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泉 -Spring-  作者: zaku
21/30

もう一度

 泉は手紙を読み終えると、大切にバッグにしまった。

 そして携帯を取り出すと、おもむろに電話をかけた。

 「もしもし。リカ?」

 「うん…」

 「ねぇ、どういうこと?」

 「どういうことって…何が?」

 リカは都合が悪いことがあると、いつもわざとらしくとぼける。

 「何がじゃないわよ。どうして何も言わないのよ」

 「ごめん…」

 「謝らなくていいから、ちゃんと説明しなさいよね」

 「パパが…転勤になっちゃって…」

 「そうじゃなくて、どうして引っ越すこと黙ってたのかって聞いてんの」

 「あ、そっち?」

 「あんたねぇ…」

 泉は呆れてそれ以上文句を言う気にはなれなかった。

 「ちょっと待ってて」

 泉は携帯のスピーカーをオンにして、明日香と麻衣の前に差し出した。

 明日香と麻衣は想いを一気に吐き出した。

 「ちょっと…二人いっぺんに喋ったら何言ってんのかわかんないんだけど…」

 リカの少し困ったような声に、三人は笑った。

 なんだか久しぶりに心から笑ったような気がした。

 「ところでさぁ、いつ向こうに行くの?」

 ここからが本題だ。

 泉はリカが引っ越す前に、もう一度四人で会いたかった。

 一時間でもいい。

 このままなんて悲しすぎる。

 「今度の…日曜日…」

 もう日にちがない。

 「ねぇ、それまでに時間作れない?」

 「…」

 リカは黙っている。

 もしかしたら無理かもしれない。

 泉は半分覚悟した。

 「土曜日なら…一応ママに聞いてみないとわかんないけど…」

 リカの返事は歯切れはよくなかったが、全く無理ではないように思えた。

 「わかった。じゃあ、あとで連絡して」

 「うん…」

 泉は携帯を切った。

 さあ、これからどうする?

 あまり時間はない。

 泉は明日香と麻衣の顔を見た。

 同時に、とてつもない空腹感に襲われた。

 「ねぇ、ご飯食べに行かない?」


 「泉、そんなにお腹すいてたの?」

 明日香が呆れた顔で言った。

 「大丈夫?」

 麻衣は少し心配そうだ。

 三人は学校近くのハンバーガーショップにいた。

 「大丈夫」

 泉はハンバーガーを一つたいらげると、オレンジジュースを一気に飲み干した。

 昨日から何も食べてなかった泉の胃袋は、ようやく少し落ち着いた。

 「リカに何かあげようと思うんだけど」

 泉は二人に言った。

 「何かって?」

 明日香が泉の顔を見た。

 「何か思い出になるようなもの」

 そういう泉もこれといって良い案があるわけではない。

 「アルバムとかどうかな?」

 麻衣が言った。

 「みんなの携帯に私たちの写真、いっぱいあるでしょ?それをアルバムに貼って、可愛い飾り付けとかして渡したらどうかなぁって思ったんだけど…ダメ…?」

 麻衣は泉と明日香の顔を交互に見た。

 「いいんじゃない?」

 明日香が泉の顔を見て言った。

 「ほんとに?」

 麻衣はとても嬉しそうだ。

 「うん。そうしよう」

 泉は二つ目のハンバーガーを口にした。

 

 三人は、帰りに雑貨屋でちょっとお洒落なアルバムを一冊買った。

 貼る写真はそれぞれ選んで、プリントアウトして持ち寄ることにした。

 バスを降りて家までのいつもの道。

 泉の足取りは重かった。

 リカは喜んでくれるだろうか。

 このアルバムが完成したら、このアルバムを渡したら、リカは遠くへ行ってしまう。

 携帯が鳴った。

 「土曜日の夕方ならOKだよ」

 リカからのLINE。

 泉は立ち止ると、アルバムが入った雑貨屋の紙袋をギュッと胸に抱きしめた。



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