日曜日の朝
カラオケ店を出て四人でバス停に向かう。
風が冷たい。
「ねぇ、リカ。明日何時の新幹線なの?」
「えっと…」
明日香の問いかけに、なぜかリカは口ごもった。
「リカ?」
明日香はリカの顔を見た。
リカは下を向いている。
「どうしたの?」
今度は麻衣がリカの顔を覗き込む。
「えっと…たしか12時だったかな…」
「ちょっと、大丈夫?」
泉が心配そうに言った。
「うん…大丈夫。間違いない」
リカは笑顔を見せた。
泉にはなぜかリカの笑顔が少し不自然に思えた。
「ほんとに?怪しいなぁ」
明日香も何か気付いたのだろうか。そう言うとチラッと泉を見た。
「リカ。帰ったら新幹線の時間、LINEして」
珍しく麻衣が強めの口調で言った。
「うん…わかった」
リカは麻衣から視線を逸らした。
「はぁ…」
泉は自分の部屋のベッドに寝転んで、天井を眺めながらため息をついた。
何度も携帯を見る。
リカからの連絡はない。
今日は観たいテレビも我慢して早めにお風呂にも入ったのに。
泉は急に不安になった。
16歳の誕生日に三人からもらったクマのぬいぐるみをギュッと抱きしめた。
「リカ、何してんだろう…」
ふいに携帯が鳴った。
「明日の新幹線は12時だよ」
リカからのLINEだ。
もう、何してんのよ。
「おそーい!」
明日香だ。
怒りのスタンプ付き。
「了解」
麻衣は笑顔だ。
泉はなんだか可笑しくなった。
それから四人はしばらく会話を楽しんだ。
いつもどおりの他愛のない会話。
誰も明日のことなど話題にしない。
というより、話題にしたくなかったと言った方が正解なのかもしれない。
「じゃあ、明日ね」
リカの言葉に急に現実に引き戻される。
「明日、11時半に駅のコンコースね」
「あの大きな柱の前で」
「おやすみ」
泉は部屋の灯りを消して、毛布を頭から被った。
クマのぬいぐるみが涙で濡れた。
日曜日の朝。
泉は歯磨きをしながら鏡を見た。
目が腫れている。
ヤバい。昨夜泣きすぎた。
こんな顔、リカに見せたくない。
早めに着替えてあれこれしていると、あっという間に家を出る時間が近づいてきた。
もう一度鏡を見ると目はまだ腫れている。
仕方ない。諦めよう。
携帯を見た。
着信?
リカだ。
「ごめん。11時の新幹線に乗る」
何で?
泉は携帯をバッグに放り込むと自転車を走らせた。
何で?
涙が溢れた。
駅に着くとコンコースへ走った。
駅の掲示板の時計は、既に11時を過ぎていた。
泉は足を止めた。
リカ―
泉は大きく肩で息をしながら、四人の待ち合わせ場所になるはずだった大きな柱に寄りかかった。
そして、そのまま力なくしゃがみ込んだ。
泉より少し遅れてきた明日香と麻衣が、泉の肩を抱いた。
「ごめん。みんなに会うと行きたくなくなるから」
三人の携帯には、リカの言葉と、リカが初めてベンチ入りメンバーに選ばれた日に四人で撮った笑顔の写真が「ありがとう」のメッセージとともに残されていた。
リカは動き出した新幹線の窓から、ぼんやりと景色を眺めていた。
トンネルに入って窓ガラスに映った顔は、涙でくしゃくしゃだった。




