応援
「さむっ…」
真夏の体育館は地獄だが、冬の体育館は体の芯から冷やされる。
新人大会。
年が明けて、新チームになって初めての公式戦。
泉は今日もスタンド席だ。
リカはもちろん、隣の席には明日香も麻衣もいない。
寂しい。
でも、決めたんだ。
今日は全力でリカと明日香の応援をするって。
「泉ちゃん、お疲れさま」
振り返ると、引退した三年生の先輩が応援に来てくれていた。
「あ、お疲れさまです」
多少心細かった泉は少し安心した。
「男子も来てるみたいね」
「えっ?」
先輩の視線の先には男子部員。
優太の姿もあった。
一瞬、優太と目が合った気がして、泉は慌てて下を向いた。
「どうしたの?」
「いえ…何でもないです…」
もう、何でいるのよ―
いよいよ試合開始。
リカも明日香もベンチスタート。
開始早々の失点。
力の差にもよるが、そもそもバスケは点を取ったり取られたりの繰り返しだ。
しかし、だからといって、いきなり簡単に取られるのは気分のいいものではない。
常に追いかける展開で、なかなか追いつけないまま迎えた第2ピリオド。
リカだ。
「リカ!頑張って!」
泉は思わず叫んだ。
試合はその後も交互に点を取り合う形で、一向に点差は縮まらない。
そして、あっという間に前半が終わってハーフタイム。
点差は五点。
追いつけない点数ではない。
「谷口、頑張ってるな」
泉は驚いて振り返った。
「何だよ?」
優太だ。
「何でこんなとこにいるの…?」
「何でって、応援しに来たんだよ」
急に現れたらドキドキする。
「あ、そう…」
緊張して上手く喋れない。
「じゃあな。頑張れよ」
「うん…」
優太は他の男子部員が座っている席の方へ戻って行った。
びっくりした―
体育館の寒さも感じないくらい、泉の顔は火照っていた。
試合は淡々と進み、追いつけそうで追いつけない。
最後の第4ピリオドも、残り時間はあとわずか。
まだ三点負けている。
リカ。頑張って。
泉は祈る思いでコートを見つめた。
時計を見る。
残りあと12秒。
もう時間がない。
ボールがリカに渡った。
あと5秒。
ドリブルで相手をかわす。
あと2秒。
リカ!
シュート。
入れ!
スリーポイントラインの外側から放たれたリカのシュートは、そのままエンドラインを割った。
ブザーが鳴った。
リカはその場にへたり込んだ。
チームメイトに促されてベンチに戻る。
明日香は拍手でみんなを迎えた。
この試合、最後まで明日香の出番はなかった。
試合後、一旦学校の部室に集まってミーティングが行われた。
太田先生の挨拶があり、そのまま解散。
「さ、帰ろ帰ろっ」
リカは相当悔しかったのだろう。
無駄にテンションが高い。
誰が見ても空元気だ。
こんなとき、泉はリカのテンションに合わせるようにしている。
「泉…」
麻衣が泉の上着の裾を引っ張って、椅子に座ってうつむく明日香に視線を向けた。
「明日香…どうしたの…?」
泉が明日香のそばに行くと、明日香は黙って泉の手を握った。
小さく震える明日香の手の甲は、わずかに濡れていた。




