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ハレルヤなんてさようなら  作者: 八兼信彦
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Scene3 予言者《ナービー》なんてさようなら その3

  ***


 ポークルムの東端に、この町の獣苑じゅうえんがある。

 そこは木々の生い茂る自然公園というべき場所で、そのまま背後の深山へと続いている。

 いわゆる、「気」の流れが集まるパワースポットであり、古来より土地のぬしが住むといわれ、それゆえに『獣苑』と呼ばれている。こうした獣苑は都市ごとに存在している。

 その獣苑前の広場――そこは駐車場でもある――に黒塗りの車が十数台停まっていた。

 黒服に身を包んだ男たちは、無線機を片手に慌ただしく動き回っている。

 龍華街の支部を襲ったアンナ・E・クロニクルを、町から駆り出すために集められた〈クーザ・キルティ〉というマフィアの構成員(ギャングスタ)であった。

 その広場の一角。

 とりわけ大きなリムジンの中に、白い祭服に身を包んだ若い女が座っていた。

「おかしいですね……」

 車内の円台に広げられた地図を眺めながら、女がつぶやく。

「この町にいることは間違いねえんだ。慌てることはねえ。」

 女の向かいには恰幅の良いご老体が、深々と座っていた。

 しわの刻まれた厳めしい顔つきで、声もひどくしゃがれている。

「いいえ、コンマイトさん。なにか変なのです……」

「どこがどう変なのか、このご老体にもわかるよう説明できますかな? 司祭様。」

 司祭と呼ばれて、女はやや顔を赤らめた。

「司祭だなんて、よしてください伯父さま。いつものようにティナとおっしゃってください。」

「祭服の司祭様を呼び捨てだなんて、とんでもねえ。」

 老人は諭すように言った。

 恰幅の良いこの老人は、アレグラハム・コンマイト。

 暗黒街にその名を轟かす〈クーザ・キルティ〉のボスである。

 そして向かいに座る、白い祭服の女は、ティナ・フィバーチェ。

 彼女はかんなぎの能力をもつ巫女であった。


「こちらに近付いている気がするんです。」

 ティナは気を取り直して、アレグラハムに言った。

「ほう。どれどれ。」

 アレグラハムは上体を起こして、地図に目を落とす。

 ティナは、地図にアンナの進路を指先で描いていった。

「この地点から、進路を変えて。そこから、このようなルートをたどって……いまこのあたりにいるようなのです。」

 ほうほう、と大きくうなずいてみせるアレグラハム。

「ゆっくりこちらに近付いているような気がするのですが……」

 指先の航路を見て取ったアレグラハムは、すぐに思いいたった。

「やつら屋上を移動してやがる。」

「えっ? そうなのですか?」

「まちがいねえ。」

 というとアレグラハムは運転手に指示を出した。

「やつらは屋上だ、払い落とせ。」

「かしこまりました。」

 運転手が車外に待機していた構成員ギャングスタへ伝えると、情報はまたたく間に伝播していった。

「こちらの居場所が割れていると思うか?」

 アレグラハムがティナに訊いた。

「いえ、それはないと思います。精霊ぬしも穏やかですので……」

 だがティナは不安が拭えずにいた。

 それが、失敗は許されないという逼迫からくるものか、直感からくるものか……ティナにはいまひとつわからなかった。


 無線端末から指示を受けた構成員は一斉に屋上を見上げた。

 ある者は高台へ登って、眼下に屋根を捉えた。

 しかしどこにも、ノエルたちの姿を見つけることはできなかった。


 そのころアンナは、ミカンをふたつ、男に差し出していた。

 男は面食らい、動揺しながらも、震える手でそれを受け取った。


「え?」

 円卓の前に座っていたティナが、思わず声を漏らす。

「どうした?」

「いえ、その……」

 ティナは次の予測地点に驚いて、口籠ってしまった。

 この『予知』というのは、厳密にいえばティナがやっていることではない。

 かんなぎの力をもって、獣苑のぬし、つまり精霊と、心を通わすことにより、街に暮らす人々の『思い』を、精霊ぬしから教えて(・・・)もらっているのだった。

 そのため彼女たちのかんなぎの力は、精霊魔術(ジニマギア)とも呼ばれている。

 その精霊の囁きによると、アンナが次にあらわれる場所というのが――

「ここ、に来ます。」

「あん?」


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