どういうこと?
チャイムが鳴って、担任の先生が教室に入ってきた。
若くてきれいな女性の先生だ。
二十代後半といったところだろうか。
とても優しそうな雰囲気で、泉はちょっと安心した。
「おはようございます。担任の太田といいます。保健体育の担当で、女子バスケ部の顧問をしています」
バスケ部?
「これから三年間、みんな一緒に頑張りましょう」
ちょっと、三年間ってどういうこと?
泉の思考回路が一瞬止まった。
「みんなも知ってるとおり、普通科は一クラスしかありません。だから、三年間クラス替えもありません」
クラス替えがないということは、別れがないかわりに出逢いもないということだ。
泉は思わず教室を見渡した。
三十六人。
三年間ずっと一緒?
「私も三年間、このクラスを受け持つことになります。みんな仲良くしようね」
おまけに担任の先生も変わらないの?
しかもバスケ部の顧問だなんて…
泉のテンションは一気に下がった。
「それでは自己紹介をお願いします。じゃあ、男子から。蒼井くんお願いします」
廊下側の一番前の男子が立った。
「二中から来ました、蒼井優太です。好きなスポーツはバスケットボールです。二中ではバスケ部でした。よろしくお願いします」
泉はドキッとした。
何だろう、この感じ。
今まで感じたことのないような。
何これ?
どういうこと?
泉は優太のことをずっと見ていた。
「じゃあ、次。女子いきます」
泉はハッとした。
いつの間にか、男子九人の自己紹介は終わっていた。
どうしよう。何も考えてない。
結局、何を言うかまとまらないまま順番がきてしまった。
「えっと、四中から来ました。白川泉といいます。よろしくお願いします…」
泉はなぜか恥ずかしくて、下を向いてすぐに座った。
女子の自己紹介ももうすぐ終わりだ。
残すは窓際の最後の一列。
泉は自然とそっちに視線を向けた。
「はじめまして。増渕麻衣です」
華奢で小柄。髪の毛を両側で束ねたその姿は、童顔なのもあってとても同い年には見えなかった。
何あの子。可愛い―
泉は同性ながら思わず見惚れた。
「二中出身で、二中ではバスケ部のマネージャーをしていました。よろしくお願いします」
二中のバスケ部?
マネージャー?
泉は思わず優太を見た。
なぜだか胸がチクチク痛んだ。
「谷口さん」
休み時間、麻衣がリカのところにやってきた。
リカの知り合いなの?
「四中のバスケ部の谷口さんでしょ?」
笑顔が眩しいとはこのことかもしれない。
「はい。そう…ですけど…」
「やっぱり。そうだと思った」
なんて人懐っこい笑顔なんだろう。
「私、二中でバスケ部のマネージャーしてたから、見たことあるなって思って。よろしくね」
「あ、よろしく…」
リカも戸惑っている。
泉と明日香は顔を見合わせた。
「フチ子」
「あっ。優ちゃん」
「またマネージャーすんのか?」
「うん。そのつもり」
フチ子?
優ちゃん?
何?
蒼井くんと増渕さんってそんな関係?
泉のテンションはまた一段と下がった。
「泉?どうかした?」
明日香は泉を見た。
「別に…」
何だろう。
胸の奥がザワザワする―