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ハレルヤなんてさようなら  作者: 八兼信彦
31/44

Scene11 見世物《フリークス》なんてさようなら その2

  ***


「さぁさぁさぁ! 世にも珍しいツィールク団がやってきたケェロケロ~!」

 大通りを奇怪な一団が歩いていく。

 先頭を歩くのは、全身が蛙の肌で覆われた小男。ビラをまき散らしている。

 続いて痩身に眼鏡の旗持ちが優雅に歩く。

 そのまわりでは小さな女子がくるくると踊り狂っていた。

 腹を膨らませた管楽団がそれに続き、テンポの速い陽気な曲をかき鳴らす。

 さらに黒マントに髭を生やした陰険そうな男は――団長だろうか。

 隊列を乱すように、ピエロが右へ左へ愛想を振りまく。

 その後ろには一団のマスコットキャラクターであろう着ぐるみが、よたよたとついてまわる。

 続いて一団が従えるのは獰猛な動物たち。

 身体は馬だが、足は鳥のような生き物。

 鼻が二股に分かれた象の上には、包帯に身をくるんだミイラ男が乗っている。

 豹の檻に入れられた貴婦人はその艶めかしい肢体を見せつけながら微笑んでいる。

(しかし、なぜだか豹のほうが震えているようにも見える。)

 派手なメイクに彩られたその一団は、どこからともなくあらわれて大通りを席巻した。

 道行く人は足を止め、期待に胸を膨らませる。

 あっという間に人だかりの山である。

 一団はその中をかき分けかき分け進んでいく。


 やがてラース邸の正門へと押し入ると、その広大な庭にテント(・・・)を築きはじめた。


  ***


 旗持ち姿のジョルジュが近付くと、ノエル団長は忌々しげに付け髭を取った。

「お似合いでしたよ。」

 爽やかに笑うジョルジュに、ノエルは半眼を向ける。

 着ぐるみの頭を取ったティナがよたよたと近付いてきて、

「すみませんー、どなたか脱ぐのを手伝っていただけませんかー。」

 というと、カエル男がやってきて、

「おまかせですケェ~」

 と背中のファスナーに指をかけた。

 ピエロのユーリエルはまんざらでもない様子で、ジャグリングの練習をしてる。

 おびえる豹と無理矢理に握手を交わしたアンナは、たおやかに檻を出てきた。

 踊り子のミズカは、ノエルの前でくるくると踊りながら、

「どう? かわいい?」

 などと語りかけてくる。

「助かりました、『カエル商人』さん。」

 ジョルジュはカエル男に言った。

「いえいえ、あっしも『青い炎』さんに会えるなんて、これも神の御導きですケェロケロ。」

 と目をしぱたかせている。

 ふたりははがき職人同士、意気投合したらしい。

 ちなみにこのサーカス団セットは、カエル商人がしつらえたものであった。

 ミイラ男だったマラルメは頭の包帯を取り払い、管楽団員の膨れた腹から銃器を取り出していた。

「時間がありません。カムフラージュもそう長くは続きませんから。」

 

 扮装しての侵入。

 設営と見せかけての戦闘準備。

 感銘直截・豪放磊落ゆえに、荒くれどもの目はごまかせたようである。

 決戦だと奮起するマラルメら〈緑の信奉者〉だったが――


 ノエルの背中に抱き着いているミズカ、着ぐるみがうまく脱げずにこけるティナ、ジャグリングで遊ぶアンナとユーリエル……緊張感のない連中に囲まれている。

「ま、これでいいのかもな。」

 とノエルは深く考えるのをやめた。

「なあに? どうかしたの?」

 ミズカが肩越しに、顔を覗き込んできた。

「いや、なんでもない。」

「ふうん。」

 なぜだかノエルは、至極さっぱりとしていた。


 しかし――それにしてもあまりに難がなさすぎる……

(あるいは、誘われているか――)

 不穏なものを感じながらも、〈緑の信奉者〉のリーダー、ジョルジュ・ハミングは一団に指揮を下した。

「では、行きましょうか。」

 武装した一団は、ラース邸の重たい大扉をゆっくりと開けた。


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