Scene2 酒場《バッコス》なんてさようなら その3
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粉塵が店内の照明を乱反射させている。
ふたたび、静寂が戻ってきた。
『ハハハハッ! わたしの勝ちだァァァ!』
店長が勝鬨の声を上げる。
しかし――
「……わたしの金ヅルに何やってんのよ――」
不機嫌なアンナの声が、店長の顎下から聞こえた。
『!?』
粉塵がおさまると、店長の前には壁でなく、人影があった。
ノエルの手前で、アンナが店長を受け止めていたのである。
『そんな――バカな……』
愕然とする店長に、アンナは死を告げるように言った。
「いいこと教えてあげる。中途半端な力は身を滅ぼすのよ――バックス。」
『いぎぃぃぃ……』
恐怖に包まれた店長は、さらに加速しようとキャタピラーを廻した。
しかしアンナに押さえられた身体はそこからビクともしなかった。
『なぜだァッ! なぜだァァッ!』
店長の喚声も、アンナの前ではむなしくこだまするだけである。
「アンナちゃん必殺ぅ……」
『ひ、ひぎゃあァァァッ!』
「上手投げぇ!!」
上体をひねられた店長は、バランスを崩して射出され――
きりもみしながら、脳天を地面に擦りつけて――
気絶した。
「ふう。」
廃墟と化した店内には、アンナとノエルだけが立っていた。
アンナはノエルに向き直ると、
「さて、食事にしましょうか。」
と、さらりと言った。
***
その後、ノエルが見たものは――
バグ酒の抜けきれない大男たちが厨房では飯を作り、ホールでは酒を注ぐという光景であった。店長がどこかから机や椅子を持ってきたからよかったが、もしなかったら大男たちが机や椅子になっていたかもしれない……
「「「またお越しくださいませぇ!」」」
半壊した店の前に整列させられた店長と青年部会員たちは、清々しい笑顔を作らさせられ、満足げなアンナといまだ戸惑いを隠せないノエルを、見送らせさせられていた。
Scene2お読みいだたきありがとうございます。
旅の始まりといえば酒場だろ、という安直な考えから生まれました。
アンナとノエルの旅はまだまだ続きます。
次は新キャラクターが少し出てきます。
よろしければ次章もお読みくださいませ。