心配すんな
二日後、麻衣は元気に部活に顔を出した。
「麻衣、大丈夫?」
泉たちは心配そうに麻衣に駆け寄った。
「うん。心配かけてごめんね」
麻衣は申し訳なさそうに言った。
「フチ子、ほんとに大丈夫か?」
優太も心配そうに言った。
「うん。大丈夫」
「そっか。無理すんなよ」
「うん」
「白川なんか、心配してあれから俺に電話してきたんだぞ」
「そうなの?」
麻衣は泉を見た。
「あ、あれは明日香が蒼井くんに電話しろって言うから…」
泉は明日香に目をやったが、明日香は知らん顔をしている。
「ありがと」
麻衣は嬉しそうに笑った。
「ほんと、無理はしないでね」
「うん」
よかった。
まだ少し顔色は良くないように見えたが、とりあえず元気そうだ。
真夏の体育館は地獄だ。
梅雨の蒸し暑さもかなり堪えたが、夏の暑さは尋常じゃない。
こまめに水分を摂らないと、本当に倒れそうだ。
麻衣は大丈夫だろうか…
泉は練習中もときどき麻衣の様子を見ていた。
太田先生が近くにいるときは安心だが、麻衣が一人で仕事をしているときは気が気じゃなかった。
やっぱり、マネージャーしようかな…
でも、ようやくバスケが好きになってきたのに、ここで辞めてしまうのももったいない気がする。
泉の心は揺れていた。
そんなある日、麻衣が部活を休んだ。
どうしたんだろう…
「ねぇ、麻衣は?」
明日香もリカも何も聞いてないらしい。
「蒼井くん、麻衣は…?」
泉は思い切って優太に尋ねた。
「今日は検査だよ」
「検査…?」
「あぁ。定期的に心臓の検査受けてんだ。フチ子何も言ってなかったのか?」
「うん…」
「そっか。悪いな。でも心配すんな」
泉は優太の言葉に少し安心した。
あとで連絡してみようかな。
泉は部活が終わると、麻衣にメールした。
しかし、その日は夜になっても麻衣からの返信はなかった。
どうしたんだろう。
泉は何とも言えない不安な気持ちでいっぱいになった。
翌朝、泉は起きてすぐに携帯を見た。
麻衣からの返信はない。
泉は妙な胸騒ぎを覚えた。
部活に行くと、今日も麻衣の姿は見えなかった。
優太を見つけた。
「蒼井くん、麻衣は…?」
泉は無意識に優太の腕をつかんでいた。
「あ、ごめん…」
慌てて手を離す。
「入院した」
「えっ…?」
「昨日、入院した」
「入院…?」
「あぁ」
「ねぇ、入院ってどういうこと?どこか悪いの?」
「ただの検査入院だよ」
優太の話によれば、定期の検査で特に異常が見つかったわけではないのだが、若干血圧の低下が見られたことと、こないだの貧血のことも気になるので、念のため入院して様子を見ることになったのだという。
「だから心配すんな」
優太のその言葉は、自らに言い聞かせているように思えた。




