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泉 -Spring-  作者: zaku
20/30

ロッカー

 どれくらい泣いただろう。

 正直、よく覚えていない。

 家に帰るころには外は真っ暗だった。

 夕飯も食べずに、制服のままベッドに横になった。

 急に引っ越すなんて言われても、そんなの受け入れられるはずがない。

 リカ―

 いくら手のひらで両目を覆っても、とめどなく涙が溢れた。

 いつの間にか眠ってしまったのだろうか。

 気が付くと朝だった。

 携帯を見る。

 クラス委員の子からのLINE。

 あれからクラスのみんなで話し合って、記念品と寄せ書きの色紙を準備することになったらしい。

 準備ができたら、太田先生がリカに送ってくれるそうだ。

 泉は大きく息を吐いて起き上がった。

 部活、行かなきゃ―

 泉は熱いシャワーを浴びた。

 

 泉はいつものとおりバスに乗った。

 昨日の昼から何も食べていない。

 そんなことすら忘れていた。

 学校へ着くと部室へ向かった。

 明日香と麻衣はもう来ていた。

 ふいにリカのロッカーを見る。

 キーホルダーの付いていない小さな鍵がささっていた。

 明日香も麻衣も何も喋らない。

 他の部員たちの耳にもリカのことは入っているのだろうか。

 いつもはうるさい部室も、今日は気持ち悪いくらいに静かだ。

 練習着に着替えて体育館へ行くと、太田先生が待っていた。

 練習を始める前に、リカが引っ越すことになったことや、バスケ部でも記念品と寄せ書きを渡すことなどが話された。


 この日の練習は軽めに切り上げられた。

 他の部員たちが体育館を後にしても、泉はコートの周りを黙々と走り続けた。

 息が切れるまで走った。

 大粒の汗が長い髪を濡らした。

 何周走ったかわからない。

 今まで生きてきてこんなに走ったのは初めてかもしれない。

 泉はヨロヨロとその場にへたり込んだ。

 「泉!」

 練習に付き合っていた明日香と麻衣が駆け寄った。

 息が上がって声が出ない。

 「泉…」

 明日香が目に涙をいっぱい溜めて泉の肩を抱きしめた。

 「もういいよ…帰ろ?ね?」

 泉は明日香に肩を抱きかかえられて、ようやく立ち上がった。

 部室に戻るともう誰もいなかった。

 泉はリカのロッカーを見た。

 そして、鍵のかかっていないリカのロッカーをそっと開けた。

 「ねぇ、ちょっと…」

 泉はロッカーの中を見ながら言った。

 「何?」

 「どうしたの?」

 明日香と麻衣は泉の肩越しにロッカーの中を覗き込んだ。

 封筒が三通。

 リカからの手紙だ。

 そこには、三人それぞれに宛てたリカの想いが綴られていた。



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