ロッカー
どれくらい泣いただろう。
正直、よく覚えていない。
家に帰るころには外は真っ暗だった。
夕飯も食べずに、制服のままベッドに横になった。
急に引っ越すなんて言われても、そんなの受け入れられるはずがない。
リカ―
いくら手のひらで両目を覆っても、とめどなく涙が溢れた。
いつの間にか眠ってしまったのだろうか。
気が付くと朝だった。
携帯を見る。
クラス委員の子からのLINE。
あれからクラスのみんなで話し合って、記念品と寄せ書きの色紙を準備することになったらしい。
準備ができたら、太田先生がリカに送ってくれるそうだ。
泉は大きく息を吐いて起き上がった。
部活、行かなきゃ―
泉は熱いシャワーを浴びた。
泉はいつものとおりバスに乗った。
昨日の昼から何も食べていない。
そんなことすら忘れていた。
学校へ着くと部室へ向かった。
明日香と麻衣はもう来ていた。
ふいにリカのロッカーを見る。
キーホルダーの付いていない小さな鍵がささっていた。
明日香も麻衣も何も喋らない。
他の部員たちの耳にもリカのことは入っているのだろうか。
いつもはうるさい部室も、今日は気持ち悪いくらいに静かだ。
練習着に着替えて体育館へ行くと、太田先生が待っていた。
練習を始める前に、リカが引っ越すことになったことや、バスケ部でも記念品と寄せ書きを渡すことなどが話された。
この日の練習は軽めに切り上げられた。
他の部員たちが体育館を後にしても、泉はコートの周りを黙々と走り続けた。
息が切れるまで走った。
大粒の汗が長い髪を濡らした。
何周走ったかわからない。
今まで生きてきてこんなに走ったのは初めてかもしれない。
泉はヨロヨロとその場にへたり込んだ。
「泉!」
練習に付き合っていた明日香と麻衣が駆け寄った。
息が上がって声が出ない。
「泉…」
明日香が目に涙をいっぱい溜めて泉の肩を抱きしめた。
「もういいよ…帰ろ?ね?」
泉は明日香に肩を抱きかかえられて、ようやく立ち上がった。
部室に戻るともう誰もいなかった。
泉はリカのロッカーを見た。
そして、鍵のかかっていないリカのロッカーをそっと開けた。
「ねぇ、ちょっと…」
泉はロッカーの中を見ながら言った。
「何?」
「どうしたの?」
明日香と麻衣は泉の肩越しにロッカーの中を覗き込んだ。
封筒が三通。
リカからの手紙だ。
そこには、三人それぞれに宛てたリカの想いが綴られていた。




