何よ…
明日からゴールデンウイーク。
普段は土日も連休もお構いなしに練習や練習試合が組まれることが多いのだが、なぜか明日だけは一日休みだ。
「ねぇ、明日どうする?」
部室へ向かう廊下で、明日香が言った。
「私、ゲームセンター行きたい」
麻衣は小さいころからクレーンゲームが好きらしい。
意外だ。
「映画も観たいなぁ」
明日香も楽しそうだ。
「じゃあ、モールね」
モールとは、地元にある大型ショッピングモールで、高校生が一日遊ぶと言ったらそこくらいしかない。
行けば誰かに会う確率は高い。
「泉も行くでしょ?」
さっきから黙って歩いている泉に明日香が言った。
「ごめん。私無理…」
「そうなの?」
麻衣は残念そうだ。
「明日、お姉ちゃんが帰ってくるんだ」
「泉、お姉ちゃんいたの?」
麻衣は驚いた。
「うん」
泉には歳の離れたお姉ちゃんがいて、既に結婚もしている。
子どもも一人。
「泉のお姉ちゃん、美人なんだよね」
「どうかなぁ…」
明日香の言葉に、泉は少し恥ずかしそうに言った。
「お姉ちゃんと泉、似てるの?」
麻衣が明日香に聞いた。
「うん。そっくり」
「そうなんだ。泉も美人だもんね」
「もう、やめてよ…」
泉は頬を赤くした。
翌日、麻衣と明日香は二人でモールに出かけた。
明日香が観たがっていた映画を観て、お茶でもしようとフードコートへ向かう途中、見慣れた後姿を発見した。
「あれ、泉じゃない?」
「ほんとだ」
小さな女の子の手を引いている。
麻衣と明日香は少し足を速めて、その後姿に追いついた。
「泉?」
明日香が声をかけると、泉は驚いて振り返った。
「何してんの?」
「何って、麻衣とデート。泉こそこんなところで何してんのよ?」
「お姉ちゃんたちと買い物だけど…」
「わぁ、可愛い!」
麻衣は、女の子の視線に合わせるようにしゃがんで言った。
「お姉ちゃんの子?」
「うん。由紀ちゃん」
「へぇ、もうこんなに大きくなったんだ」
明日香は目を丸くした。
「由紀ちゃん、何歳ですか?」
麻衣の問いかけに、由紀は恥ずかしそうに泉の後ろに隠れて、小さな指を三本立てた。
「今年幼稚園に入ったばっかで、年少さんだから…今度四歳になるのかな」
泉が補足した。
「由紀ちゃんってママ似?」
「うん」
「やっぱり。泉にもそっくりだもん」
麻衣の言葉に泉の顔も自然とほころんだ。
「ねぇ、由紀ちゃんは好きな男の子とかいるの?」
「ちょっと、明日香何言ってんの?」
泉はなぜか慌てた。
「ゆうたくん…」
由紀の思わぬ言葉に、三人は一瞬言葉を失った。
「あら。ゆうたくんだって」
明日香は悪戯っぽく泉を見た。
「何よ…」
泉は頬を赤らめて視線を逸らした。




