愛?
「うわぁ!?」
唐突に頬が冷たく硬い感触に襲われる。僕は情けない悲鳴を上げてしまった。
「びびりすぎだろ」
振り返ると彼女が満面の笑みを浮かべながら缶コーヒーを僕に向けていた。
「ありがとうございます」
僕は彼女から受け取ろうと手を伸ばした、が僕の右手は空を切った。
「驚かせただけだよ。1本しかねーんだ、わりぃな」
そういって彼女は瞬く間に飲みきってしまった。
「・・・、今日の用件はなんでしょうか。」
そう、今日は僕は彼女に呼び出されてここに、以前彼女に告白し振られた屋上に来ているのだ。
「なあに、ちょっとした暇つぶしに付き合ってもらおうとおもってね。他愛のない会話でもしようと思ってきたのさ。」
彼女はもう1度満面の笑みを浮かべて落下防止用の柵にどかっと座った。
まずは、アタシのターンだ
「お前はさ、追いかけたい人?追いかけられたい人?」
追いかける・・・、うーん少し難しい。追いかけられる対象にもよる。
「まさかと思うけど追いかけられる対象にもよるとか考えてないよな?こういう話の場合はどう考えても男女関係の話だからな?」
開始5秒で鋭いジャブをもらってしまった。彼女は忙しい身なので2ラウンドしか時間が無いだろうに、早速これとは幸先が不安だ。
「そうですね、やっぱり追いかけられたい人ですかね。」
「理由は?」
「追いかけられている側は言い方は悪いですが、精神的優位に立っているじゃないですか。言わば、選ぶ権利、を得ている状態ですね。」
「お前、アタシに告白してきたよな?アタシのこと好きなんだよな?」
「当たり前ですよ。」
「まあいいや、おまえのそういう見栄はんねーところは割りと好きだぜ。きっとパワプロでお前ってキャラクターを作ったらピンチG寸前×力配分とかつくんだろうな。」
さて、僕のターンだ。
「天野さんは追いかけられたい人ですか?追いかけたい人ですか?」
「アタシは追いかけたい。追いかけられる人生ってのもさ、まあ悪い気はしねーんだ。だけどアタシはアタシが認めた奴としか付き合わないし、認められる奴は追いかけられる側の奴さ。」
すごくらしい答えだ。この会話を心理テストと取れば、安定をとるか理想を取るかという話だろう。
「さて、アタシのターンだ。」
彼女はチラッと腕時計を見る。
「あたしのターンから始めてすまんが、時間的にラストだ。」
「構わないですよ。呼び出してもらっただけで嬉しかったですし。」
「一途だねえ。じゃ、最後の質問だ。幸せなカップルってさ、どーいうもんだと思う?」
幸せなカップル・・・。難しい質問だ。そもそも幸せとはなんだろうか。それは人によって違うわけで、一緒にいるだけでいい人もいれば愛の形を確かめないと実感できない人もいる。喧嘩ごっこしてるときでしか相手を感じられず、その瞬間が幸せという人もいるだろう。
ただ、まあ今回の質問は流れ的にそういう方面の話ではなさそうだ。となると、
「そうですね、さっきの話を問1として今回の話を問2とすれば、互いに追いかけあっている同士のカップルっていうのが幸せなカップルだと思いますよ。」
互いに追いかけあっているから尊敬しあうし、高めあう事ができよう。
「なるほどね、50点の回答だな。留年サヨナラ。」
「50点ですか・・・、ただの僕の見解に点数つけないでくださいよ。」
「わざわざさっきの話の表現を使う形で来たってことは、お前は模範解答を狙いに来たんじゃないのか?」
「そりゃまあそういう気持ちも多少はありましたけど。」
「互いに追いかけられてるカップルってのはさ、互いに追いかけあってるカップルとどう違うんだ?」
言われて見ればそうだ。
「そういうことだ。結局マイナス×マイナス=プラスだもんな。」
ぴょん、と彼女は柵から僕を飛び越して着地する。
「タイムリミットだ。なかなか楽しかったぜ。じゃーな。」
彼女は手のひらをひらひらさせてから屋上から姿を消した。
僕は屋上で寝転がる。
「実際僕はマイナスの側なんだろう。」
自分でつぶやいて悲しくなる。だけどー
「まだ終わりじゃないから、」
そう、まだ終わってないのだ。泣いたって叫んだって残酷だって報われなくたって、人生は、続く。
今日も陽はいつの間にか落ちていた。
星のよく見えない夜空に向けて手を伸ばす。そして、ぎゅっと握りこぶしを作った。
「まだ、頑張れる。」
ぼくはそうひとりごちた。




