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泉 -Spring-  作者: zaku
29/30

つまんない

 「ねぇ、泉。悪いけど今日先に帰ってくんない?」

 部室へ向かう途中、明日香が泉に言った。

 「いいけど。何で?」

 「ごめん。ちょっと用事があって…」

 「ふーん」

 そういえば、麻衣も今日は用事があるって言ってたっけ。

 部活が終わったら、パンケーキでも食べに行こうかと思ったのに。

 つまんない。

 インターハイの予選も一回戦で負けてしまったし、今日はなんだか練習にも身が入らない。

 蒸し暑い体育館。

 Tシャツが背中に張り付く。

 お腹も空いた。

 ミニゲームではいつものとおり控え組。

 レギュラー組には二人のスーパー一年生が躍動している。

 「泉!」

 明日香からのパス。

 ボールが手に着かない。

 もたもたしている間に一年生に取られた。

 そのはずみで尻もちをつく。

 「泉、大丈夫?」

 明日香が声をかけた。

 「ごめん。大丈夫…」

 こんなことなら、部活なんかサボればよかった。

 情けなくてなんだか泣けてきた。

 泉は、周りにバレないように、汗と一緒に涙を拭った。


 練習が終わると、いつものミーティングが始まった。

 今日は来週の練習試合に出場する十五人のメンバーが発表された。

 インターハイの予選と同じメンバー。

 泉も明日香も応援団だ。

 でも、今日はどうしても前向きな気分にはなれない。

 泉は反対側のコートで同じようにミーティングをしている男子の方を見た。

 あの日以来、優太のことをまともに見ることができない。

 蒼井くんはこんな私のことなんて、何とも思ってないんだろうな―

 優太は不動のレギュラー。

 泉はレギュラーどころか、十五人のベンチ入りメンバーにも選ばれたことがない。

 一度でもいい。

 せめて同じコートに立ちたい。

 そしたら優太が見ている景色が少しは見れるのに。

 「はぁ…」

 ネガティブ全開の泉は、床に視線を落として小さくため息をついた。

 ミーティングが終わると、隣に座っていた明日香が肘でつついた。

 「泉、何見てたのよ」

 明日香が小声で言った。

 「別に…」

 泉はとぼけて言った。

 「蒼井くん?」

 「はぁ?何言ってんの?」

 泉は平静を装った。

 「泉ってわかりやすいよね」

 明日香はそう呟いて泉を見た。

 「もっと素直になればいいのに」

 「ちょっと、ふざけないでよ。明日香には関係ないでしょ…」

 泉はその場から逃げるように一人部室へ向かった。

 あーもう。最悪だ。

 本当につまんない―



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