦巻いていく。素肌に風を感じたカンショウは自分が日の光に裸身を晒したような感覚に陥り、思わず羞恥を覚えてしまう。
――私、どうなるの?
そのつぶやきと同時に、まるで空気に体が解け入るような感覚に包まれ、次の瞬間カンショウは緑の天蓋を見上げていた。
「ここって、森の中? ――きゃああああっ!!」
カンショウの悲鳴と同時に宙に浮いていた体が小川の中に落下して激しい水しぶきを上げる。気づけば、身に着けていた作業着は着ておらず、ついでにリュウシュンから受け取った焼き菓子の包みもなくなっていた。
「ぷはっ! 一体何がどうなってるの?」
水中から顔を出して立ち上がったカンショウの全身はずぶ濡れだった。それでも射し込む日差しに照らされて、きらきらと輝いている。顔にへばりつく前髪を拭い去り、周囲を見回すカンショウに耳に聞き覚えのある笑い声が響いてきた。
「ハハハ、いい眺めだぜ! いい女だな、カンショウ!!」
「すご――い、カンショウってばかわいい!」
「もう――、いきなりムチャしないでくださいよ、姐さんたち! お尻打ったじゃないですか!!」
少し離れたところで、自分と同じように小川の中で水に濡れたリュウレイとリュウフォンを見つけたカンショウは怒った振りをして二人に声をかける。実際には常にカンショウの身を守る守りの風の力で衝撃はかなり緩和されていたのだが。
それから二人のぶしつけな視線にわざと胸元を隠しながら、二人の方に近づいていく。
「ここってさっき話していた、古道近くの穴場ですよね? 橙の隧道って近いんですか?」
カンショウが尋ねると、リュウレイが近くにやってきて抱きしめられてしまう。それから彼女の視線が示すその先に草木に覆われた古の石畳が見て取れた。
「そういうことさ、わかったか? カンショウ」
「はい、わかり……んっ!」
リュウレイは話はそこまでとばかりにカンショウを強く出し占めて、強引に唇を重ねてくる。背後からはリュウフォンが迫り、あの豊かで強いあこがれを抱く胸元をこれでもかというほど、押し付けられてカンショウは歓喜の時を迎えてしまう。
――ああん! もうこの二人ってば強引過ぎです、でも大好き……。
けれど、一瞬垣間見た隧道への道に違和感を覚える。その先は草木に覆われていたものの人の歩いた足跡らしきものがあったのだ。それもごく最近頻繁に行き来した後。
最初、リュウレイたちかと思いもしたが、起きている時はほとんどリュウレイたちと過ごしているカンショウである。彼女たちにそんな暇がありはしないことなどすぐに理解できた。しかし、今のカンショウに思考できたのはそこまで。
力強いリュウレイの押しに根負けしたカンショウは息も絶え絶えになり、全身を包む心地よい感触に身を委ねるほかなかったのだ。
「――次は私、ほらおいでカンショウ」
「――はい、フォン姐さん……」
ふわりと体が浮かび上がり、また宙に浮いたカンショウを待ち構えたリュウフォンが抱きしめて再び口付けを交わす。炎の加護を受けるカンショウも押し寄せる歓喜には抗えず力なくリュウフォンの体を抱き返すくらいしかできない自分にもどかしさを覚える。
――ただ口付けを交わすだけなのに何で二人ともこんなに上手なの、私もう頭が壊れちゃいそうだよ……!
そんなことをつぶやいていると、今度は後ろからリュウレイが抱き着いてくる。それなりに成長したリュウレイの胸の弾力がまたカンショウをこの上もなく甘美な境地へと導いていく。
――ああ、私もうダメ! 本当にダメェ!!
「ふふ、カンショウは本当に素直でかわいがり甲斐があるな。敏感過ぎるだろ?」
そう耳元でささやくリュウレイの声を最後にカンショウは意識を失う。その頭上には鳥たちの鳴き声と小川を吹き抜ける沢風が静かに木霊していた――。




