バスケ部
バスケ部の練習は想像以上にきつい。
今年入部した一年生は全部で十一人。
そのうち、経験者はリカを含めて七人。
中学でバスケ部だったリカでさえ、かなり辛そうだ。
未経験者の泉と明日香は、当然ついて行くのが精一杯だ。
もしかしたら、他の一年生の足を引っ張っているかもしれない。
練習が終わって家に帰ると、ご飯を食べてお風呂に入って速攻で寝てしまう。
髪の毛もろくに乾かさずに寝てしまったときなどは最悪だ。
翌朝何度後悔したことだろう。
そして、性懲りもなく今朝もドライヤー片手に寝癖と格闘している自分が情けない。
トーストを甘いコーヒーで流し込んだら、バス停までダッシュだ。
苦労して直した寝癖が再び顔を出す。
「もう…」
泉はボサボサの髪を手ぐしで整えた。
ダメだ。
どうしても毛先がハネる。
走ったおかげか、今日はちょっとだけ早めにバス停に着いた。
いつもより一本早いバスに乗ると、意外と席は空いている。
泉は真ん中付近の一人用の席に座った。
カバンから携帯を取り出す。
リカからのLINEだ。
「今日練習終わったら四人でパンケーキ行かない?」
正直、泉にはそんな元気が残っているか自信がない。
だが、今の時点で断る理由もこれといってない。
「OK」
泉はスタンプを送った。
ハンドミラーを取り出し、もう一度髪の毛を確認する。
やっぱりハネている。
「最悪…」
泉はため息をついた。
ふと顔をあげると、運転席のすぐ後ろに見覚えのある後姿…
蒼井くん?
泉は思わずハンドミラーを落としそうになった。
えっ、ちょっと…
こんなボサボサの髪で会いたくない。
バスが着くまでの間、泉は優太に気付かれないようにずっと下を向いていた。
まだ五月だというのに蒸し暑い体育館。
泉はランニングが終わると、リカとストレッチをしながら麻衣の方を見た。
マネージャーは、麻衣の他に三年生が一人いるが、二人とも何やら忙しそうだ。
私もマネージャーにすればよかった―
どんなに忙しかろうが、性格的にもマネージャーの方が絶対に向いているはずだ。
何で最初に気付かなかったんだろう。
それに、ここの練習はきつくないと言ったのは、どこのどいつだ。
泉は恨めしそうにリカを見た。
「えっ?何?」
「ううん…なんでもない…」
コノヤロー。
泉は少し強めにリカの背中を押した。
練習が終わると太田先生が全員を集めた。
もうすぐ始まるインターハイの予選に向けて、選手が発表される。
ベンチ入りメンバーは十五人。
三年生と二年生で十三人だから、上級生から順当に選ばれれば、一年生からは二人だ。
もちろん泉も明日香も期待などしているわけもない。
「4番…」
太田先生が背番号と名前を読み上げる。
「ねぇ、泉。何で4番からなの?」
隣で明日香が小声で言った。
「知らないわよ。そんなこと…」
しかし、泉と明日香の疑問にはお構いなしに発表は続く。
「17番…」
一人目の一年生が呼ばれた。
一年生の中ではエース格の子だ。
あと一人。
「18番。谷口リカ」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
「リカ!」
麻衣が叫んだ。
リカは顔を真っ赤にして、目に涙をいっぱい溜めていた。




