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泉 -Spring-  作者: zaku
18/30

応援

 「さむっ…」

 真夏の体育館は地獄だが、冬の体育館は体の芯から冷やされる。

 新人大会。

 年が明けて、新チームになって初めての公式戦。

 泉は今日もスタンド席だ。

 リカはもちろん、隣の席には明日香も麻衣もいない。

 寂しい。

 でも、決めたんだ。

 今日は全力でリカと明日香の応援をするって。

 「泉ちゃん、お疲れさま」

 振り返ると、引退した三年生の先輩が応援に来てくれていた。

 「あ、お疲れさまです」

 多少心細かった泉は少し安心した。

 「男子も来てるみたいね」

 「えっ?」

 先輩の視線の先には男子部員。

 優太の姿もあった。

 一瞬、優太と目が合った気がして、泉は慌てて下を向いた。

 「どうしたの?」

 「いえ…何でもないです…」

 もう、何でいるのよ―


 いよいよ試合開始。

 リカも明日香もベンチスタート。

 開始早々の失点。

 力の差にもよるが、そもそもバスケは点を取ったり取られたりの繰り返しだ。

 しかし、だからといって、いきなり簡単に取られるのは気分のいいものではない。

 常に追いかける展開で、なかなか追いつけないまま迎えた第2ピリオド。

 リカだ。

 「リカ!頑張って!」

 泉は思わず叫んだ。

 試合はその後も交互に点を取り合う形で、一向に点差は縮まらない。

 そして、あっという間に前半が終わってハーフタイム。

 点差は五点。

 追いつけない点数ではない。

 「谷口、頑張ってるな」

 泉は驚いて振り返った。

 「何だよ?」

 優太だ。

 「何でこんなとこにいるの…?」

 「何でって、応援しに来たんだよ」

 急に現れたらドキドキする。

 「あ、そう…」

 緊張して上手く喋れない。

 「じゃあな。頑張れよ」

 「うん…」

 優太は他の男子部員が座っている席の方へ戻って行った。

 びっくりした―

 体育館の寒さも感じないくらい、泉の顔は火照っていた。


 試合は淡々と進み、追いつけそうで追いつけない。

 最後の第4ピリオドも、残り時間はあとわずか。

 まだ三点負けている。

 リカ。頑張って。

 泉は祈る思いでコートを見つめた。

 時計を見る。

 残りあと12秒。

 もう時間がない。

 ボールがリカに渡った。

 あと5秒。

 ドリブルで相手をかわす。

 あと2秒。

 リカ!

 シュート。

 入れ!

 スリーポイントラインの外側から放たれたリカのシュートは、そのままエンドラインを割った。

 ブザーが鳴った。

 リカはその場にへたり込んだ。

 チームメイトに促されてベンチに戻る。

 明日香は拍手でみんなを迎えた。

 この試合、最後まで明日香の出番はなかった。


 試合後、一旦学校の部室に集まってミーティングが行われた。

 太田先生の挨拶があり、そのまま解散。

 「さ、帰ろ帰ろっ」

 リカは相当悔しかったのだろう。

 無駄にテンションが高い。

 誰が見ても空元気だ。

 こんなとき、泉はリカのテンションに合わせるようにしている。

 「泉…」

 麻衣が泉の上着の裾を引っ張って、椅子に座ってうつむく明日香に視線を向けた。

 「明日香…どうしたの…?」

 泉が明日香のそばに行くと、明日香は黙って泉の手を握った。

 小さく震える明日香の手の甲は、わずかに濡れていた。



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