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泉 -Spring-  作者: zaku
28/30

スタンド席

 バスケ部に入って一年あまり。

 体育の授業くらいでしか経験のなかった初心者が、なんとかここまでやってこれた。

 公式戦にはまだ出場したことはないが、泉も明日香も練習試合には少しずつ出られるようになっていた。

 麻衣の言うとおり、他人と比べて足りないものを得ようとするよりも、自分の持っているものを磨く方が上手くなっている実感があるし、自信にもなる。

 何分でもいい。

 戦力として、少しでもチームの役に立ちたい。


 練習後のミーティング。

 今日は、インターハイの予選のベンチ入りメンバーが発表される。

 泉は期待などしていなかった。

 でもそれは、今までのような諦めや後ろ向きな気持ちではなく、冷静に自分の実力を理解した上でのことだった。

 たとえ今はダメでも、いつか必ず名前が呼ばれるように、今できることを精一杯頑張るんだ。

 今、頑張れなかったら、これから先も頑張ることなどできるわけがない。

 明日香も同じ気持ちだった。

 「4番…」

 太田先生が名前を読み上げる。

 新人大会のときと同じ名前が続く。

 そして最後に呼ばれたのは、あの二人の一年生。

 リカと明日香の代わりに選ばれた形だ。

 予想どおり。

 悔しくないと言えば嘘になる。

 でも決めたんだ。

 もう泣かないって―


 五月下旬。

 インターハイの予選が始まった。

 泉と明日香はスタンド席。

 麻衣がベンチから手を振っている。

 「麻衣ー。頑張ってー」

 明日香が叫ぶと、麻衣は恥ずかしそうに笑った。

 蒼井くんは今日も応援に来てるのかな―

 泉は優太の姿を探した。

 「何してんの?」

 「あ、いや、別に…」

 「何?蒼井くんでもいたの?」

 「ちょっと、何言ってんの…?いるわけないでしょ…」

 泉は明日香に見透かされているようで、顔から火が出るほど恥ずかしかった。

 「あっ。蒼井くんだ」

 明日香が泉の肩を叩いて言った。

 「もう…やめてよ…」

 泉は明日香の手を払うように言った。

 「ほんとだって。ほら、あそこ」

 泉は明日香が指差す方を見た。

 蒼井くん―

 優太と目が合った。

 しかし優太は泉から目を逸らすと、反対側へ歩いて行った。

 優太の隣には、男子バスケ部の女子マネージャー。

 泉は思わずコートに目をやった。

 「泉?どうかしたの?」

 「ううん…何でもない…」

 蒼井くん―

 泉はTシャツの胸のあたりをギュッと握った。

 胸が苦しくてたまらなかった。



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