Scene13 温泉《セレモニー》なんてさようなら その2
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「アンナさん、わたし――」
声の調子が変わったティナに、アンナは顔を沈めたまま視線を向けた。
「わたし――本当はアンナさんからキューブを取り返しに来たんです。」
「ぶくぶく?」
「クリプタで、アンナさんたちに出会ったのも偶然じゃなくて。ああやって、追われているフリをしたら、きっと助けてくれるって、そう思ったんです。」
「それはまた――思い切ったわね。」
アンナは顔を上げると、そっとティナに近寄った。
「ええ。でもどこかで確信があったんです。実を言うとアヴァルスの龍華街にもポークルムの獣苑にも、わたしは居たんです。」
「へえ、そうだったんだ。」
「わたしの祖母、聖マザーと、〈クーザ・キルティ〉のアレグラハム・コンマイトさんは親交があったんです。それで、アレグラハムさんがわたしをウリザネから逃がしてくださったんです。」
「ふうん。」
「村が襲われた日、わたしは祖母から神器を託されました。ネフィエルが〈キーキューブ〉と呼んでいたものです。それさえあれば、聖域は守られると。しかしそれを、龍華街でアンナさんに奪われてしまったんです……」
「あ、そうだったの? 悪いことしちゃったね。」
「ごめんなさい――」
「えっ?」
「だましていて、ごめんなさい――」
ティナは深々と頭を下げた。
アンナの目を見ることができないのか、きゅっと目をつぶる。
「わたしのせいで、みなさんを大変な目に合わせてしまいました。」
震えているのは、もちろん寒さのせいなどではない。
これはいまのティナにできる懺悔なのであった。
そんなティナに、アンナはそっと手を触れた。
「それは違うんじゃないかな?」
「え?」
きょとんとして顔を上げるティナ。
「もとはといえば、わたしがキューブを奪ったからでしょ? だったらそれは、わたしから首を突っ込んだってことよね。それに――」
アンナはゆっくりとティナに向き直った。
ティナもじっとアンナの瞳を見つめる。
「わたしはすべてをほっぽり出すこともできるのよ。でもそうしてないってことは――」
アンナはにっこりと微笑んだ。
「好きでやってんのよね。さっきの喧嘩だって、すっごく楽しかったし。」
「そう……ですか?」
「わたし、人に気を遣うの得意じゃないもん。だぶんノエルもユーちゃんも同じ。」
「んー、そうでしょうか?」
「そうそう――だよね、ミズカちゃん?」
アンナが声を張ると、どこかから砂粒が集まってきてミズカが姿をあらわした。
「冗談! わたしは嫌でしょうがないわ。」
「とはいいつつ、どうして裸なの?」
ミズカもまた一糸まとわぬ姿で、きれいに折りたたまれたタオルを頭に乗せていた。
「ここは温泉よ? それくらいの礼儀はわきまえてるのっ。」
ミズカは湯に浸かるとスイスイ泳ぎはじめる。
「ミズカちゃんも温泉に入るんだね。」
「レディのたしなみよ。ちょっとアンナ、あんまりわたしに馴れ馴れしく話しかけないでよねっ。」
ティナは立ち上がって、
「あの――さきほどは助けていただいて――」
とミズカに礼を言おうとしたが、
「やめてよ。」
ミズカはぷいとそっぽを向いた。
「助けたくて助けたんじゃないの。ただ――それが一番、効率が良かっただけ。」
「そうですか――」
ティナはまたうつむいてしまった。
「もう、素直じゃないなあミズカちゃんは。」
そういうとアンナはミズカを両腕で捕まえた。
「ちょ、アンナっ!? なにすんのよ!」
と騒ぐミズカの身体を、アンナはくすぐった。
「あひゃ、こらアンナ! なにやっ――ちょっと、あっはははっ、やめっ、うひひひひ……、あーもー水に濡れて逃げられないーっ!」
アンナの手にまさぐられて、笑いながら水面をばしゃばしゃと叩くミズカ。
「ほれほれ、いじわるしないって言いなさい!」
「わかった、わかったからもうやめてぇぇ、ああもうアンナなんか、大っ嫌ぃぃぃぃぃ!」
ミズカの絶叫が、森にこだましていった。




