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ハレルヤなんてさようなら  作者: 八兼信彦
3/44

Scene1 銃弾《ブレット》なんてさようなら その3

  ***


「あ~、きっもちぃい~!」

 後部座席に陣取った女は、右手でノエル、左手で追跡車に狙いを定める二挺拳銃スタイルで、風に髪をなびかせていた。

 しかしノエルと違い、女のしなやかな髪は乱れたりしなかった。

 どんな強風にあおられても、さらさらと受流してゆく。

 ズダダダダと後方から銃声が響いて、リアバンパーが剥落していった。

 すでにテールランプは破壊され、バッグドアも取れかかっている。

「もっとスピードでないの?」

 後部座席に立っている女がぼやいたが、それはきっと逃げるためではなく、もっと風に当たるためだろう。

「あんた、いったい何やらかしたんだ?」

「ノン、ノン。」

 女は銃を突きつけたまま、人差し指を左右に動かした。

「わたしはアンナっていうの。アンナ・エマ・クロニクル。」

「そうかいっ!」

 ノエルがおもむろにハンドルを切る。

 いままで走っていた車線で手榴弾が爆散した。

「あなたは?」

「あ?」

「名前。」

「おれはノエルだ。ノエル・グロリア。」

「あら、素敵な名前ね。」

 アンナの銃弾が追手の擲弾筒グレネードランチャーを叩き落とす。

「あなたって不愛想な人?」

「銃を向けられて、愛想もなにもねえだろ。」

「あははは、そうよねっ」

 などと悠長に笑っている。

 追手はまだ5台ほど続いている。

 外見は黒塗りの高級車だが、すべてアーマード化された装甲車となっていた。

 タイヤもフロントガラスも、アンナの銃弾では歯が立たなかった。

「おれを解放する気はないんだな。」

「いま出ていったら、挽肉ミンチにされちゃうよ。」

「巻き込まれた『被害者』なんだけどな。」

「裏通りにオープンカーなんて出来すぎよ。疑われて、ズドン。」

 アンナはノエルを撃つフリをした。あまり冗談にもなっていない。

「ただの偶然だ。」

龍華街の裏通り(あんなところ)で、ノエルは何をやってたの?」

「宿探しだよ。」

「嘘くさーい。冗談は髪型だけにしときなよ。」

「これは好きでやってんじゃねえ!」

 ノエルは反駁しながら、ハンドルを切った。

 またも手榴弾が、道路で爆散する。

「用心棒の口でも探してた?」

「どうしてそう思う?」

「だってノエル、さっきから全部避けてるよ?」

 ノエルは敵の砲撃を、かわし続けていた。

「おれは……善良な一般市民だ。」

「ふうん。」

 アンナは躊躇なく、ノエルに発砲する。

 ノエルはぐいと首を傾けて、皮一枚でそれをかわした。

「あっぶねぇっ! なにすんだ!」

「ほら避けた。普通だったら当たってるよ。」

「そんなことあっさり言うんじゃねえ!」

「だって善良に見えないんだもん。」

 アンナはまじまじとノエルを見つめた。

 逆立つ髪、血のような色のシャツ、サングラス、ロザリオ……チンピラといったほうがしっくりくる。

「信用できない人からは、銃口これはずせないよね。」

「だからって、撃っていいことにはならねえだろ!」

「大は小を兼ねるのよ。」

「いや意味がわからねえ!」

「転ばぬ先の杖! 濡れぬ先の傘! といってもわたしは、雨でも傘差さないけどねっ。」

「いや聞いてねえ!」

 太々しく返すアンナに、噛みつくノエル。

 こうして言い合っている最中にも、銃弾はひっきりなしに飛んできている。

「いいから早く、追手をなんとかしてくれ。」

「装甲が固いのよ。拳銃ハンドガンじゃ威力が足りないの。」

「装甲車に追われるなんて、何やらかしたんだ?」

「逃げきれたら、教えてあげるっ。」

 アンナは悪戯っぽくウィンクしてみせた。

「けっ」

 ノエルは気怠そうに、助手席のダッシュボードを開ける。

 そこには大口径六連銃(リボルバー)が一丁しまわれていた。

「ちょっとノエル、変な気起こさないでよね。」

「いいから、どいてくれ。」

 ノエルは片手に銃を取り上げると、後方へ構えた。

「わぁ、きれいな銃。」

 銃身に施された山羊の彫金が、陽光に照らされ浮き上がっている。

 ノエルは撃鉄を上げ、バックミラー越しに――

「……………」

 と小さく何かをつぶやいて、引き金をひいた。

 バォウン!低く鈍い銃声が響く。

 銃弾は、しかしむなしくも固い装甲にはじかれてしまう。

「残念。強装弾マグナムもダメみたいね。」

 だがノエルは気にも留めず、銃を助手席に投げ捨てた。

「罪過のない人間はいない。」

「え? 何か言った?」

「山羊は生贄にされたことを恨んでた、って話だ。」

「それ何の話?」

 アンナがそう返したときに、事は起こった。


 はじかれた銃弾は数十メートル先の街燈をかすめていた。

 ろくに整備もされず老朽化していた街燈は、すでに金属疲労の限界にきていた。

 そこへきて銃弾がかすめたものだから、そこからぼきりと折れ曲がる。

 折れた街燈は、先頭を走っていた装甲車にぶち当たる。

 街燈の襲撃に驚いたドライバーが慌ててハンドルを切ると、車体が傾いた。

 そのままバランスを崩して側面を地面にこすりつけながらグルグルと回転する。

 回転する装甲車からは手榴弾が転がり落ちた。そして後続車両の直下で暴発・・

 さらに次の車も、めくれ上がった大地にハンドルを失い、岩盤に激突した。

 こうして追跡車輌は次々と偶然の事故(アクシデント)に見舞われて――鎮静した。


「すご~い、全滅!」

「いまのうちに逃げるぞ。」

「ねえねえ、どうやったの?」

「おれは運がいいんだ。」

「奇遇! わたしも運がいいのよ。」

 そういうとアンナは屈託なく笑った。

 だが銃口は、いまだノエルに向けられている。

「……嘘は言ってない。」

「真実がひとつとはかぎらないわ。」

「けっ、たまんねえな。」


 ズタボロのビビッドレッドが街道を抜けてゆく。

 すでにアヴァルスの街は離れ、周囲にはまた荒野が広がりはじめていた。


Scene1をお読みいただきありがとうございます!

ある日突然、空から金髪破天荒娘が振ってきて、

巻き込まれるままに冒険はじめてみたいな、と思って書き出しました。


ベタな展開ではありますが、王道もなぞってみますと、王道と言われているだけあるとな痛感します。


よろしければ以降もお願いいたします。


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