スタンド席
バスケ部に入って一年あまり。
体育の授業くらいでしか経験のなかった初心者が、なんとかここまでやってこれた。
公式戦にはまだ出場したことはないが、泉も明日香も練習試合には少しずつ出られるようになっていた。
麻衣の言うとおり、他人と比べて足りないものを得ようとするよりも、自分の持っているものを磨く方が上手くなっている実感があるし、自信にもなる。
何分でもいい。
戦力として、少しでもチームの役に立ちたい。
練習後のミーティング。
今日は、インターハイの予選のベンチ入りメンバーが発表される。
泉は期待などしていなかった。
でもそれは、今までのような諦めや後ろ向きな気持ちではなく、冷静に自分の実力を理解した上でのことだった。
たとえ今はダメでも、いつか必ず名前が呼ばれるように、今できることを精一杯頑張るんだ。
今、頑張れなかったら、これから先も頑張ることなどできるわけがない。
明日香も同じ気持ちだった。
「4番…」
太田先生が名前を読み上げる。
新人大会のときと同じ名前が続く。
そして最後に呼ばれたのは、あの二人の一年生。
リカと明日香の代わりに選ばれた形だ。
予想どおり。
悔しくないと言えば嘘になる。
でも決めたんだ。
もう泣かないって―
五月下旬。
インターハイの予選が始まった。
泉と明日香はスタンド席。
麻衣がベンチから手を振っている。
「麻衣ー。頑張ってー」
明日香が叫ぶと、麻衣は恥ずかしそうに笑った。
蒼井くんは今日も応援に来てるのかな―
泉は優太の姿を探した。
「何してんの?」
「あ、いや、別に…」
「何?蒼井くんでもいたの?」
「ちょっと、何言ってんの…?いるわけないでしょ…」
泉は明日香に見透かされているようで、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
「あっ。蒼井くんだ」
明日香が泉の肩を叩いて言った。
「もう…やめてよ…」
泉は明日香の手を払うように言った。
「ほんとだって。ほら、あそこ」
泉は明日香が指差す方を見た。
蒼井くん―
優太と目が合った。
しかし優太は泉から目を逸らすと、反対側へ歩いて行った。
優太の隣には、男子バスケ部の女子マネージャー。
泉は思わずコートに目をやった。
「泉?どうかしたの?」
「ううん…何でもない…」
蒼井くん―
泉はTシャツの胸のあたりをギュッと握った。
胸が苦しくてたまらなかった。




